主張

ギリシャを対岸の火事にせず、日本の危機回避を考える

岡村隆正

●ギリシャ危機の原因は、ポピュリズム政策

 1974 年の軍事政権崩壊後、民主制に復帰したギリシャは、新民主主義党ND と全ギリシャ社会主義運動PASOK が政権を担った。ND はEC 加盟を目標とし、民主制移行に伴う社会不安を取り除くため、積極的に経済へ関与し、81 年、10 番目の正式加盟国となった。同年、政権を取ったPASOK は、平等を掲げ、現状に不満を抱く大衆を結集するため民衆迎合的な政策を優先し、国営企業支援、手厚い健康保険・年金制度を実現した。さらに、投票の見返りに公的機関の職を与えた上、賃上げ、労働時間短縮、福利厚生の充実まで実施した。その後、 ND も民衆迎合主義の前例に追従し、結果、政権が変わるたびに、公共部門の規模が拡大していった。2009 年、PASOK 政権は、前政権の財政赤字の見通しのウソを公表。これがギリシァの財政危機、経済危機に発展した。現在の急進左派連合は、「ユーロへの残留は希望するが、緊縮財政は嫌」という甘い国民を煽り、反対多数をもって、EU との交渉を有利に運ぼうという危険な賭けを演じている。ギリシャは過去30 数年もの長い間、衆愚政治(ポピュリズム政策)に陥ってきたのだ。

 ●日本も同じ!?

 日本はどうなのか。ギリシャを遥かに凌ぐ1000 兆円を超える世界一の巨大国家債務を放置し、全く議論されないし危機意識すらない。この巨大な国家債務は、市場が返済不能と判断したとき、一気に売り浴びせられ、暴落、財政破綻する。日本国債のランクが、ボツワナ、スロバキアと同じで、韓国を下回っているのを無視している。40 兆円の税収しかないのに、100 兆円を突破する大型予算を組み、国債を発行し続けている。年金・健保の抜本改革はできず、竹下政権のふるさと創生1 億円を始め、農業の個人所得補償、今回の種切れのアベノミクスの切り札「地方創生」でもプレミアム商品券という、金のバラマキ地方振興策が始まっている。今後、自治体で策定される「ひと・もの・しごと総合戦略」により、交付金が配分されることになる。バラマキをしても地方創生はできない。ましてや農業を始めとする産業の体質改善は図れない。やはり日本もポピュリズム政策に陥っていると言えるのではないか。

 ●このままでは見通しは暗い。ならばどうするか。

 日本は、社会経済状況の激変(高度経済成長から低成長の変わり目)期に、制度改革すべきところが、できていない。国民が嫌がる厳しい政策をとれる政治家はいない。緊縮財政・増税より、成長を優先。成長さえすれば、楽に返済ができるなど、事態が悪化していく局面では、聞き心地の良い言葉を並べるリーダーが選ばれやすい。改革は遅れ、破局に落ちていく。破局を迎えたとき、人々はヒトラーのような強烈なリーダーを歓迎し、戦争という債務問題解決手段に進んでいく。一方、官僚は身を削る政策立案はしない。これは統治不全と言えるのではないか。しかしデフォルトが起きるまで手を拱いている訳にはいかない。中央政府に期待できないなら、地方政府を考える時期ではないか。ここで道州制を考えたい。中央政府が統一的にできないことでも、10 前後の道州で、様々な方策により改革していく。改革が失敗に終わる道州があったとしても、共倒れのリスクは回避できる。

 橋下徹さんは、大阪府と大阪市という小さなエリアの権限争いで敗れた。しかし、国の破綻を回避し、東京という一極への集積の悪循環を断ち切り、地域ごとにそれぞれの個性を活かした地域づくりを可能とする道州制なら、国民も理解してくれるだろう。ドイツの例では、「たとえドイツに何があっても自分たち(州)だけは生き残る」というゴーイング・コンサーンの姿勢が明確だと聞く。国が滅んでは元も子もない。今こそ、日本の統治機構を再考し、その回避策としての道州制の実現に舵を切るときだと思うのだが、いかがなものだろうか。

 <出典> 2012.2 村田奈々子「物語 近現代ギリシァの歴史」中公新書、2014.11 大前研一「日本の論点2015 ~ 16」プレジデント社


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