REPORT

貝塚「水間鉄道」テーマに現地シンポジウム開催

~水間鉄道の活かし方、持続可能な地域公共交通を考える~

地域デザイン研究会の今年度現地シンポジウムは9月13日~14日、貝塚市にある水間鉄道を訪れた。水間鉄道は平成17年に倒産。(株)グルメ杵屋による支援により運休することなく営業を継続した。しかし運休がなかったこともあり、沿線の人々の廃線の危機感も生まれず、乗客の減少傾向は止まることなく厳しい経営が続いている。こうした中で水間鉄道の活性化策、貝塚市のまちづくりについて意見交換を行った。平峯理事長は挨拶の中で「地デ研としても、これらの問題を勉強し何らかの形でお役に立てればと、近畿建設協会の支援を得て調査を始めた。中間の成果を報告し皆さんの意見をうかがいたい」と語った。意見交換会終了後、水間鉄道に乗車、水間観音に参拝。「ほの字の里」に移動して懇親会を行った。14日は貝塚寺内町を市のボランティアガイドさんの案内で見学した。     (文責:鎌田、金田、大戸)

■地域デザイン研究会より報告

<意見交換会>

◇日時:9月13日13:00~15:10

◇出席者:

貝塚市 伊東都市整備部長、

水間鉄道株式会社 坂本執行役員(運輸部長)、兼弘総務部長、

地域デザイン研究会メンバー14名(平峯、栁田、岩本、松田、岡村、金田、小山、坂口、友田、中田、星野、松島、道下、鎌田)

◇場所:貝塚市役所 職員会館A会議室

<貴志川線(平成22年9月3日訪問)の今の状況調査>

(岡村)

 2010年に貴志川線にお伺いして、今日と同じ様に和歌山県、和歌山市、和歌山電鉄、貴志川線の未来をつくる会(沿線住民の会)のメンバーと意見交換をした。今回その後の経過を調査した。

  • 「和歌山電鉄、貴志川線の未来を“つくる”会」は、2005年6000名を突破していたが、現在2200名年会費1,000円で、いろんな沿線イベント、利用者が多い時の人員整理、遠征自治会を訪問してPRなど、様々な利用促進活動を行っている。・運営委員会(行政、商工会関係、高校関係、住民団体、和歌山電鐵で構成)主催の「乗って残そう」運動の様々な取り組みが功を奏して、25年度は乗客数229.8万人/年となった。

  • 運営費補助(上限8.2億円/10年)の枠組みで再建が始まったが、和歌山電鉄の努力の結果、2回にわたり補助額を減額し行政に返金している実績がある。それでも、年間6,900万円~8,100万円の運営補助は必要な状況。

  • ハード面の県負担(上限2.4億円)による施設整備により、21年度~23年度で変電所の整備は完了している。・駅前パーク&ライド駐車場について、電車にできるだけ乗ってもらおうと計画した、伊太祈曽駅周辺に68台(2,000㎡)を整備。定期券購入者への特典として、4,000円/月を1,000円割り引いている。

  • 運営費補助を10年経過後どうするかについては検討中。

  • その後の利用者は25年で230万人/年、17年と比べると全体で20%増。内訳は定期外22%、定期で10%、通学が26%増と通学が結構増えている。

  • 「たま駅長」効果で観光客は増加した。車利用もあるが結構電車利用も多い。

  • ツアー客では、香港、台湾の方が多い。1番人気は、「たま」「ニタマ」。2番目に「たま電車」「おもちゃ電車」「いちご電車」に人気あり。フェイスブックなどを含め口コミで知っているようだ。

<貝塚市域 地域遺伝子調査報告>

(平峯)

 水間鉄道の活かし方、貝塚市のまちづくりにとって重要と思われる。貝塚市、特に水間鉄道沿線に残る地域遺伝子を調査した。

◆街道と鉄道網

 街道は南北に紀州街道、小栗街道があり、それと交差する形で水間街道がある。これが貝塚市の骨格を形成していた。

 鉄道網は明治30年には南海本線が難波~貝塚間開通し、明治36年には貝塚~和歌山間も開通している。水間鉄道は、地元の繊維産業を中心とした有力者により大正15年に貝塚南~水間間が開通している。阪和線は、昭和5年に天王寺~和歌山間が開通している。

◆地域遺伝子

 水間鉄道沿線には各駅に隣接して、海塚、鳥羽、石才、麻生中、清児、森、名越、三ツ松の集落がある。現地に入り文献も調査したが、旧集落の中には今でも昔の雰囲気を残すものがたくさんある。また、それぞれに昔話や言い伝えなどがある。例を挙げると、「鳥羽」は「鳥羽城」があったとか。旧集落の中に昔の雰囲気を残している街筋を感じることができる。鳥羽に大日庵がある。明智光秀との関係がある。

 地域遺伝子は、郷土の良さの再認識・再発見の重要なツールになる。少子高齢社会を乗り切る地域への愛着持った人達の存在が不可欠と思う。地域への愛着は地域遺伝子の認識から得られる。新しい世代の人たちもそれを知りながら生活し、暮らしていくサイクルで生まれる。調べたものを知っていただいて、住む人たちの意識改革が必要と思う。

 このように地域遺伝子を活用するとインフラもぜひ必要だろう。例えば鉄道の水間駅を降りて街道へ出る。そう考えると水間街道をおもしろくする必要がある。集落の中をどのような形にしておけば鉄道の駅から集落に行けるかを考えておかないといけない。道が狭いからだめでなく、その雰囲気が良いかどうかが問われている。

■貝塚市より水間鉄道活性化・再生プロジェクトチームの取り組み報告

(貝塚市都市整備部伊東部長)

<水間鉄道活性化・再生プロジェクト> 

 水間鉄道は平成17年、負債総額258億円の巨額の負債で会社更生法の適用を受け、グルメ杵屋の支援を受けて更生計画実施中。加えて少子化等で鉄道事業は利用者数200万人/年を割り186万人/年となっている。

 路線バス事業についても利用者数の減少が続き、バス路線を撤退、現在は貝塚駅から産業団地方面路線のみ運行されている。

 貝塚市として、水間鉄道は市および市民の財産、廃止でなく存続させることが必要と考えている。老朽化した施設の支援を必要とし、5年間で約2億円程度の補助で更新を行っている。国土交通省の鉄道軌道安全輸送設備整備事業を平成23年から行い、今年は6200万円補助している。本来は国は1/3、市は1/3、事業者は1/3だが、事業者が無理ということで市が2/3を補助している。

<水間鉄道(株)の独自の取り組み> 

▽平成21年ピタパICの導入、

▽平成23年から利用者のサービス向上を図るため女性案内者(アテンダント)を配置、

▽駅なかマルシェを月2回(第1・3日曜日)、

▽枕木オーナー募集(414件)

<水間鉄道活性化・再生プロジェクトチームの取り組み>

▽外部からの流入客の拡大に取り組む。

▽地域の方々に支えていただくサポ-ト制度の導入、マイレール、マイバス意識の醸成、水間鉄道に年何回乗っていただいたら廃線にしなくてすむという取り組みをしていく。今年2月大雪降った時、通常の日の2.5倍の方が鉄道利用したことがあった。潜在的には需要があることがわかった。

<「は~もに~ばす」(福祉型コミュニティバス)>

 福祉バスが3台しか走ってなかったところを、鉄道を基軸に黄・青・緑・ピンク・オレンジの5つのゾーンに分けて、各最寄り駅にアクセスし、水間鉄道を補完するシステムに変更した。

■水間鉄道(株)より「水間鉄道活性化」に向けた取り組み、問題意識報告

(水間鉄道 坂本執行役員) 

 平成17年会社更生法、バスも電車も止まらなかったが、従業員には4か月給与が遅配だった。労働組合の委員長だったが、労働者の退職を引き留めていた。260億円近い借金があって、その当時の輸送人員平成15年頃から220万人/年、売上約3億円/年あった。

 株主は株価がゼロになるのを容認してくれた。電車を止めず、走り続けることで市民の方々に理解していただいている。

 会社更生法の手続きの中で「杵屋」の100%子会社になった。その後の対応も非常に苦しい。事故の多発により、公共交通の安全が重視されたがお金がないので、親会社にお願いするしかない。変電所についても、1億数千万円を親会社に出していただいて、何とか5億6千万円程度を5か年計画で支援していただいた。

 設備の更新に関して、鉄道軌道安全輸送施設整備事業(国1/3、地方1/3、事業者が残りを出すという制度、ただし事業者分は貝塚市が負担)を利用して、設備は更新しているが、まだかなり古い物が残っている。 微力ながら需要を喚起するイベントを少ない人数でおこなっている。(枕木オーナー制度など)

 和泉葛城山に登った後、降りるのは蕎原(そぶら)にしていただいて、「ほの字の里」で汗を流していただき、「は~もに~バス」で水間鉄道に乗り継いで帰っていただくという企画で、便利な1日切符を発行している。

(兼弘部長)

 グルメ杵屋の完全子会社になって以来、運営補助や設備更新費など、同社からの借入金は、772,500千円にのぼる。貝塚市と一緒に乗客数を増やし、改善していきたい。

■討論会 <地:地域デザイン研究会、市:貝塚市、水:水間鉄道>

<財務危機について>

(市):バス代替ではさばけないので水間鉄道は必要。上下分離を府に相談したが、貝塚市のみの鉄道なので支援はできないといわれた。市単独ではとても実施できない。

(地):市の支援策は。

(市):老朽化した変電所とか、ハード面の整備には補助を続けながら、経営の独立独歩のような仕組みを作るためにプロジェクト立ち上げた。5年スパンで200万人/年の乗客数を得たい。老朽施設の整備は3億円~5億円、設計に1億円かかる。これをどう償却していくか。車両更新をどうするか。見えるようにしておく必要がある。

(地):そこに鉄道があることは素晴らしいこと。外出するチャンスが多いほど、ぼけ老人が少ない。欧米でも都市交通にすごくお金を使っている。

(地):枕木のところに板を置いたら歩きやすい。周辺は結構市街地。避難路なる。

<乗降客の増加策>

(地):年間200万人は採算ラインか。貴志川線で見れば、運営努力しても今でも年間6000万円~8000万円が必要になっている。水間鉄道の場合でも、運営補助的な話がどうしても出てくる。乗客数を増やすことをしっかり考えないと。

(水):更正前の220万人/年、売上が3億3千万円、その時点で4000万円の赤字。その後210円料金を頂いていますので、輸送人員が目標を上回って、当時の輸送人員を確保できるのであれば、なんとかいける。

(地):自転車の誘導を考える必要がある。サイクル&ライド、自転車にすれば場所が小さく済む。

(地):5.5kmで290円は鉄道としてはかなり高い。サービスが悪いのではないか。

(市):サービスの面では、時間3本を4本にするには何が必要か調査をしてもらっている。どこかで行き違いが必要になる。退避2か所あれば増便できる。

(地):駅勢圏を広げることを検討してはどうか。

<開発・事業所との関連>

(市):府営住宅は住民が減っている。建て替えで空地が増えたが、そこを開発するには、駅までの道路を整備するよう言われている。

(市):東山丘陵の区画整理(76ha)した所も、最寄り駅は森駅。駅前まで自転車。自転車置き場を整備した。

(市):パナソニックの工場があるが、最寄り駅が清児駅。従業員に車をやめて電車とバスで通勤していただけるような仕組みづくりをしながら、潜在的需要を拡大したい。

<市民と危機意識の共有>

(地):鉄道の必要性と現在の危機を行政が感じた上で、市民に説明していくべき。

(水):杵屋が支援に入って、そのまま運行しているので、会社更生も知らない人も多い。

(市):住民のプロジェクトと皆で守ろうというシンポジウムをしている。住民も入っていただいている。

(地):堺市で阪堺線の廃止を止める仕事をしてきたが、市民が必要だということを認識するのが大事。

(地):老人対策など、人の動きを考える中で交通をとらえる。駅へのアプローチを一方通行にするとか、お金をかけない方法で住民とともに考え、実施することが大切。

<市マスタープランとの関係>

(地):人口は将来的にどんな構成になるのか。出生年齢、若者をどう入れていくのか。東山やいろんな開発にどんな年齢が入っていくのか。それに通勤通学が関係してくる。地域で生きた考えを取り入れて開発する必要がある。

<千石荘病院跡地>

(市):大阪市が所有していたが、貝塚市が購入した。4つのエリアに分けて開発を考えている。里山エリアは残し、病院跡地は研究所や学校を誘致するのがベターと考えている。平坦なところは15haぐらい。

(地):跡地開発を急いで決めないで、水間鉄道の活性化とからめながら、ゆっくり検討してはどうか。

■視察


水間観音駅(登録有形文化財)

水間観音駅にある「まち愛cafeみずかめ庵和」

水間街道を行く

水間観音

ほの字の里にて

寺内町を歩く

■参加者の感想・意見・提案

参加者の感想・意見・提案の概要は以下の通り。

【危機感を市民と共有する】

  • 市職員も沿線住民も危機感がないようで、アピールしていない鉄道会社側にも責任があるのではないか。手作りポスターでもどんどん掲出していくべき。

  • 水や空気のように、有って当たり前の感じで、無くなってから大切さに気付いていたのでは、取り返しのつかない事態になると思われる。

  • 市民、企業側で水間鉄道の大切さが共有化された暁には、駅舎等への地元企業の広告や個人サポーター活動(枕木+α)が一層活発になるのではないか。

【事業者・住民・行政の協働】

  • 事業者・住民・行政間の相互信頼に基づくまちづくりを前提に具体策を設定し、実行するのが大事。

  • 各駅の集落ごとのアイデンティティを探し出し、マップに表現し、イベントを住民と協働で実施、住民自身がまちを再発見するよう促してはどうか。

【市の地域整備計画とのマッチング】

  • 鉄道会社のプランと市の地域整備計画のマッチが必要ではないか。

  • 駅周辺に快適な住宅や病院を設置し、コンパクトシティ推進の都市政策を検討してはどうか。

【存続の財政計画】

  • 存続の取り組みは、倒産時(非常事態)と、その後で分けて考える必要がある。

  • 親会社の杵屋から多額の借入金で運営している。杵屋の仕事の手伝い(広告・駅舎店舗)による収入方策ができないのか。このままでは借入金が膨らんでいく。

【上下分離方式】

  • 人口減少、高齢化の時代には経営困難になることが予測される。潮流である「上下分離方式」の適用を再検討し、鉄道基礎施設を市民共有のインフラとして維持更新することが、市の活性化につながるのではないか。

【鉄道・バス・観光施設セット販売】

  • 宿泊施設と協力して、鉄道バスセットの1日乗車券・2日乗車券を宿泊施設で販売することができないか。

【自転車】

  • 各駅に自転車駐車場を整備し、サイクル&ライドを。その管理に地域シニアを雇用したらどうか。

【駅と地域】

  • 集落の路地に駅があり、分かりにくい。駐輪場もない。バスの寄り付きも厳しい。駅がみすぼらしくて暗い。

  • 駅前の雰囲気が見あたらない。都市計画とは縁遠い。

  • 水間観音駅は有形文化財だが活かせていない。旧水間街道に沿道店舗もなく寂しい。

【水間観音】

  • 個々は貴重な文化財だが感動を与えられない。貴重な癒し空間として、センスのある景観形成とサインを。

  • 水間鉄道と水間観音をセットにして、「育てる」感を持てる倶楽部を育成してみてはどうか。

【ほの字の里】

  • 温泉でリラックスできるが、魅力が発信できていない。農業・木工体験、体育館・研修室の利用、地元野菜販売などを、売りのオプションとしてPRできていない。

  • 地区に魅力的な資産が多くあっても、相乗効果がない。

【寺内町】

  • 願泉寺の本堂はすごい。寺内町は江戸時代を通じて外の岸和田藩領から独立していた。寺が役所の機能をも備えていたことになる。

  • 寺内町は14件もの国の登録有形文化財が存在する。登録されていないが同じような家も多く、鉄道沿線にも立派な家が多い。これらを登録して「登録有形文化財の町」を売りにできるのではないか。

  • マップに15件の紹介があるが内覧できない。未登録の旧家を登録するなど、数を増やしてはどうか。


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