主張

地域デザイン研究会の存在意義は失われたか?

平峯 悠

●多様性から始まった

 地域デザイン研究会の前身である「泰山塾」は、人々の価値観や社会の多様化をキーワードとして平成元年発足した。高度成長を達成した日本が成熟した社会に移行する中、「多様性」は地域発展の共通認識となっていた。国・大阪府・大阪市、兵庫県・神戸市始め各都市は地域づくりの意欲に燃え、JR、私鉄、コンサルタント、銀行、建設業界も同様の志を持っていた。また関西電力、大阪ガス、経済団体もそれらを強力に
支援してきた。このような中で、関西を地盤として活躍する多くの人々を結集し、情報交換と親睦を図りつつ、新たな地域づくりに貢献することを使命としてきた。この認識はNPOとして正式に認証された平成12年でも同様である。

●急激な社会環境の変化

 2000 年頃から始まった公共事業悪者論、無駄な事業の撲滅、コンプライアンス順守等はそれまでの関西・大阪の様相を大きく変えた。関西を牽引してきた大阪府、大阪市に翳りと衰えが生じ、赤字行財政問題はやる気力をなくさせ、人々のネットワークや連携は利害関係者間の癒着をもたらすという偏った考えが蔓延した。その結果、情報の断絶や交流の停滞が生じてきた。同じような現象は首都圏にもあったが、霞ヶ関始め政治的権力あるいは経済的な求心力が継続したため、一極集中が加速され、魅力を失った関西・大阪から本社機能はもとよりあらゆる機能が東京等へのシフトとなって表れることになる。残ったのは関西から動くことのできない組織や企業などで、相互の連携よりもそれぞれの組織防衛と存続に走り、結果的には活力低下に陥っていく。

●関西の良さが失われる?

 関西は一つ一つでまとまりがないと言われる。しかしこれは歴史的にも地形的にも関西独特の個性である。京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀の独自性に加え、大阪市や周辺の個性豊かな都市群、さらに多くの優秀な人材を輩出する関西各地の大学・教育機関等でそれぞれが切磋琢磨し、全体として活性化することにより初めて首都圏や他の地域と対抗できる。関西は連合体として機能する。しかし社会環境の変化によって最も重要な人的ネットワークと交流が途絶え、各組織や企業が何を考えどのような行動をするかにほとんど関心がなくなり、「内向き」「引きこもり」の状態になれば関西の良さが失われるのは当然である。有能な人材や組織がその能力を外に向かって発信しなければ衰退していく。「ひとつひとつ」がマイナスに作用し負のスパイラルに陥っていくことは阻止しなければならない。

●政治と地域

 優れたリーダーの必要性は、これまでも都市・地域の大きな課題として議論してきた。稀代の突破力を持つ橋下徹氏が大阪に現れ、国との対決や教育改革、財政再建などは大向こうから拍手喝采された。しかし地域・地方行政は、首長とそれを支える行政組織が市民・住民の理解を得て着実に成果を挙げていくことが必要で、政党色や対決姿勢が持ち込まれるほど不幸なことはない。今後どうなるのか。

●地域デザイン研究会はどうする?

 地デ研の特徴は、現在社会の多様性や日本の伝統文化に即してまちづくりの方向を見いだそうとしてきた。先進的な地域づくりを目指す徳島県上勝町、鳥取県智頭町等などをいち早く取り上げるとともに、都市再生、都市景観、リーダーと地域づくりなど常にこれからの方向を先取りする活動を行ってきた。しかし原点である多様性、切磋琢磨する関西の良さが陰り、ネットワークが機能しなくなってきた中で今後どのように位置付けるのか。

 NPO発足以来ユニークな存在として定着してきましたが、地域デザイン研究会の皆様、どのようにお考えでしょうか。


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