REPORT

石鎚参拝記〜「まちづくりと宗教施設のあり方の研究」分科会〜

高岡邦彦

 私どもの「まちづくりと宗教施設のあり方の研究」分科会では、平成21年度に東国11ケ国の修験道の聖地、出羽三山を登拝し、翌22年度には天台宗郷の国東半島と西国修験のメッカ英彦山を巡ったのに引き続き、23年度には西日本最高峰で四国修験道の御神体石鎚山に登ることになりました。行程としては、丸亀・金比羅山・今治・石鎚山・砥部・坂出そして直島を訪れたのですが、ここでは石鎚に焦点を絞って報告します。

 石鎚山を御神体とする宗教法人「石鎚本教」は、山体が平野に接する点、西条市西田甲に本社があり、山頂にある奥之宮頂上社との間に中宮成就社(標高1450m)が、更にスカイラインの終点近くに土小屋遥拝殿(前者とは尾根筋が異なる標高1500m)があります。私達は土小屋遥拝殿から山頂を目指しました。

 久万高原の二山44番大宝寺と45番岩屋寺の間にある「古岩屋荘」を朝8時に出発。当初の数キロ間、最高峰は一向に姿を見せなかったが、高度1000mを過ぎた辺りから、厳しい岩肌に囲まれた尖った山容を見せ始めた。降り立った駐車場はもう8割方詰まっていた。

 殿舎に近づいていく途中、大きな立札があり、「ここは伊予の国、標高1492m」と記されていた。なかなか智慧のある人が居たものだ。憶えやすくてよい。ここから山頂である弥山(みせん)までの標高差は丁度490m。歩く距離は4.6km。予定踏破時間は二時間半。少し高台にある遥拝殿に詣で、登山の無事達成を祈願して、殿舎を通り抜けて出発。 雑木林の中の狭いがよく踏みしめられた緩い登り道を進んでゆくと、早くも降りてくる人たちに出会うのに驚いた。登ってから判ったことだが、山頂に宿泊施設があったのだ。山道やら桟道やらパンチパネル道やら階段やらを何とか歩き進めてきたが、もう少しで山頂(弥山)かと思われる前に、二箇所の鎖場があった。

 手前が長さ63mで、その次が68mだとか。堂島川に架かる大江橋の北西にある大阪三菱ビルの高さが地上60mだから、あのビルを二つ重ねたより、更に高いのだ。頼りとする鎖がまた太い。断面直径は4cm位。しかも長円形の輪の隙間が8cm位だから、支点としようにも靴を履いた足を入れられない。輪を両手で持って、足を高く上げ、岩の窪みを探して足掛りとし、脚筋と腕筋同時に力を入れて、身体を揚げていく。次いでもう一方の足を・・・の繰り返し。前の鎖場はまだしも、後のはほぼ垂直に近いから、腕の力での懸垂の繰り返しになる。それでも中高生らしい男の子は、すいすいと身軽に追い越していく。私の直前は、父親と24・5歳くらいの娘のパーティー。この女性、腕の力はさほどなさそうだが、すらりとした脚がよく伸びて、広い範囲で上手に足がかりを探して、進んでいく。

 やっとこさ、68mを上りきると、鎖場を避けて遠回り道を選んだ、同行者の一人が笑顔で待っていた。開口一番「ご苦労さんでした。」と。「君が回り道を選んだのは、正解でしたヨ。でもここは修行の場なんだから・・・」と息も絶え絶え。腕の裏側の筋肉が、疲労困憊。痛くって仕方がない。登山って、足が痛くなるはずではなかったのか・・・。

 弥山にある奥宮に参拝した。その南側にある広場には、居るは居るは大勢の参拝者達が。大抵は若いカップルか、家族連れ。私より年長者もいたが、パーティーとしては我が組が最高平均年齢パーティーだったであろう。

 ところで石鎚山の本当の山頂は弥山ではない。そこから少し南西に離れた頂、天狗嶽なのだ。弥山の端から天狗嶽を見やれば、途中から皆四つん這いで進んでいる。直線距離だと80m未満だが、天狗嶽よりの40mほどは、表面に凹凸がなく、掴まる所のないコンヴェックスの一枚岩風。おまけにその端は明らかにオーヴァーハングしていて、直下200mほどの空間だから、突風に吹かれて重心をゆるがされると、即極楽浄土への直行便。逆に反対側に滑ると数回転後に20m下の樹叢の中で、辛うじて一命は大丈夫と言う行程。だから命惜しさに、這っていくから時間がかかる。天狗嶽の山頂は丸い岩で、その頂部には高さ30cm、断面15cm四方の御影石の長方体が置かれていて、周囲の四面には南無阿弥陀仏と、辿りつけなかった人の為にか、称名が彫り込まれていた。真に有難いことだ。

 参拝者達だが、駐車場では圧倒的な四国ナンバーの車の中で、群馬・愛知・三重ナンバーもあった。男女比は、講中者を除けば、ほぼ互角。歩いていた子供の最年少は、8合目で追い越した3歳くらいの女児。善男善女たちのお参りだとは思ったが、篤い信仰心だけでは、山頂に達せず、体力が不可欠であることは、前二山と同じであった。山自体が御神体であるならば、山頂まで到達するというのは、宗教心ではなく、スポーツ以外の何モノでもない。

 それにしても、広範囲(地域・年齢)から大勢の信者(?)達を集めているのには、感心した。怖いことが魅力の因であろうか。


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