REPORT

3.11取材から得た大災害対応

株式会社アニマトゥール弘報企画 道下弘子

 今、東日本大震災で国土交通省による自治体支援活動・リエゾン(※1)について、遅まきながら原稿を書いている。大震災で、自分にできることは、土木がいかに重要かを発信することだと考えたすえ、国土交通省の活動について取材することにした。が、ふだん「請求書を書く」仕事ばかりしているためか、自発的な原稿書きは後回しになったというお粗末な次第。 取材で8人の首長と、自治体リエゾンおよびバックアップした人59人(うち20人は近畿地方整備局、以下地整局)に話を聞いた。そこから、大災害対応に行政として必要なこと、感じたことを少しまとめてみる。

○現場にまかせる


<東北地方整備局 池口企画調整官(左)と熊谷防災課長(右)>

 3.11では東北地整局の道路啓開“くしの歯作戦”に加え、被災自治体への何でも支援“闇屋のオヤジ”活動が徳山日出夫局長の功績として讃えられている。しかし、「国の代表として」「私になったと思って被災地を全面的に支援するように」と、テレビ会議で徳山氏に繰り返し言った大畠章宏大臣はもっと讃えられるべきではないか。現場に任せるという裁量はトップに求められる資質(もちん責任はトップがとる)。この言葉がなかったら、使途が限定された予算に縛られ、“闇屋のオヤジ”はなかったに違いない。

○訓練は本番どおりやる

 「防災」できないところに「防災」と名づけない 東北地整局で被災状況確認のヘリを業者のみで飛ばす指示をした防災課長も讃えられている。が、本人によると「決められていたこと」という。冷静で優秀な資質に加えて、訓練で初動の対応マニュアルどおり的確に実行することを頭と体にたたき込んでいたのだ。

 釜石市鵜住居地区では、小中学生が近隣の人々を巻き込みながら高台に逃げ切った一方で、防災センターに避難した住民の多くが犠牲になった。実は、防災センターは津波避難所ではなかった。2年前の防災訓練の際、「高齢者や足の不自由な人のために、近くの防災センターを便宜的に避難先にした
い」との地元の要望を聞き入れたのだそうだ。訓練を本番どおりに行うことの重要性を示す悲劇だ。さらに言えば「防災センター」という名称もよくない。防災できないところにあるなら備蓄庫とか、誤解を招かない名称にすべきだ。

○被災地と同じ目線で想像力を働かせる


<東北地方整備局 災害対策室>

 情報発信できない自治体に直接行って情報を取るのがリエゾンの本来の役目だ。3.11でとりわけ喜ばれたのは、首長や市町村職員に寄り添うように想像力を働かせ、「こんなことができる」と提示したことだった。大槌町では、町職員がプライベートで衛星電話を使えるよう、リエゾンが提案した。平野公三町長代行は「疲弊していた町職員がうれしそうに電話している姿を見て、有り難いと思いました」。職員は少し元気を取り戻したという。

 また、発災直後に岩手県庁に入ったリエゾンは、災害対策機械の機能一覧表を示し、被災市町村への衛星通信車や災対本部車配備を提案している。市町村が望むのは「何をしましょうか?」ではなく、「○○しましょうか?」だ。被災地と同じ目線こそ真の支援だ。

○災害の規模を正しく認識する

 情報のない被災地ほど被害が大きい。3.11では陸前高田市、大槌町のように自治体機能が破壊された市町村だけでなく、機能している自治体でも市町村内の被災状況を把握するだけでめいっぱいだった。野田武則釜石市長は「国からリエゾンがやってきて、これは平時ではないと再認識した」と言っている。災害の規模を冷静に認識することこそ、初動の価値判断の要だ。

○土地勘のある職員をリスト化

 岩手河川国道事務所は発災後すぐに職員の勤務経験地と出身地をリスト化した。東北地整局から被災市町村へリエゾンを派遣するよう指示されたときは、そのリストから職員の資質等を考慮して選ぶだけだった。

 津波で壊滅した気仙沼国道維持出張所では、職員は間一髪、道路台帳だけを持って避難した。車も何もかも失った彼らにパトロールカーを届けるよう東北地整局から指示されたのが、湯沢河川国道事務所。湯沢にはかつて三陸沿岸に赴任したことのある職員は一人だけ、もちろんその職員がこの任務を負った。ナビが狂ってしまっても、山道に入り込んでも、停電で真っ暗でも、目的地にたどりつけた。ちなみにこの職員は翌日、リエゾンとして陸前高田市に派遣されている。

○最寄りの出先に行け

 防災住宅に住まう自治体職員は、発災後すぐに本庁に行けるが、そうでない幹部職員も本庁に行かねばならない。しかし、交通機関がストップしたときに無理をして本庁に行くべきだろうか?むしろ、最寄りの出先機関の方がよいのではないか。早く行けるし、そこでは通信も電気も確保でき、情報収集も容易だから、指示もできる。所属でなく、住まいを考慮した緊急時出勤先を整理しておくべきだろう。

○メディアは地区分担せよ

 「わが市はメディアにあまり載りませんが、犠牲者は1043人、不明者は104人です」。阿部秀保東松島市長からこう聞いたとき、ドキッとした。犠牲者の数は釜石市や南三陸町と同等程度で、名取市よりも多い。にも拘わらずテレビ報道は確かに見た覚えがなかったのだ。

 メディアに載らないことを端的に表すのが義援金(※2)だろう。調べてみると、釜石市2億5000万円、町長が庁舎屋上のアンテナに登って助かった手記を文藝春秋に掲載した南三陸町4億4000万円、名取市2億7000万円に対して、東松島市は9000万円。不遜ながら犠牲者数で割ると、それぞれ23万円、49万円、28万円、8万円弱だ。

 広域大災害の場合は、メディア、とくにテレビは同じ地区に重複して入らず、地区分担をすべきだ。彼らは仙台や東北新幹線から行きやすいところ、話題になっているところに団子になって入っていくが、行きにくいところやネタがなさそうな被災地には入っていかない。しかも、宿屋は軒並み押さえるから、医療など肝心の救援部隊は予約が取れない。発災後に災害時報道協定ぐらい頭が回らなかったのか!メディアが反省してほしい点は山盛りあるが、本稿ではこの点のみにとどめる。

※1:リエゾンとはフランス語の「情報将校」の意で、国土交通省の災害時対応のひとつ。自治体等が行う被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対して技術的に支援し、情報を共有する。※2:市町村に直接送られた義援金(5月27日河北新聞社調べ)
※国土交通省災害対策室は「災害時ノウハウ集」をとりまとめてHPで公表している。


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