REPORT

「風がふけば桶屋が儲かる」的な話

今中昌男

◆驚かされたニュース

  産業系施設の新規立地ニュースが少ない関西のなかで、昨年(といっても1年前になるが。)は「えっ」と驚かされるニュースがあった。それは彩都中部地区の約8haを米国系物流施設デベロッパーの「プロロジス」が取得する契約を結んだことである。物流事業者は仕上げられた土地を取得あるいは賃借するのが一般的であるにもかかわらず、彩都中部地区は事業未着手であり、造成完成は 2015年春予定である。利回りを重視するファンド資金で土地を取得する「プロロジス」のような企業が、資金を数年寝かすこととなる未造成地を取得するのは異例なことであると感じた。

 「プロロジス」の土地取得判断のひとつは、彩都中部地区の施行主体は都市再生機構で計画・事業の完遂に安心感が得られることであろうが、より大きな着目点は国土軸上にある貴重な物流施設用地を先行して押さえることであろう。すなわち、新名神高速道路の茨木北IC(仮称)に近接するとともに大阪中心部への道路利便性が高いこと、計画開発のなかで周辺に24時間稼働の障害となる住宅がないことが評価されたのであろう。

 ちなみに彩都中部地区ではスーパーの「万代」も約9.6haの土地を取得する契約を結んでおり、ここを拠点に自社店舗に商品を配送する計画である。

◆物流施設の変貌

 ここ数年、これまでの倉庫、配送センターといった物流施設の概念を打ち破る大規模・多層の物流施設が建設されてきている。標準的なものは土地約3ha、建築延床面積約60,000u、5、6階建ての建物であり、関西では大阪市、尼崎市、堺市の湾岸部に建設、計画されている。企業が重視する物流施設は24時間稼働が可能な交通利便性の高い立地にある最新鋭設備を備えたものであり、その点、周囲に住宅がなく、高規格道路が整備されている湾岸部の立地は評価に適うこととなる。加えて海外の生産拠点との連携にも都合が良い。そしてこのような施設が出来るごとに、内陸部に物流拠点を構えていた企業が湾岸部の物流施設に移動している。その結果、内陸部にある旧来の小規模倉庫は新たな借り手を見つけるのに苦労しているとの声も聴かれる。

◆消費生活の変化が影響するところ

 また、ここ1、2年は私たちの日常生活に関連した物流施設の建設・計画が多くなっているのも特徴的なことだ。上記の「万代」もそうだし、会員制小売店の「コストコ」はひょうご情報公園都市/兵庫県三木市内で約19ha(物流施設としてのこの面積には目をみはる。)の土地を取得している。また「楽天」は「プロロジス」が建設する伊丹市の物流施設を一棟借りすることが決まっているし、食料品関連の企業が新たな物流施設を手当てしようと動いている。これらの消費生活に関連した物流施設は配送先が市街地内のあることなどから内陸部での建設が多い。

 首都圏では圏央道が整備されつつあり、そのIC周辺に陸続と物流施設が建設されている。かつては工業団地を作ったものの売れず、やむをえず商業者に借りてもらっていた時とは様変わりだ。関西と首都圏とでは人口規模や、生産地(東北・東海)と消費地との位置関係などの違いがあるが、関西内陸部では最新鋭の大型物流施設の建設事例は少ない。需要はあるものの、彩都中部地区のように物流拠点としての特質を備え、物流施設事業者が首肯できる適正な価格での土地が少ないことも大きな要因であろう。

◆高齢化社会での物流施設などの施設需要

 今の物流施設の活況は企業の物流機能効率化、産業構造の変化に負うところが大きいが、消費生活の変化も大きく影響している。私自身、本はインターネットで購入することが多くなっているし、両親は在宅配食サービスを受けている。高齢化とともに様々な商品を届けてもらう機会が増えている。野村総研の予測によると、国内消費者向け電子商取引市場は2012年に10.8兆円であったものが2017年には17.3兆円になるとされている。また、高齢化により医薬品や医療機器の需要が高まっており、その物流市場は成長市場とみて、専用の物流施設を建設するなど力を入れる企業が多い。 日本では最新鋭の物流施設の占める割合が2%(CBRE調べ)と米国等と比較して少ない現状も考え合わせると、高齢化の進展とともに物流施設、特に内陸部の需要は当面健在に推移するであろう。従って、

<高齢化の進展> →<宅配需要の増加・医療関連需要の増加> →<的確な物流拠点の整備> →<物流施設業の盛況>という図式ができる。

 高齢化の進展は物流施設の他にも施設需要を生み出している。私が知る具体の土地取得等需要を踏まえ、違う切り口で見ると次のような図式も考えられるように思う。

<高齢化が進展し、単身高齢者者が増える> →<食事は少量でよい。食事を作るのが億劫になる> →<食事を外部に依存する> →<調理済食品が売れる> →<調理済み食品を置くコンビニ店が増加する> →<コンビニ店に調理済み食品を運ぶためにはパッケージ化が必要になる> →<パッケージ化するためのプラスティックの加工業が忙しくなる>(最近は身近に惣菜や弁当を買えるコンビニが急速に増え、それに伴い調理済食品業者も生産設備を増強し、新規の土地取得を計画している。そして、惣菜などを入れるプラスティックの加工工場も設備を増強している。)


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