地域デザイン研究会 2002フォーラム <報 告>
〜こんなにおもしろい「まちづくり」〜
2002フォーラム担当幹事
○日 時 2002年1月14日(土)13:30〜16:30
○会 場 大阪市弁天町市民学習センター7階講堂
○出演者
佐藤友美子氏(サントリー不易流行研究所部長)
高田徳次氏(栗東市助役)
村橋正武氏(立命館大学教授)
山田芳子氏(「高齢社会をよくする女性の会・大阪」副代表)
平峯 悠氏(NPO地域デザイン研究会理事長)
○プログラム
第1部 話題提供“「私」がつくり遊ぶ街”(佐藤友美子氏)
第2部 パネルディスカッションこんなにおもしろい「まちづくり」
『100%役所頼みはもったいない〜こんなにおもしろい「まちづくり」〜』と題して、2002年地域デザイン研究会フォーラムが行われました。当日は会場を埋め尽くすほどの多くの方々にご参加いただき好評を博しました。以下に議事次第に沿って概要を報告いたします。
○資料より
「元気なまち・おもしろいまち・居心地のよいまち・・の事例集」1.主催者挨拶(藤田副代表)
(1)地域デザイン研究会の目指すもの
・人的ネットワークを通じて強い自分を創っていく。
・社会参加することで自己実現につなげる場を作り、育てる。
活動内容としては、社会潮流に即したテーマごとに分科会を置いて論議し、講演会、公開討論会、海外(韓国や台湾等)や国内の自治体の首長を交えた街づくりシンポや提言、現地視察,各種フォーラムなどを行ってきている。
(2)最近のまちづくりの動向とフォーラムのテーマとの関連性
- 都市づくりにも「構造改革」が求められており、都市づくりのテーマとターゲットが変化してきている。(文化の香り高い都心部での都会づくり、地域の歴史伝統や文化を尊ぶ都市生活の重視、等々)
- 都市計画や街づくりの枠組・パラダイムが大きく変化してきている。(自らの地域からの内部から湧き出る内発型都市づくり、地域独自の個性化原理)対応して行くには、地方分権や社会的技術がベースとして必要となる。
- まちなかの活性化や、自由な移動の保障、総合的な交通環境、広域防災都市づくり、広域廃棄物処理や広域緑地計画の実現など多様な都市施策の連発実施していくための情報開示、説明責任、合意形成システム作りなどへの試行錯誤が続いている。
- 真の豊かさに対する都市づくりや都市サービスのあり方は、これまでの供給者論理に偏重してきた。ユーザー論理の重要性を認識し、多くの課題を総合的に考え、解決する方法論づくりを早急に作らなければならない。
2.話題提供(佐藤サントリー不易流行研究所部長)
(1)生活トレンドについて
- 祭りなどの「非日常」だけでなく、バーベキューなどのちょっとした日常生活から離れた「異日常」にも変化が訪れているのではないか。
- 単にものを売る店でなく、気分、時間、居場所といったものを含めたライフスタイル提案型のショップが増えてきている。
- 情報化の中で、人間関係のあり方も従来の縦型だけではなく、横の関係やユニット型の関係で動いていることもある。それぞれの場所・組織の中で自分のポジションを表現できることが重要ではないか。
- 当然選択肢も増えていくのだが、逆に迷いが多いということでもある。物差し(評価基準)を一つにせず、状況に合わせていろいろなものから選択し、ケースによって様々に編集することが問われている時代であり、それぞれのモード(一人・大勢、高い・安い、定番・こだわり)によって自由自在な切り替えをしていくことが重要である。
(2)世代別の心地良い空間について
ミドル世代では金銭面は気にせず、ハイパーホスピタリティを求める。自分のポジションや評価が上がるサービス・空間が心地よい。
ワンランクアップ消費世代では、他人とは違うことが中心であり、家族、夫婦、仲間で楽しむような私生活の延長線上にある空間が心地よい。
団塊ジュニア世代では、パブリックスペースとは自分の中の社会という認識なのでパブリックには法則・規制を感じていない。ゼロのもてなし、束縛されない場としてベランダ、屋上、河原、普通の公園、家等の空間が心地よい。
若い世代は物差し(評価基準)を多くもっており、何でもないような空間が心地よく感じるのは豊かさの顕れとも取れるが、ライフステージが上がっても変化しないのではないか。自分が今どのポジションにいて、何を判断しなければならないかを常にクリアーにしておかなければ、いろんな事に判断を誤る危険がある。
(3)まちのタイプについて
- ブランド再生型の例として神戸旧居留地のブランドショップ化がある。神戸はオシャレな人のまちとして人を集め、その人たちがオシャレになりそして広告塔も担っている。
- テーマパーク型の例として横浜中華街の中華文化村化がある。中華街の人たちも様々な状況に合わせて“中華文化村”の中で変幻自在で生きている。
- コンビニ型の例としてハーバーランドモザイクがある。昼から夜までの時間を空間の中で完結できる。
- アメリカ村などは、若者主導で自然発生したまちとして、若い人が店を出すとその業種のフランチャイズ化展開ではなくて、ライフスタイルそのものを商っているかのように異業種に事業を展開している。
- 郊外コミュニティとして芦屋では地域の人々が中心となって都市公園の中に段々畑をつくり、行政任せにせず手造りのものを進めている例もある。
(4)元気なまちには面白い人がいる
- 大洲商店街では大道芸人を集めた商店街祭りを行っているが、毎年実行委員を変えることによりビジネスチャンスの展開やマンネリ化防止をして年々盛況になっている。
- アメリカ村では、まちの中にビジネス編集機能をもつ人がおり、自由な切り替えや組合せを行って発信している。
(5)まちの仕掛けについて
- 立派に作ったから楽しめという発想の「パブリック」スペースでは楽しくない。誰でも寄れて規制されず自由な空間がいくつももてるのが都市の懐の深さであり、人が集まって楽しくなる「ストリート」的、リビング的な感覚をもつことのできる空間づくりがポイントとなる。
- 南芦屋浜でのコミュニティが都市公園の中に段々畑を作った例があるように、「ハードは最小」にして、行政がそのコミュニティで感じている「価値を発見」して後押しする方法もある。
- リスクのあるものに金をかけてリスクを隠そうとしても大きなマイナスになってしまう。「マイナス×マイナス=プラス」という発想が必要なのではないか。
- 出来上がったものの面白さとプロセスの楽しみ、それは気負いなく期間限定とかヒューマンスケールで始まっている例も多い。
3.参考資料紹介
- 自治体財政指標の診断結果について
- 全国都市の住民サービスについて
- 21世紀のまちづくりに関するアンケートについて
- 元気なまち、おもしろいまち、居心地のよいまちの事例
(長浜、彦根、ならまち、フライブルク、伊丹、小布施町、丸亀町商店街、六本木ヒルズ、志度町、大阪市ゆずり葉の道)4.パネルディスカッション
村橋氏
山田氏
佐藤氏
高田氏
平峯(当会理事長)<都市計画について>
(村橋氏)都市計画への取組は40歳にならないと先ずダメである。
(山田氏)家族のあり方が変わってきた。まちの主体は個人に移ってきた。主婦の視点を社会に入れなければ豊かに暮らせる社会にはならないのではないか。
<まちづくりと都市計画について>
(村橋氏)まちづくりは主役が変化する組織体。都市計画は制度や仕組みを背景にして行政がまちとしての今後のあり方と実現を図る。行政主導というのはどちらも在り得るしどちらも進めるべき。「父なる都市計画、母なるまちづくり」。まちの骨格とか枠組をどう考え、育て上げるかということは都市計画。
身近な生活空間を母体にしてそれから広く見ていくのはまちづくり。(山田氏)都心で高齢化すると行政主導の前にまちが荒れてくる。当然郊外も荒れてくる。これについては行政の何らかの介入が必要だと思う。
(佐藤氏)まちづくりと都市計画の間に、運営面で行政と民間企業が相互乗り入れで行う形があるのではないか。
<栗東のまちづくりについて>
(高田氏)JRの新駅に取り組んでいる。まちづくりの中心となるのではないか。滋賀県の玄関口としての交流の拠点、都市機能集積の基本をまとめていきたい。将来の夢を語り、駅前にどんなイメージを持ちましょうか住民に問いかける絵がある。まちづくりには時間が掛かるし変化は受け入れるべきである。それが面白いまちづくりを考えるキーワードだろう。
(佐藤氏)滋賀県のJRの駅はどの駅も似たようなものが多い。暮らしと利便性の追求とは別ではないか。全体の流れの中で今がどんな状況なのか、出来た結果について5年10年後に人がどう思うかについては見えてくるのではないか。
(山田氏)まちは時間で熟成するのがよいと思う。駅ができるというのが必然的なもので、市民や住民にとって本当に時間の中で熟成しているのかどうか。生活者が立ち寄りたくなるかどうかについて最も考える必要がある。
(高田氏)個性豊かな駅、まちが求められている。新駅も基本的には文化、潤い、都市計画の中の遊びがなければまちの形成はありえないと思う。変化の中で中心となっていくだろう。また、JRにとって儲かる駅、JRの経営上プラスになるという事から考えると20年ぐらい長いスパンで考えていき、その間時代の変遷とともにまちの骨格も変わっていくという理念も中に含んでおかなければならない。ゆとりというものも考えた内容で今後進めて行けたらと思う。
<まちづくりの仕掛けについて>
(佐藤氏)元気なまちには面白い人がいる。異文化交流の土壌の中から面白い人が生まれる。また、人がいないことから「誰かを引き上げるしかない」というタイミングと、その人に任せる度量がまちにあるかどうかが重要だ。
(山田氏)ユニットの発想、異業種はもとより異世代交流も視点に入れたユニットも大事になってくるのではないか。
(村橋氏)人が場所によって知恵・行動が実を結ぶ場合もあり、上手くいかない場合もある。人というのは状況に応じていろんな主役になっている。場所に深い繋がりを持っている人がいい意味でリーダーシップを発揮するし、企画立案で議論を上手く誘導している。
信頼され認知をされて、人間として評価される環境が出てきたら、リーダーシップの役割を発揮できる。また、役所の役割が変わってきている。自分達の生活の視点で取り組み、制度的な面は役所でこそ出来るのでまちづくりのサポート役に廻るべきである。いい意味で役割分担をしているところでは面白いまちづくりに取り組んでいるのではないか。(高田氏)仕掛けをする人、実践する人、支援をする人、事業を引っ張る人、お金を出す人などこれらは基本的には行政マンではないだろうか。町内の毎年恒例のふれあい祭がマンネリ化していたおり、趣向を変えてみて、各地の特産品を仕入れて並べてみたら大成功になった。
<質疑;初めに固い絵を書きすぎて悩んでいる。>
(高田氏)区画整理をした後、売買が行われてしまい、もともとの地域や地権者などと関わりのないまちが出来上がってしまう事が多々ある。
これは絶対に避けたい。自分が活用していくという理念でまちづくりに関わっていかなければならないと思う。<質疑;使い手にとって特に駅前での面白いというのはどう捉えるか>
(佐藤氏)郊外なら自分のところに帰ってきたという感じ、都心なら自分が関わりをもっているなと感じられる事だろう。今までは都心のよさを郊外へ移していたがこれからは棲み分けが必要ではないか。ソフトに特徴があれば全国から人が来る可能性がある。それぞれの地域が持つ、大切でここにしかないものをこれからのまちは考え、個性を発見する作業、内面を見る作業を重ねていく事が重要ではないか。また、市民は応援団だと思う。
<まとめ>
(山田氏)若者との融合による高齢者の住みよいまちが必要である。もっと高齢者のお金をまちづくりに使ってもらいたい。
(佐藤氏)無理のない町、自然に過ごせる町は楽しいと思う。知恵比べの時代だからとても面白いのではないか。
(村橋氏)住人も行政も頑張って欲しい。そしていずれは双方も融合していきやがて別の言葉が生まれるだろう。選択の多様化と選択する能力、多くの人が多くの施設を利用していくまちでないと強いまちとは言えないだろう。多様化の一種として持続する事と変化するという事、でも全体の方向性は変わらない事が大事である。
(高田氏)元気がないは魅力がないということ。40才代は変わらざるを得ないと思う。構造が変わっているのだから当然それぞれにあった変化が必要だと思う。
(平峯氏)面白いとは誰にとってという事が重要で、行政だけではなく住民もそうでなければ面白くはならない。まちづくりをあそびにしたらどうだろうか。社会への貢献・アプローチは面白いことだとしてまちをつくっていく。実現するに当っては、まちや地域の個性というものはとても重要であるから当研究会も参画していきたい。
5.閉会挨拶(新島幹事)
今回のフォーラムでは大変印象深い言葉がたくさんありました。
地域デザイン研究会では常に新しい事に門戸を開いております。町を観察し、発見し、まちづくりを議論し、提言したい人はぜひご参加ください。
本日は大変ありがとうございました。