REPORT

福島県被災地を視察して

阪神電気鉄道(株) 技術部 顧問 立間康裕

  この5年間、年に2~3回のペースで東北視察を行っているが、福島県に入るのは今回が初めてである。福島県は岩手、宮城県等のいわゆる津波被害とは異なり、放射能汚染という全く異なった現実が存在する。そのため、福島県下を考察するには原子力発電をどう捉えるかという視点を回避してはできないと思うが、避難者が帰郷できる状況になりつつあるという状況なので、取りあえず現地の現状を視察することとした。福島県の視察地は図-2の通りである。

 

●福島県の被災状況

  東日本大震災において、福島県では最大震度6強が観測され、大きな被害が発生したが、その特徴は平成24年当時の避難者数が約16万4千人(うち約6万2千人が県外避難)という放射能汚染による避難、それも地域全体に及ぶ避難があるということである。そのため福島県の被災地の復興は、時間が止まっているかのような状況であり、他の2県とは全く異なった印象を与えている。(平成27年では避難者数約10万5千人=うち約6万1千人が県外)

  福島県の被災地は、避難指示区域として「帰還困難区域」、「居住制限区域」、「避難指示解除準備区域」の3地域に分類されている。これらの指定面積(平成25年10月時点)は1150k㎡に及び、福島県の8.3%、指定市町村の57%に相当している。

●視察地の状況

  福島第一原発に一番近いポイントを見るため国道6号を走行した。この沿道には各避難指示区域が存在する。帰還困難区域への交差点等は家屋への侵入口まで全てバリケードで閉鎖され、主要な箇所にはガードマンが配置され、沿道建物は当時のままで廃墟に近いものも多数存在していた。途中、福島第1原発への標識がある地点(約6km)で停車し測定したが、線量は7μSVであった。(8760倍すれば年間の被曝線量となる)


福島県の視察地

写真1 富岡駅周辺の状況

写真2 小高地区(南相馬市)の除染作業

写真3 夜ノ森地区(富岡町) 右側は居住制限区域

  富岡町では、津波被害にあったJR常磐線の富岡駅周辺と除染物の処理施設周辺を視察した。(写真-1) ここは居住制限区域にあり駅前商店街も廃墟のままで、人の気配が全くなく、町並みは異様そのものであった。もうすぐ震災後5年となるが、JR常磐線は再整備できるのか、もとのような町に復興できるのか、山積みされた(仮置き)黒いフレコンパックがいつ無くなるのか、非常に不安な気持ちにさせられた。

  南相馬市では、避難指示解除準備区域であり、来年の春頃に規制が解除される予定の小高地区を視察した。小高駅は同市の原ノ町駅からの開通に備えて工事中であり、除染作業も進んでいた。しかし、駅前商店街など建物被害は少ないものの人気が無いため不安を感じさせられたが、地元の商工会が帰郷の準備作業などに訪れる住民のためのサロンを設置すると共に、地区の案内施設もオープンさせるなど力を入れていた。(写真-2)また、平成29年にはJR常磐線が仙台から浪江まで開通予定であり、「小高地区地域協議会」も発足し、その中で「小高地域構想ワーキンググループ」が東大の支援で立ち上がるなど、町づくりの気運が高まってきているのは希望が持てた。

●今後の復興に向けた課題

  ただ、両地区の今後を考えると、津波被害が中心の2県の課題以外にも不安材料がある。それは、放射能汚染の状況だけではなく、汚染や避難に起因する住民の意識、精神的な課題である。

  帰還の意向調査では、富岡町では14%が帰還を希望しているが、過半数が戻らないと回答している。南相馬では29%が帰還を希望し、26%が戻らないとしており、南相馬では帰還率が減少してきていると聞いている。加えて子供を持つ家庭は、安全を信じられないことから県外避難者を含めて戻らない意向が強く、帰還者は高齢者が多くなる傾向である。

  また、補償金による生活の乱れや補償金の有無や条件差による対立など、外からは見えない精神的な要素も大きくなってきているようである。「家があるのに帰れない喪失感」、「育った町がゴーストタウンになっている失望感」、「いつまで仮生活が続くのかという不安感」など、自分ではどうにもできない現実へのいらだちが立ちはだかっているようである。

  一方、県外避難者には、“逃げた”という後ろめたさや残留者からの風当たりもあるようで、避難者は、“福島が危ない”とは言えないジレンマもあると聞いている。住民同志の連帯感を取り戻す過程は、今後のコミュニティづくりの課題になってくると思われる(写真-3)

  放射能汚染という大きな課題を抱えた福島県の避難指示区域の安全をどう確保していくのか、住民に安心を与えられるのかは、国の大きな判断も必要であろうが、地域をまとめていく母体となる市町村の役割も重要であるが、県の主導的な役割と関係組織の連携を期待したい。


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