読者の声

■日本の危機管理を考える

  2015年夏号の主張「ギリシャを対岸の火事にせず、日本の危機回避を考える」に関連して、国債の現実、公共事業の役割、格差是正、景気回復について考察してみたい。

  国債は「国」の対外借金ではなく、基本的に「政府」の国民や法人に対する借金である。国民・法人は借金を背負っているのではなく、銀行等を通じて政府に貸しているということである。

  国債(2015年9月時点で1,040兆円)の所有者別内訳をみると、日本銀行、銀行等で90.2%、海外9.8%、となっている注1)。これに対し、ギリシャでは海外が71%、国内が29%となっている注2)。また、ギリシャの場合は自国通貨ではない。日本は円建てである。以上から、日本の場合、現状では国債の暴落による破綻は生じないと思われる。なお、企業などの投資を含めた「国の対外負債」は、2014年末で578兆円。それに対し対外資産は945兆円で差引純資産は367兆円で日本は債権国にあたる注3)。

  公共事業は基本的に60年償還の建設国債により賄われている。投資であって資産が残る。それにより、人々の安全性、利便性は増し、産業の活性化も図られる。税収も増え建設国債の償還に充てることができる。ところが公共事業費は2001年に15兆円(補正含む)とピークを迎えたが、その後下がり続けて2015年度は6.6兆円となっている注4)。しっかりした計画に基づく基盤整備の拡大が景気回復にも寄与する。

  国債破綻よりも、我々にとって困るのは格差の拡大である。2014年度の所得金額別所帯数の相対的分布を見ると、年収200万円以下の所帯は20.5%(1,034万所帯)に達する。また、相対的貧困率注5)は、1985年に12%であったものが、2014年には16.1%になっている注6)。今こそ、累進課税の強化、社会保障の充実、医療費、教育費の支援、子育て費用の支援など、所得の再分配を拡大すべきである。

  現状では、非正規雇用労働者割合の増大、後期高齢者医療制度による高齢者からの保険料徴収、生活保護の扶助費の引き下げ、老齢・障害・遺族年金給付の引き下げ、インフレ時の物価スライドの縮減、消費税増税など、わずかずつに見えるが、低所得者や高齢者にとって厳しい政策がとられている注7)。

  一方で、法人税の切り下げが行われている。法人税率(国税のみ)の1984~87年のピーク時には、43.3%であったものが、軽減が続き、2015年度には23.0%になっている注7)。また、所得税の最高税率は1974年には75%であったが、2015年には45%(年収4,000万円以上)になっている注8)。

  建設国債を除くいわゆる赤字国債が増え続けるのは好ましくないが、負担を求めるべきは一般国民ではなく、高所得者、大手企業にこそあるべきだろう。一般国民の所得が増えれば、購買力が増え、物やサービスの売り上げが増え、景気が循環する。その逆に、大企業を優遇しても、今の経済状況では新たな投資は控えられ、また労働者の賃金に波及せず内部留保が増えるだけだろう。企業の内部留保(全産業)は2010年から増え続け、2014年度には342兆円に達している注9)。

  上からの景気回復ではなく、下からの景気回復が望まれる。格差是正、景気回復のためにも、所得の再分配の強化が待たれる。(T.K)

注1)~注4)、注7)~注9)財務省資料
注5)相対的貧困率:貧困線(等価可処分所得の中央値の半分(2012年で122万円))以下の所帯の割合注6)各種世帯の所得等の状況(厚労省資料)
注7)「安倍政権の社会保障改革を問う」伊藤周平((鹿児島大学法科大学院教授)、世界2016年4月号
その他参考文献:「日本が国債破綻しない24の理由」、三橋貴明、経営科学出版PDF版。


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