悠悠録

呪縛を払拭した東京オリンピックは可能か

平峯 悠

 

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まった。日本をはじめ海外の多くの人たちは滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」というプレゼンに拍手を送ったのではないか。英語ではhospitalityであるが、心のこもった「おもてなし」というのは日本の伝統・文化といっても過言でない。日本にはアニミズム(自然崇拝)を基とした道徳・倫理観や生活規範或いは美的感覚が受け継がれ、伊勢神宮の式年遷宮にみられる神道の儀式にも表現される。

 しかし式年遷宮行事に政治家が参拝することを政教分離に反すると批判、また道徳教育あるいは憲法を見直すというと右傾化した、戦前の軍国主義復活だと騒ぐ一部の人達がいる。敗戦後、戦前まで受け継いできた伝統やものの考えを否定(勿論全てではないが)することを進歩的とする風潮が蔓延してきたことは事実である。この背景には占領下のアメリカの影響や経済を優先する施策の推進に没頭したこと、さらには教育やマスコミ・政治に問題ありと言うことも出来るが結果的には日本国民の全ての責任でもあろう。

 2000年の潮騒に「刷り込みの呪縛から脱却するために」と題して私達の生きる方向を提案した。要約すると「現在の日本は、戦前の日本の『家』を中心とする社会と教育は古い、恒久平和の思想を謳う日本国憲法は世界に稀な平和憲法である、さらには民主主義の精神を高めるには『個人』の尊重がもっとも重要であるとの考えを刷り込まれた世代の上に成り立ち、愛国心、道徳、神話などを語ることをタブー視しており、この呪縛からの脱却には時間がかかる」とした。1964年の日本最初のオリンピックは敗戦から立ち上がり復興を果たした日本を世界に見せることであり、新幹線・高速道路などの国づくり、人々の力強さなどを世界に発信した。さて次の2020年には何をテーマに五輪を開催するのか。

 東北大震災からの復興は当然であるが、目指すのは「日本の良さや文化を発信する場」とすることと考える。現在世界では宗教的な対立や国益の衝突、貧困等により激しい紛争や争いが生じている。日本は昭和の一時期を除けば、争いを避け「和」を尊ぶ民族であり江戸期や戦後70年間の平和な時代をみてよくわかる。5000年以上続いた縄文時代を起源とし東洋の島国に育まれた自然観、道徳観、秩序感、人間関係=和の文化、食物文化、ものづくりの伝統などは今後の世界秩序を誘導する鍵となりうるのではないか。具体的には、現在海外に影響を与えているクールジャパン、アニメ文化の魅力、日本を好ましいとみている要因あるいは何故明治期の欧米人は日本を賞賛したのか等を分析・評価し、世界的なイベントとしてのオリンピックや各地の観光施設に生かしていくことであろう。

 国土再編、高齢化社会での都市づくり・まちづくりにおいてもおもてなし、もったいないなどの心、正確さ、真面目さ等をあらゆる場面で表現することが必要であり、神社仏閣・史跡・昔話・生活様式などの遺伝子あるいは農地や空地などを積極的に活かしていくこと、それが東洋の品格ある国造りである。7年間という短い期間に全てを成し遂げることは難しいが、呪縛を払拭し、日本そのものを見つめ直すならそれは不可能なことではない。


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