悠悠録

チンケな顔

平峯 悠

 電車の前の座席に同じような顔をした若い女性が並び携帯電話を操作しているのをよく見かける。決まっていわゆる「小顔」である。女性に限らず社会を支えていかねばならない若い男性の顔も同様で迫力や力強さ・逞しさを感じない。昔から「顔」はその人の性格や内面を表すというが、子供の頃、親や近所の怖いおじさんから「チンケな顔」にならないよう説教されたことを覚えている。

 チンケという言葉は、さいころ博奕で一の目を「ち」ということから最低のことを言い、言い換えると「値打ちのない」「みすぼらしい」「貧相」「みみっちい」「粗末」「貧乏(けち)くさい」「ちゃち」「安っぽい」などであり、よくぞこれだけ顔について悪い表現が出来るものと呆れかえる。

 自分のことを棚に上げて、人の顔のことをあれこれ言うのは気が引けるが、一般人はもとより、最近のテレビ等に出てくる俳優・芸人或いは国会議員などにあまりにも「チンケな顔」が多すぎる。チンケな顔というのは鼻が低い、目が離れている、配置が悪いなどいわゆる不細工とかブスという顔の造りではなく、その人の生き様や考え方、鍛え方或いは根性、心掛けの結果が顔に表れてきたものである。最近、歯を矯正しなくてはならない子供が8割近くだという。小顔で顎に32本の歯が収まらない。スルメとか梅干しの種を噛むなど歯や顎を鍛えないからである。またみんな平等で仲良くという社会で楽をして生きていけば、結局はみすぼらしい、貧相という「チンケな顔」になってしまう。小顔は可愛らしいと同時にみすぼらしいことでもある。時代劇が成り立たなくなったのも、人々の顔が時代劇に合わないチンケな顔になったからでもあろう。NHKの大河ドラマに兵庫の井戸知事がクレームをつけたが、本心は主役のミスキャストに文句をつけていると思っている。

 一方、日本の将来を託されたはずの政治家の顔が値打ちのない、安っぽく、みみっちいものになってきた。覚悟や迫力に欠けている。前自民党政権では利権にまつわる嫌らしい、下劣な顔が目立ったが、現民主党政権には迫力のない安っぽい顔の人が多い。「男は40歳になれば責任を持たねばならない」「男の顔は履歴書」等という有名な言葉がある。リンカーンは閣僚の人選を顔で決めたと言われているが、それほど人の顔は重要である。政治家には見たくもない顔が多すぎる。

 最近は人の顔や性格についてあからさまに批判をしなくなった。昔は人々の行いや性格・顔つきなどにずけずけ文句を言う年寄りが多く、言われたら反省し直そうと心掛けた。昔の評論家大宅壮一氏や山本夏彦氏からは辛口で辛辣な言葉が聞けた。今では人を傷つけてはいけないという風潮から、あからさまに批判することを控えてしまっている。しかし私を含めある程度年をとった人達は少々非難されても言っておかねばならない。それも役目の一つであると思うようになってきた。

 チンケな顔と反対に、日本には素晴らしい顔の人が数多くいることも事実である。この不況下にあっても、一つのことに打ち込んできた職人や汗水垂らし働く農村の人々、人の為、地域の為に働いてきた人々の顔、それが救いでもある。最近テレビに出てくる人の顔が気になって仕方がない。


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