NPO地域デザイン研究会講演会
『求められる関西の構造改革』
開催結果概要報告
「求められる関西の構造改革」をテーマとする講演会 (NPO地域デザイン研究会主催)が12月2日、さいかく ホール(大阪府立文化情報センター)で開催され、関西の都市再生など幅広い分野で活躍中の吉川和広先生(京都大学名誉教授、関空交流館館長)が「関西の活性化とまちづくり」について基調講演。その講演を受けて、吉川先生、まちづくりコンサルタントの樋口信子氏(樋口都市設計代表)、平峯悠理事長の3人に「今後の関西の構 造改革をいかに進めるべきか」について話し合っていただいた。 ○日時 2002年12月2日(月) 14:00〜17:00
○場所◇さいかくホール(大阪府立文化情報センター)
○プログラム
開会の挨拶(藤田)◇開会挨拶 藤田 健二(NPO地域デザイン研究会副理事長)
◇基調講演 「関西の活性化とまちづくり」
吉川 和広(京都大学名誉教授、関空交流館館長)
◇休憩◇吉川先生に聞く 「関西の構造改革をどうすすめるか」
吉川 和広(京都大学名誉教授、関空交流館館長)
樋口 信子(まちづくりコンサルタント、樋口都市設計代表)
平峯 悠(NPO地域デザイン研究会理事長)◇閉会挨拶 岩本 康男(大阪市計画調整局長)
○開会挨拶−藤田健二
- NPO地域デザイン研究会は、専門家集団のコーディネータとして、国の内外に渡り幅広く活動し、よりよい都市や地域の環境づくりに向けて、提言・発信している。
- 関西の諸都市は成熟を見ることなく、衰退が忍び寄っているということが、実態ではないかと思う。まさに、関西の存在そのもの、都市圏自体の構造の本質を揺るがす大きな構造的変化 が起こりつつあると考える。
- そのことを関西の一人一人のみなさん方が真剣に受け止めて、真の危機意識を持って、現在と今後の関西の都市のあり方を、社会・経済・物的環境の面から総合的に捉え直すことが大切でないか 。
- 本日はそういった面からも。関西の都市再生など諸方面においてご活躍されている、吉川和広先生をお招きして、関西の活性化とまちづくりについて、幅広くかつ忌憚のないご意見をいただけるご講演をお願いしている。
- また、そのご講演を基に、吉川先生を中心に、今後の関西の構造改革を如何に進めるべきかについて、平峯理事長と、まちづくりコンサルタントの樋口信子様の間で論じあってもらいながら、フロアのみなさんの参加いただき、多くの示唆と提言をいただければと思う。
- 本日のこの機会が新しい元気な関西を再構築するための強力な一歩につながること、また、皆様方の積極的なご協力により有意義な時間となることをお願いしてご挨拶とする。
○講演内容
◇基調講演 「関西の活性化とまちづくり」 資料
- 経済的活力と都市的魅力の低下により、関西圏は絶対的衰退の危機にさらされているが、関西人の認識は甘い。
- 20世紀と同じ発想では、世界的な市場メカニズムに沿った企業の流出を防ぐことはできない。
- 関西の強みであるBGN(バイオ、ゲノム、ナノ工学)などの知識産業の振興による産業の再生が必要。
- 内外の企業・人々が関西を訪問・居住・労働したいと思うようなアメニティ豊かな居住環境、集客環境を整備することが必要。
- 人々の「長期期待」に明るい展望を与えるための公共活動が必要不可欠であるが、その公共活動は、「上部構造:スープラ(Super Structure)」=未来ビジョンによる地域社会の方向づけとそれを具体化する戦略づくりと、「下部構造:インフラ(Infra Structure)」=人々の社会経済活動を下支えするための社会基盤の両方がなければならない。
- 民間主導による都市再生をすすめるには「創造促進税制」のような効果的なインセンティブを、各地域ごとにきめ細かく実施していく必要がある。
- 研究者のヒューマン・ネットワークに、産業を結びつける知識回廊の形成を目指すべきである。
- 大阪湾諸港において、国際ターミナルオペレーターのような効率的、商業的運営を行うことのできるターミナルオペレーターを育成し、コマーシャルポート化を進め、トランシップ機能を強化し、国際拠点港湾としての地位を回復することが重要。
- 21世紀の創造型社会におけるフェイス・ツウ・フェイスのコミュニケーションの増大、観光ビッグバンの到来によるアジア太平洋地域での国際観光需要の増大からみて、関空2期事業の実施、3空港の一体的な運用システムの開発が重要。
◇吉川先生に聞く 「関西の構造改革をどうすすめるか」
◆(平峯)地域整備における時間軸−長期の計画と目前のなすべきこととの関係−について
(吉川)地域整備における計画として時間タームの長い順に、「ビジョン」「グランドデザイン」「プログラム」「プロジェクト」がある。
長期の計画では、将来、この地域をどういう風にしたいかということで、現状の制約をはずして描くべきである。
長期の計画で必要されたものについて、どうすれば制約をはずして実行可能となるのかという施策を時間軸に沿ってブレークダウンするのが本当の計画である。◆(樋口)人口減少、経済成熟の時代においてインフラの整備水準をどう考えるべきか
(吉川)ニューヨークが一時期疲弊していたが、その時は道路や橋梁の維持状態も悪かった。インフラ整備が落ち込むと経済も落ち込む。このような情報を与えた上で、どのような整備水準で満足するのかという満足水準をはっきりさせて、整備水準を議論すべき。
◆(樋口)縦割り型の役所において「スープラ」と「インフラ」の一致した公共活動が可能か
(平峯)今の都市再生を取り扱うには、今の役所の機構では難しいと思う。この辺の仕組みを変えていくことが必要。
(吉川)強力なリーダーシップがあれば可能。また、国よりも地方の方が面的整備の経験があるなど素地はある。
◆(平峯)関西の人材について
(吉川)関西の人材は、数から言えば東京より少ないが優れた人材はいる。ただし、人材はほっといて育つのではないので、活躍できる場を与える必要がある。
また、グローバリズムの時代においては、関西で丸抱えするのではなく、内外の人材を交流・連携により活用することが必要。そのために、このような人材にいつでもアクセスでき、ヒューマン・ネットワークを構築できるよう空港をはじめとするインフラ整備などにより、人材を使えるシステムづくりが重要。◆(樋口)昔は、大阪の民間企業が公共的な仕事もして、大阪の発展に寄与したように聞いているが、昨今では、そのような企業もかなりの数が東京に本社を移している。残った企業に、そういう気概を持ってもらうにはどうするか。
(吉川)昔は、大阪の商人が街をつくった。谷町筋も、旦那衆が作った。豊かな経済力を持った人が地域のために尽くすという風土があった。昨今では、失われてきている。
しかし、大阪ガスや関西電力、大阪府などは、どこへも行けない。そういうところと一緒になって、どうするかということを考え、実行していく必要がある。
また、大阪に優秀な企業を呼び込む、あるいはベンチャー企業を育てるために、インセンティブをどうするかということを、もっと考えないといけない。◆(平峯)大阪の都心の求心力が落ちているような大阪の都市構造をどう考えるべきか。
(吉川)経済再生のための都市再生では、経済的効率の面から集中主義となっている。ただし、人間性豊かな社会を築くためには、長期では集中主義だけではいけない。◆(平峯)関西における鉄道の役割について
(吉川)予算の面などの理由で、鉄道の整備が遅れていることは事実。これまで、鉄道によって、関西の都市が発展してきたということを踏まえ、21世紀に鉄道をどう生かしていくかということを、考えていく必要がある。
◆(平峯)密集地市街地整備における住民参加のまちづくりについて
(樋口)何でも住民まかせではだめである。市街地の将来像(長期期待)や骨格的インフラについては行政が明確に示す必要がある。ある程度強制力を持ってあたることが必要と思っている。
(平峯)密集市街地をどのようなまちにするかというビジョンが描けていないように思う。
(樋口)その通りである。小規模なプロジェクトだとなかなか日があたらない。そんな中、寝屋川市駅東側については、緊急都市再生プロジェクトにも挙がっていることだし、頑張ってもらいたい。
(吉川)神戸の復興まちづくりの過程で、地域のことに関しては、住民のみなさんは熱心に意見を出して、取り組んでこられたと思うが、神戸市全体のたとえば骨格道路については、なかなか関心が薄い。どうすれば、広域的なことにも関心を持って参加してもらえるか。
閉会の挨拶(岩本)(樋口)時間をかけて説得し勉強してもらうしかない。何割かはわかってもらえない人がいるのはしかたがない。
行政が決めることと、住民参加で決めることをはっきり分けるべき。何のビジョンもなく、住民参加を進めると不信感を増幅させるだけ。(吉川)行政と住民の間を機動的につなぐNPOのような組織が必要。
(平峯)将来まちをどうするかということまで、立ち入って、議論しないと本当の意味で合意形成とはならないと思う。別のシステムを構築する必要がある。
○閉会の挨拶−岩本康男
吉川先生、樋口さん、どうもありがとうございました。
吉川先生におかれては、講演に加えて、そのあとの対談にもご出演いただき、たっぷりとお教えいただきありがとうございました。
関西で人材を育て、定着させようとすれば、需要をつくる、仕事を作ることが何よりも大切と考え、その面において頑張らなければならないと決意を新たにした。