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大阪IRは阻止しなければならない 

平峯 悠

 大阪市と大阪府は2029年にIRを開業させることに奔走している。住民投票を求める請求を拒否し、地盤改良費の増額支出も決め、なりふり構わず突き進んでいる。その正否は議会での議論だけ、形式だけの住民説明に終始している。そもそも南港へのIR誘致は、負の遺産と非難された埋め立て地の利用からで、その第一の理由が「大阪の活性化」であった。その発端は、橋爪某教授がシンガポールをモデルにして大阪の活性化を図る手っ取り早い方法として提案し、金に目がくらんだ行政のトップを含め追随者が後押ししてきたものである。

IR=統合型リゾートといっても所詮賭博の寺銭で運営され、その事業者は外資系である。また大阪での入場者の7割が日本人で3割が外国人という枠組みで、年間売り上げの8割がカジノからの収入と試算されている。要は多くの日本人が賭博で負けてその金でイベントやその他のリゾートを運営する仕組みであることは間違いない。

その問題をいくつかの視点で明らかにする。

第一は、日本人の生活感覚や道徳観である。最近では金融資産運用、バブル的な不動産売買等で巨大な資産を手に入れることができるようにはなったが、日本人の本質は勤勉で骨身を惜しまず働き、得た資産は、お世話になった世の中・社会に還元するというのが根底にあり、それが日本の良さや文明・伝統を作り上げてきた。

博打に使うのはあぶく銭を持った成り上がり者である。博打に手を出すのは「ヤクザ」であり、お天道様の下では身を縮める半端物であるという道徳観がある。そのような日本人・関西人がカジノに頻繁に通う訳がない、またそうなったら日本は破滅するしかない。ギャンブル依存症以前の問題である。

第二は、都市論からの問題である。大きな集客能力を持つ施設の都市への効果は、インフラ整備や土地利用の再編に資すること、更に都市の戦略としてのアイデンティティやイメージの構築である。南港の外れにある当該地がそれに役立つとは思えない。大阪湾の海上都市・湾岸都市への起爆剤などという戦略のトリガーであるべきなのに一時的な金儲けの施設の建設にしか見えない。要するにIRの後にイメージできるものがない。コロナ禍は20世紀のビジネスモデルや価値観の変更を求めているのにIRは逆行している。

第三は、「公」の役割から見たIRである。これまで例えばパチンコ場等の建設に当たっては周辺に与える影響や施設の是非は市町村に委ねられ、行政は住民の意見や立地場所等を慎重に判断し場合によっては条例で排除することもあった。「公」の役割は民間の自由な行動が住民・市民にどの様に影響するかを判断しその認可・許可権限が与えられる。

南港のIRはその行政が当事者になっていることは大きな間違いである。更に現在大阪の最大の欠陥は、大阪市と大阪府のトップが同じ政党からの出身でお互いの意見を戦わし是正していく仕組みをなくしたことである。府と市は当然立場が違うため意見の相違や行政の目指すべき方向も異なり、それを調整・集約することが地方行政に与えられた使命でもある。大阪はその機能を失っている。

大阪市や大阪府の行政機構の職員は、このIRを命令されたから受けいれているのか。公務員としての矜持を失ったのか。行政に金が入ればそれでよいのか。それが都市経営なのか。大阪都構想は大阪市民の真っ当なアイデンティティによってかろうじてくい止めることができた。最後には市民運動や府民運動、それに多くの心ある人達によってIRを阻止しなければ大恥をかく。

大阪始め関西の魅力は沢山あり、その発見と発信、政策としての具体化こそが現在求められている。



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