REPORT

「まちを視る」分科会を振り返って

茂福隆幸

 「まちを視る」分科会は従来の3つの分科会を発展・統合して、2005年に新たにスタートしました。「まち」は地形、歴史、風土、社会、催事、建物、住民など様々な要因により構成されていますが、まちづくりを行う上ではまちの現状を把握した上で比較や評価などを行うことは大変重要なことです。「まちを視る」分科会ではまちを視ることを原点に、まちを実際に訪れて見て歩き、まちに関わった方の話を聴いたうえで評価、分析などを行い、まちづくりを行なう際に役立つように各地区のフィールドワーク(FW)の成果を統一したカルテシートにまとめ、地域デザイン研究会のホームページに掲載しています。

 これまでに11カ所のFWを行ってきましたが、それぞれのまちには歴史や特徴があり、何気なく見ていたまちの風景が様々な要因により構成されていることを再認識しました。

 第1回目は「これからの沿線まちづくり」をテーマに、2005年4月にオープンした『くずはモールグラウンド』を中心とした京阪本線樟葉駅周辺のFWを行いました。

 一番の遠方は「まちなみの保全形成と景観法の活用」をテーマに「近江八幡市八幡掘界隈」のFWです。当地は40年前から市民が中心となって風景づくりに着手し、本物へのこだわりと、地域主導による文化を残す試みが受け入れられ、現在では年間300万人の観光客が訪れるようになっています。2004年の景観法の制定後、景観事業に取り組んでいる市町村は年々増加していますが、行政主導の場合はやはり長続きしません。当地においては市民によるまちづくり活動が発端となり、景観づくりは伝統文化の継承であり、観光を目的とするのではなく地域文化の継承により本物を残し、市民の住み心地をよくすることを第一に考えていることから、継続性があり結果的に集客に結びついていると思われます。

 印象に残っているのは「誰もが知っている大阪、誰も知らない大阪」をテーマに新世界、あいりん地区、旧飛田新地などの「天王寺界隈」のFWの際に訪れた一心寺です。この寺の建物は大阪大空襲ですべて焼失しましたが、1966年の大本堂の再建後、建築家でもある高口長老が手がけた鉄とコンクリートの斬新な山門、上質の桧を型枠に使用し木目や木の色が付いているコンクリートの打ちっ放しの天井や壁のある日想殿などは建築物として大変興味深かったです。また、長老に仏教の講話や様々な話を聞いた中で、大阪市の都市計画はハード面が優先しソフト面が後回しになっているとのことで、自ら地域のマップなどの冊子を作成、配布などされソフト面からのPRをされていることに感心しました。

 建築物として興味深かったのは、「船場コモンズをさぐる」をテーマに行なった「船場界隈」のFWです。流行のスウィーツの店「五感」がある新井ビル、緒方洪庵の私塾として有名な適塾、日本最古の現役木造校舎の愛珠幼稚園、1927年建設で当時では珍しい鉄筋鉄骨コンクリート造7階建ての高麗橋野村ビルディング、1925年竣工で当時ではオフィスと住宅を併せ持つユニークで革新的なビルとして注目を集めた船場ビルディングなど、多くの登録文化財や重要文化財などの近代建築物が今も現役で残っています。特に豪華で印象に残っているのは綿業会館です。

 このように「まちを視る」分科会では多くのまちを見て歩きましたが、これからはそれらの分析や比較等も行い、成功事例の数年後の状況なども見ていきたいと思います。面白いまち、興味深いまちの情報がありましたらお寄せ下さい。また、これからも続けていきますので、実際に「まち歩き」にご参加下さい。


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