基調講演

「人口減少時代の魅力的な都市開発」

講師:神田昌幸氏(富山市副市長)

 これまでの講演を聞いていて、本日の講演は起承転結になっているのではないかと思っている。岩本さんの講演が「起」で、これが実質的に基調講演であり、その次の鉄道事業者の方の都市と開発を含めた歴史的発展経緯の講演が「承」、私が「転」で外から見た視線で議論を少しかき乱せ、と言うことかと思っている。

 前回の2月のプロジェクト研究から今日までの間にこのすざましい災害があったことを踏まえ、されど日本を元気になっていかなければならないと言うことで、大都市において如何に魅力的なまちづくり、都市開発をするかと言う話題に入りたいと思う。我々が各々がんばることが日本を元気にすること、東日本を支援することに繋がると思う。

 国土交通省都市局においても審議会の中でコンパクトシティを進めようと言うことにしたが、その時に宿題があった。大都市におけるコンパクトなまちづくりとはなんだ、と言うことに明確な答えが出ていない状態にある。その中で今日はこれではないかと言う結論をお話する。残念ながら日本は人口減少であるから、そのトレンドの中で都市の成長を如何に可能にあるか、この答えを出さなければならない。それから都市を魅力的にすることが大切。対決法案になる心配をしたが、都市再生特別措置法の改正が通り、その改正都市再生法を以下に活用するか。それからエリアマネージメント。大阪なりのエリアマネージメントが進んできているので、これを実践することが魅力的なコンパクトなまちづくりに繋がる。

 人口ピラミッドは日本は団塊の世代と共に高齢化してきており、高齢化が進む推計になっている。数日前、藤井聡京大教授と話した時、「日本は元気になり、出生率は上がって、人口問題はなんとかなる」とおっしゃっていた。藻谷氏の「デフレの正体」と反対の論であるが、藻谷氏の論を受けると、個人消費も落ち、生産年齢人口が減ることにより、発展はなかなか難しくなると考えられる。
 世界各国と比較では、人口ピラミッドを横にすると、日本は団塊の世代と第2次ベビーブーマーが上に出てM字型になっている。中国もM字型で、ロシアも完全にM字型。ドイツはM字型になっていない。日本は先進国で最も早く少子高齢化になる。若干スエーデンの方がピークは早いがスエーデンは出生率が高いので、人口が落ちない。中国は一人っ子政策を取っているので、急速に高齢化するため、日本がどのように対応してくるか、興味津々で見ていると聞いている。
 各県別の2005年から2035年までの高齢者人口の増加を見ると、鳥取県、島根県はあまり増加しない。ほとんど高齢化社会が見えてきたと言われる。これから大都市において高齢者問題が顕在化してくる。東京は高齢者も増えるが、埼玉県・千葉県ではひどい状況になると言われ、後期高齢者が増えベッドが空かない等、専門家の世界では「埼玉千葉問題」と言われる。日本で一番入院期間が長く取れるのは高知県であり、短いのは当然大都市となっている。
 2010年に人口のピークを打つが、1920年から2100年の長いスパンで見ると、人口は見事な逆V字型となる。右肩上がりの時代は需要追随型でインフラを整備していけば良かったが、これからは総人口も生産年齢人口も落ちてくるので、ボリュームを作ってもダメで、質を改善していく時代になり、都市政策はマクロ政策中心からミクロ政策中心にやって行かなければならないと強く思っている。都市政策においてパラダイムシフトが起きている、と言える。

 これまで効果のあったマクロ政策も限界であり、更に量的充足から質的改善へのニーズの転向があり、ものを対象とした施策から人に着目した施策に行かなければならない。今日の発表を聞いているとそのヒントが出始めているように思える。質的改善はミクロ的政策により初めて可能になるが、そのためにはひとつひとつをしっかりと作り込んでいくと言うこと。都市におけるミクロ政策とは、区画整理等の個別事業、地区計画、景観・歴史・文化を重視するまちづくり、中心市街地活性化など。

 人口減少時代に入っているので時期を逃さず、プロジェクトを実施することが重要である。人口だけでなく財政も、今のままでは苦しく、色々とプロジェクトを実施することが難しくなってくる。一方、新たなミクロ的施策の手法が出現している。新しい公共、例えばNPOとか、それから日本で一番遅れているコミュニティファンド系のお金とか、こう言ったことがうまく廻っていくと言うことが重要となってくる。世界的には株主に配当しない株式会社、非営利的な株式会社が出始めている。このようなお金の回り方がアメリカと日本では全然違う。

 それから人を幸福にさせるミクロ的施策が必要であろう。今一番関心をもっているのは健康で、究極の質は健康にあると思っている。健康・医療・福祉と本格的に連携した施策が必要である。ユニバーサルデザインとか福祉のまちづくりとか言ってきたが、本格的に連携したものではない。そして地価の動向を踏まえた個人資産運用の最適化。郊外では、公共交通の問題とか買物難民の問題とかあって、地価はどんどん落ちてくることが考えられる。個人の資産を考えると、やはり都市はコンパクトになっていくであろうと言うことも考えておく必要がある。

 コンパクトシティの必要性は環境対策、CO2排出削減対策が中心に言われているが、今の日本でコンパクトシティの先進都市である青森市が何故コンパクトシティを目指したかというと除雪である。広がった地域では除雪が出来ない。除雪だけでなく、下水道、道路の維持修繕など、行政コスト削減の面からもコンパクトシティが必要になってきている。

 更に、人がバラバラに住んでいるとなかなか交流が出来ない。中心市街地活性化は人が集まってきて交流すると言うことが大変重要である。最近はソーシャルキャピタル、人間の信頼関係、絆が重要になって来ているが、絆を育む社会を実現する上で交流が重要になってくる。大梅田も人が集まるだけでなく、交流の機会をどう作るかが重要である。

 それから、超高齢社会での健康・医療・福祉を重視したまちづくりにおいてもコンパクトシティであることが重要となる。富山市は合併してきており、色々な集落がある。これを公共交通で結ぶとことを目指しているが、森富山市長がおじいちゃん、おばあちゃんに説明する時、集落を団子に例え、公共交通という串で団子を繋ぐと言ったらよく理解された。富山が進めるコンパクトシティは団子と串が基本で、中核都市レベルではこの対応で良い。もう少し突っ込んでいくと、公共交通の沿線にしっかりしたまちを作っていくことになる。

 先ほども、大阪駅周辺が元気になっていくためには鉄道沿線の市民の生活が充実することであることが紹介されたが、そのとおりだと思う。

 大都市におけるコンパクトなまちづくりとは、一言で言うと「人々の日常の生活形態がコンパクトになること」である。鉄道に乗っている距離は長くても良いが、その他の行動形態がコンパクトであること。そして開発がサスティナブル(持続可能)であること、もしくは更新可能であること。次に、公共交通と土地利用が一体的に、駅を中心に開発されること。更に都市空間がヒューマンスケールで、魅力的であること。

 富山市でのコンパクトシティは、徒歩圏に医者、買い物するところ、福祉センターなどがあり、日常は徒歩圏で生活しており、必要があるときは路面電車とか公共交通で移動するようなまちづくりを目指している。

 人にターゲットを置いたまちづくりの問題提起であるが、脳卒中を起こしてリハビリ中の人に協力を頂いて、どのような道を歩くか呟いてもらっている。人々がどのように行動するか重要で、ICT関係技術が発達してきてデータが取れるようになって来ている。人の属性とまちを重ね合わせると、まちの中で人々がどのように行動しているかが判る。そのようなことを考えてまちづくりをするようになって来ている。

 高層ビルがある上海を目指すのか?それが良ければ目指せば良いが、果たしてこれで良いのか?も考えなければならない。一方、ブレーメンは高いビルはないが、集約都市構造でサステナブルであり、歴史があり魅力的なまちである。

 富山市では新しいLRT、セントラムが出来、非常に人気がある。まちの真ん中にグランドプラザと言う良い空間を作り、人が沢山集まってくる。中核都市においても核を作ることが重要であり、これは再開発と公共空間のコラボレーションである。富山城や市役所、県庁に近い総曲輪地区では、どんどん再開発されて、マンションがボコボコ建ち、完成前には完売している状況にある。このような魅力的な都市に立て直さなければならないが、パリの道路では公共交通がバス・タクシー・自転車別に別れており、自転車が優先となっているレーンが出来ている。自転車はデリブと言われるシクロシティであるが、日本で初めて入ったのも富山市である。カードでキーを外すことが出来、30分以内であれば無料であるし、どこで借りても返しても良いコミュニティサイクルである。

 歩いて暮らせるまちづくりであるが、自然と歩いている、まちやみちが魅力的で歩きたくなる都市政策が重要であろうと考えている。医療コストの面からも歩くことが重要で、今の日本人は一日に男性で7,000歩、女性で6,000歩であるが、8,000歩を目指して欲しい。8,000歩になると糖尿病の発症率が激減し、体力低下の防止ができる。4,000歩だとうつ病の入り口段階となり、このあたりを頑張らないと日本は大変なことになろう。

 国際競争力とか成長戦略を支える都市再生特別措置法の前倒し延長、改正を行ない、特定都市再生緊急整備地域を作った。梅田地区がこれを目指している。事業の円滑化、規制緩和、金融支援、税制支援が出来るようになっており、日本のエンジンになって良いだろう。都市の地位について、上海に比べ厳しい状況にあり、新しい主体を含めてやって行かなければならないのが日本の状況である。

 特定都市再生緊急整備地域では、立体道路制度を踏込んで、ビルの中に道路・通路が作れるようになった。また、事業制度を私が作ったが、44億円の予算が取れている。調査費も2億円あるので是非使って欲しい。民都機構の600億円の金融支援も認められた。税制についても今の都市再生緊急整備地域より特典がある。

 新たな担い手による自発的、戦略的なまちづくりついて大阪のやり方に期待しているし、まちなか居住、コンパクトシティについて大都市版を大阪なりの提案ができると期待したいと思う。

 最後、思いきり端折ったが、起承転結の転の部分を終わる。


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