●第二楽章「若手研究者・学生に期待すること」


(岡村)

 第二楽章では、若手研究者や現役学生に対し、道路や鉄道分野をリードしてきた3人に話題提供をしていただきたい。

「未来へ向けて土木技術者の目指すもの」 話題提供:木下博夫

 私は手短に4つのことを話したい。

まず日本の土木技術の現状について、時代をどう読むのか。

 私の認識は、国内の現場力は強化され、既に成熟期に入ったといえる。一方で、発展途上国や新興国に対し、国内で培った技術で貢献しなければならない。しかし、人口13億人の中国や人口8億人のインドが欧米と同様な手法で進もうとすれば、地球は破滅する方向に向かってしまう。技術分野の相互連携、複合化の中で、我々は新興国の相談相手となって貢献していく姿勢が大事だろう。

 また、従来のつくる論理は、使う側の要望とマッチングしていたのかどうか。使う側は勝手気ままに使っている状況ではないのか。そのリード役は土木技術者の役割だと思う。国土計画は開発の時代、均衡ある発展の時代を経て環境重視の時代へと変化を遂げてきた。最近では交流、参画の時代になり、新しい「公」を考える機運にあるが、そのパイプ役としても土木技術者の役割があるはずだ。

 既存の土木技術は優れている。その中で環境を重視し、超寿命化を求め、高度化に対応するとともに、心に通じるものでなければならない。国のかたち、地域のかたちを考えていないと、いくら部品が備わっていても、ばらばらの状況になってしまう。単に人口規模で判断するのではなく、例えば高齢化社会の中での違ったテーマとして、従来の土木やまちづくりの手法を乗り越えていくような取り組みが大事だと思う。

「社会資本整備に新しい思想を」 話題提供:星野鐘雄

  私は1つだけ提案したい。それは「社会資本学」を立ち上げてほしいということだ。私が土木工学科を選んだときに、何をなぜ使うのかを学びたかったのだが、大学にはそういった講座はなかった。都市計画を専攻したが、どちらかと言えば道路計画だった。国鉄に入ってからはトンネルや駅をつくった。そして運輸省の大臣官房に行ったときに、初めて交通政策論に携ることができた。今は評判の悪い空港特別会計や全国新幹線網計画にも携った。当時は高度経済成長時代だったから、手段別に道路や港湾、空港、鉄道、それぞれで財布を持って整備していくことになった。残念ながら鉄道だけは財源がないので、借金で新幹線などをつくり、結果的に潰れることになる。空港特別会計は自慢の特会だったのに、今では不良になった。目的別でなく、手段別の社会資本整備だったわけだが、一部の学者からは総合交通体系にしたらどうかという話があった。これは全体の財源をプールして、国として必要な資本投資をするというような公共経済的なものだが、結果的に公共経済的な方向性は敗れ、市場経済へとシフトしてしまった。私としては、交通政策の挫折を味わった。

 これから社会資本整備に携る人たちは、大変苦しい道を歩かなければならないと思う。塩野七生さんは、古代ローマ人は「人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業が、社会資本整備の目的」と定義していたと著書の中で語っている。インフラはハードだけでなく、ソフトな制度までを含んでいる。これをかなえるための国家のインフラ整備の戦略として、さきほどの先生方から様々な話をしていただいた。先生方の意見・提案はそれぞれにもっともなことだが、かなり多様で一つにまとめることはできにくい。

 先ほどの意見の中に「新しい公」という話が出たが、公共とは何ぞやということを我々以外の、政治、経済、社会、哲学、心理など人文科学系分野では非常に勉強されている。一つの例として「公共哲学」という本があるが、残念ながらこの文献に土木屋が語った公共論がない。一方で、東大の研究所では「希望額」をいろんな分野の方々が携わっており、例えば釜石で地域再生をするにはどうするかということが、実際のフィールドで行われている。 私の提案だが、今までいろんな方々が話したことを含め、「社会資本学」のようなことについて産官学、市民やNPO、あるいは現場を含めてプラットホームをつくり、ぜひ社会資本学講座を興してほしい。かつて土木計画学というのがあり、景観工学、風土工学など魅力的な学問にシフトしていったことがある。魅力のある分野が出てくると学生もやって来るのではないのか。私はいつも行き詰ったときに、梅棹忠夫先生の「文明の生態史観」を読む。昭和31年に書かれた本だが、世界を第一地域と第二地域に分けて、日本とヨーロッパ、アメリカが一つの世界で、ロシア、中国、イスラム、インドは別の社会だと提案している。こうした大胆な仮説のように、若い人たちのために、壮大な仮説「社会資本学」を立ち上げていただきたいとうのが、現役を引退したものとしての希望である。

「若い人たちへ」 話題提供者:山部茂

 私が提案者として選ばれたことを考え直してみると、1つは民間事業者であること、もう1つは現役であること。これら2つを前提に4つのキーワードについて話したい。リクルートの季節であり、最近当社に学生さんが頻繁に訪れる。従業員に言うことは「よく吟味して選ぶように」と。なぜかと言えば、3億円の品物を買うようなものであり、3億円の効果のある人を選んでほしいからだ。

<鉄道企業における建設技術者の役割>

 鉄道会社には建設部門とメンテナンス部門の2つがある。過去は土木系、建築系の人は建設部門に行く人が多かった。私自身は建設部門には全く行かず、ずっとメンテナンス部門にいた。昨年6月から難波のまちづくりに関わることになり、建設部門にも携ることになった。保線部門を中心に構造物一筋にやってきたため、地域デザイン研究会のメンバーとも仕事上での接点があまりなかった。しかし、民間企業では、最後は子会社も含めての経営者になる可能性も高い。そして技術職と事務職の区別があまりない。技術職として入社しても、いずれは事務的なことにも携ることになる。

<官と民との役割分担>

 2点目として、官と民との役割分担を整理してみた。官の役割としては、規制と利益誘導による施策、民では採算が合わない公共的色彩の強い施設の建設と維持、採算の厳しい民間事業への補助、最近ではPFI等の官民によるコラボレーションなどを行う。それに対し民の立場は、はっきり言えば利益の出る事業しかやらないというのが基本。利益を出すために、行政気分の役所の縦割り組織を超えた事業展開もする。

<民間企業(特に鉄道企業)の投資スタンス>

 3点目として、民間企業の投資スタンスとはどんなものか。最初から完成物をめざすことはあまりない。長期的視野で一つずつやっていく。不採算事業からは早期に撤退する。この辺りが官のスタンスとは違う。そしてソフト戦略と融合する。利益最大化への追求をする。失敗した場合には責任を明確化する。

<若い人たちへの期待>

 これらを踏まえて、若い人への期待として6点を挙げたい。


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