主張

これまでの地デ研の主張は正しかったか

―今後 誰に、何を訴えればよいのか―

平峯 悠

 NPO地デ研の機関紙「潮騒」には、私も含め多くの会員諸氏の意見・提言が掲載されてきた。そこで10年ひと昔と言うが社会に対して有効な主張をしてきたかを検証してみたい。その検証を踏まえ今後の主張の方向性を見出したい。主張、意見・提言は大別すると、@まちづくり・地域づくりの方向(どのようなまちを創っていけばよいのか)、A日本人の意識(どのような志や気構えを持てばよいのか)、B政治・社会経済システムの在り方(政権および行政の政策の在り方)などである。NPOが発足した西暦2000年は、自民党小渕内閣の時代であり、バブルの崩壊から金融危機、公共事業バッシングと世相は大きく変化し、人口のピークアウトが目の前に迫り、さらに人口の少子高齢化が社会問題として意識された時代である。

◇まちづくりの方向については、実に的確な指摘をしている。公共事業のあり方、街路と広場の重要性(都市的なるもの)、成熟した社会の中での歴史の再認識、地域に受け継がれてきた地域遺伝子の活用、公共交通の重要性を指摘するとともに自然災害に対する都市政策の重要性とその実現へのプロセスを提言している。全くその通りである。

◇意識の持ち様について、私達が最も恐れたのは経済大国となった日本が危機感を持たず、将来への夢や長期的展望が薄れて行くことであった。これらに対する警告を行ってきたが、結果的にはますます悪くなってきているように感ずる。これまで政治家や官僚たちの間に受け継がれてきた“ノーブレス・オブリージュ(徳と責任)”は消え去ってしまい、下卑た自らの利益のみを追求する社会が加速している。また経済を含む成長思想が薄れ、現状さえよければという見方が蔓延しているのではないか。精神的な豊かさと言いながら「正直」「まじめ」「実直」「品格」などよりも金銭的価値を評価するマスコミや世間の風潮、これは日本を完全にダメにするものであり、改めて主張しなおさねばならない。

◇政治・経済システムについては、新たなリーダーの必要性や地方分権の推進、世代交代を主張してきた。全国各地で改革知事や市長が誕生し、地方からという主張が進みつつあるようで希望も持てる。しかし民主党政権や中央官僚組織の実態を見れば前より悪くなっているのではないか。大阪の橋下徹という突破力のある稀有なリーダーに期待するだけでなく、政治経済・社会全体を改革できるシステムへの変革は継続的に追及しなければ日本も地方は変わらない。これからも主張すべきはこのシステムの変革・改革である。

 この改革の最も重要なテーマは「配分問題」である。道州制や大阪都構想は日本国土をどのように分けるか、社会保障制度は世代間の負担・配分の問題、大阪市の文楽やオーケストラへの補助金削減は限られた予算の配分、原発を含むエネルギー問題は資源の有効配分、消費税・所得税、地方交付税などの税制も世代間、納税者間の配分の問題に行き着く。現在の消費増税や原発再稼働等は将来の「配分」に踏み込んでいないため納得しがたい。

 これまで「潮騒」の中で何度か配分の難しさを指摘し、文化的に最も重要な価値をもっているのが配分方法であると主張してきた。しかしものすごく難しい。時代に応じて配分システムを作り上げることが出来れば、それこそが「国の文化」である。配分・分配には公平・平等など一般的な尺度ではなく、個々人の義務と責任のもとでの幸福度、社会全体の豊かさとは何かという理念、哲学およびそのシステムを引っ張るリーダーの見識、大局観、そして信頼が不可欠である。借金をしてばらまく時代は終わった。新しい文化づくりのために配分のあり方を追求していかねばならない。

 これからの「主張」では意識改革と配分問題を重要なテーマとして議論していきたい。


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