「公共交通大国実現への課題」

2011年現地シンポジウム報告

 地域デザイン研究会の2011年度現地シンポジウムは、当初9月3日〜4日の予定だったが台風12号の影響で10月1日〜2日に日程を変更して開催した。シンポジウムは、岡山電気軌道(株)本社内の会議室において、1日の午後1時から約3時間にわたり行われた。「公共交通大国実現への課題」について、岡山電気軌道とNPO法人RACDAから考え方や取り組み状況などの説明を受け、課題解決に向けた今後の方向性などについて、質疑と意見交換を行った。(文:立間康裕・鎌田徹)

◆参加者

○地デ研側からは「河南町の地域交通」等を紹介

 会議の開催にあたり、平峯理事長よりの挨拶と参加者の自己紹介のあと、地域デザイン研究会の活動状況と公共交通問題への取り組み状況として、大阪府河南町における地域交通に関する取り組みを、また関連する話題として、堺市における阪堺線とLRTの状況などを報告した。

 岡山電気軌道の礒野専務取締役からは、両備グループとしての公共交通に対する基本的な考え方や岡山電気軌道の運営状況などの報告がなされた。また、NPO法人RACDAの岡理事長から、「公共の交通」ラクダ(RACDA)に至った経過や取り組みにあたっての姿勢等について聞かせて頂いた。その後、公共交通に対する広範で深みのある内容について質疑と意見交換が行われた。

○両備グループにおける取り組み
「地域交通再生のプロ組織」:礒野省吾氏

<会社の概要>

 設立から101年目、57社(約7000名)、売り上げ1350億円、経常利益35億円。“忠恕(ちゅうじょ)”の精神(松田与三郎翁が大切にしていた言葉で“心からの思いやり”)に基づく経営理念で行動し、“社会正義、お客様本意、社員の幸せ”を経営方針の3本柱としている。

 信託経営で、各会社には社長がおらず小嶋会長CEOが兼務している(執行役員はそれぞれの組織に配置)。

 路面電車の利用者は、自動車交通の増加により、利用者数は昭和39年の1150万人から平成22年には350万人となって70%減少している。

<現状の課題>

 今の補助金制度は、努力すると補助金が減るため経営努力をしなくなる危険をはらみ、また、施設整備には回せず使い道に制約があるなど課題がある。

 岡山ではスプロール的に町が広がり、鉄道ではカバーしにくい形状となっており、非効率な状況となっている。公共交通では、「費用対効果」の考え方は適しない。高齢者などの移動手段確保が重要である。 需要の少ない区間、範囲で規制緩和すると公共交通の企業はつぶれるため、棲み分けが存続には必要である。中鉄バスと競合する路線があったため、全体を1つのシステムとして動かすことが社長同士の話でまとまった。

<今後の方向性>

 公共交通には副次的効果がある。▼アメリカ、ドレクセル大学ロバート氏による、ノースカロライナ州シャーロットのLRT完成前後での肥満調査及び、▼東京都老人総合研究所による「週1回以上の外出が認知症リスクを軽減させる」から、公共交通利用は、肥満リスク、高齢者の歩行障害、及び認知症のリスクが軽減されることがわかる。

 公共交通存続への取り組みが必要である。津エアポートライン、中国バス、和歌山電鐵などの地域交通再生への支援実績から、ノウハウを有している。支援引受に際しては、▼既存事業者の全面協力、▼地元自治体、議会、国の支援の確立、▼沿線住民の熱意、が必要である。大都市、一般的都市、地方都市、過疎地ごとに、国、地方行政、事業者の役割を明確にし、財産保有と運営方法を適切に組み合わせるのが好ましい。(民説民営、公設民営、公設民託)

○鉄道模型オタクは接着剤がお手のもの
 NPO法人「公共の交通」らくだ(RACDA):岡將男氏

 町づくり運動から公共交通にシフトしたが、運動のネットワーク化(接着)により全国に波及していった。「公共交通」より「公共の交通」の方が取り扱う範囲が広くなる。岡山だけでは制度や財源の問題は対応できないため国との交渉が必要となり、その為には政治力も必要となる。その力は“市民運動”から生まれる。

 公共の交通では、“第二行政体”と言われていた1986年から、県と市のブレーン同志の結束(接着)がきっかけとなった。“文化”と“経済”の関係は重要で、芸術家の発想力(文化)と旦那(経済)は市民運動には必要である。歴史(文化)では、1987年から内田百鬼園を勉強し、また、岡山商工会議所(経済)の副会頭(ベネッセ会長)と知り合え、大きな力となった。

 1995年に「RACDA」を結成、1997年には「岡山路面電車サミット」を開催し、全国のモデルとなった。

 2003年には全国路面電車ネットワーク、バスマップサミットが開催できた。

 LRTのストラスブールでの成功には、「地方分権、機能向上、財源確保」があった。

 国などには、25都市に各100kmの路面電車を整備すれば、都市の交通は確保されると提案した。・25都市@100km 5兆円・車両 5000両 1兆円(30年で整備として、@2000億円/年)

○質疑応答

Q:自動車利用の多い若者に対し、エコ、福祉はわかるが、それ以外に、路面電車など公共交通の良さをどう説明するか?

A:免許を取っても自動車を保有できない20歳までと、運転が危険になって来る70歳以上の約30年間と、20〜70歳まででも飲酒を伴う時は乗車は出来ないなど、「他人事ではない」「自分にも必要である」という意識を持たせるのが重要である。

Q:自動車交通をどう見るか?

A:自動車には自由があり便利な乗り物(鉄の箱)であるが“独善”であり、渋滞の原因も他人のせいにする傾向がある。自動車交通は車線あたりの輸送人数が少なく効率が悪い乗り物である。(@8.3m/人)
 しかし、身障者や高齢者には必要性もあり、自動車を敵視するのは無理があるが、環境面からはCO2削減(△15%)のためにも公共の交通への転換が必要である。また、そのためにも交通基本法の成立が必要性である。

Q:RACDAが「公共の交通」という理由は?

A:交通を担っているのは、電車・バス・徒歩・自転車の他に、自動車が大きな位置を占める。この交通も敵にまわすことなく、一緒に考えていくということから、「公共の交通」とした。

Q:公共交通を活用させるためにはどうすれば良いか?

A:住民、行政、事業者それぞれが“乗せる工夫”をする必要がある。自分達の鉄道として認識し、“乗って楽しい”交通機関とすると共に、地方では他から利用者を呼び込む工夫が必要がある。
 民営でこれまで営業できてきた事がマイナスになっており、近年において28社が倒産しているが地方の実態は知られていない。交通基本法では、関係機関の役割分担や基本計画などが規定されている。上下分離方式は地方に合わせて形態を考える必要があるが、岡山では動いていない。

Q:交通基本法の成立や公共の交通を改善していくには、今後、何がポイントになってくるのか? また、堺市のLRTにつ
いても意見をお願いしたい。

A:交通基本法は、市民、事業者、自治体、国の役割を明確にする意味がある。運用には、これまでかかわってきたキーマンが中心となっていくだろう。

 公共の交通の改善には強いリーダーシップが必要で、“儲かるビジネスモデル”を考えなければならない。それと市民はなかなか反応しないので、ねばり強い説明と努力が必要であり、民主主義だけでは上手くいかない。富山市のように、市長自ら300回ほど直接説明に回るほどの意識が大切である。
 堺市のLRT導入に関しては、経過は伝え聞いているが、地元の説明に3回しか行っていないと聞く。300回は行かないと地元とのコミュニケーションは取れないと思う。また東西線のテーマが話題となっているが、阪堺線との関連も必要であろう。今後とも、NPOは関係者の接着剤としての役割が重要となってくると思われる。

○懇親会

 シンポジウム終了後、宿である「メルパルク岡山」に入り、懇親会を行った。懇親会には昼間公務で来られなかった岡山市都市整備局長の筒井祐治氏が加わり、岡山市都市交通戦略などについて議論が交わされ、大いに盛り上がった楽しい懇親会となった。

○視察:(10月2日)

 2日目は市内散策を予定していたが、吉備線に乗って、総社宮に行きたいとする人もおり、基本的に自由行動となった。下は岡山電気軌道の車両である。いろいろな種類の電車が走っている。


8000系
(立間撮影)

7000系(立間撮影)

MOMO(撮影金田)

○総社宮など見学

 メンバーのうち6人(岡村、小川、田中、中尾、道下、鎌田)は、JR吉備線を使って、総社宮、吉備津神社、吉備津彦神社を見学した。 総社宮は、国中の神社を巡拝する慣わしの不便をはぶくため、平安末期に国府の近くに造られるようになったもので、備中の総社は324社の神を合祀したもの。前庭の三島式庭園は、古代様式を今に伝え、長い回廊が美しい影を水面に映している。また、拝殿には多くの絵馬が奉納されており、円山応挙や大原呑舟といった有名作家の絵馬も奉納されている。(総社市サイト)


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