討論会

5年経過した東北復興 その問題点を探り、これからの地域づくりを考える

潮騒春号(118号)紙面に掲載した岡村隆正氏の問題提起「東北復興の仕方はこれでよかったのか?」を受けて5月28日、「5年経過した東北復興、その課題を探り、これからの地域づくりを考える」と題する討論会が行われた。パネラーは地デ研メンバーの岡村隆正氏、松島清氏、前田秋夫氏、立間康裕氏(後半から参加)、そして復興庁職員として2年余り山田町役場で鉄道復旧を含むまちの復興に従事した長瀧元紀氏(京阪鉄道)の5人で、コメンテーターを岩本康男氏が担当。5年の経過で見えてきた課題、今後の地域づくりで検討すべきことなどを語り合った。(文責:「潮騒」編集委員会、岡村隆正)

討論会風景 今年3月で5年を経過した東北復興だが、いまだ復興の姿が見えてこない。未曽有の被害に対し政府も無限の予算を付け、地元負担ゼロの形で進めてきた。過疎化が進む地域ということから当初は創造的復興がうたわれたが、時間を要する中で人口の流出を招いている。地域デザイン研究会でも、現地視察やフォーラム開催などを通じて問題意識を持ち続けてきたが、今回の討論会では、あらためて課題を見つめなおし、今後の地域づくりのヒントを探ろうと実施。討論会前半では、パネラー各人が現地で見たこと、考えたこと、主に課題について話した。

■現地で見たこと、考えたこと

 松島氏は、「閖上地区での復興土地区画整理事業では、地元の賛同が得られず時間ばかりがかかっている。できたとしても地元住民が戻ってくるか疑問」、「南三陸町では、安全・安心優先のまちづくりが、まちの原風景喪失につながっている」と懸念を示した。一方で「女川町ではURによるCM事業として、従前のイメージを残すデザイン事業が進んでおり、女川駅も移転が終了、駅前商業施設も開業するなど順調」と地域による進捗の違いを説明した。

 長瀧氏は、「JR山田線を含む嵩上げ、巨大防潮堤など大規模な復興計画のため、地権者交渉や合意形成が難航」、「復興交付金の申請手続き、査定などに時間がかかり過ぎ、思うようにならない」、「膨大な工事量、厳しい工事調整により相次ぐ落札不調」などと説明。「縦割りによる弊害、長期間復興に伴う自治体、住民の疲弊を感じている」と話した。

 前田氏は三陸鉄道・JR山田線について触れ、激減する輸送人員から「鉄道として成り立つかが見えてこない。利用者は高齢者と観光客であり、よほどの観光客増がなければ、鉄道維持は難しい」と指摘。三陸地域は「地元振興・観光・鉄道の三位一体でうまくやらないと、全てが収まらない」と復興への課題を挙げた。

 昨年秋に陸前高田市、大槌町、石巻市を訪れ、市民の語り部と現地視察した岡村氏は、「復興に時間がかかり過ぎて人口が流出、地域の自立的再建を難しくしている」、「時間がかかり過ぎているのは、国・県・市町村それぞれが巨大土木事業を選択したからではないのか」、「これでは教訓『津波てんでんこ』も生きてこない」と述べた。

●産学官のプランづくりを

 コメンテーターとして意見を求められた岩本氏は、「長瀧さんのように、民間企業の立場から復興支援にいくことは素晴らしい」と語るとともに、「行政のトップは短期のことに目が行きやすい。職員は長期的。そこでバッティングしやすい。復興でも立場の違いがあると思うが、役人ばかりでなく、そこに民間関係者や学者が加わり、産学官のプランで事業を進めると、違う答えが出るかもしれない」と語った。さらに岩本氏は、「復興予算は5年で26兆円、あと5年間で使う6兆円を加えると32兆円。被災者一人当たり換算で6,800万円。それだけあれば別の発想も可能。将来のことも念頭に、今のうちに本当の議論をしておいたほうがよい」と語った。

■今後の地域づくりで検討すべきこと

 前半の課題認識を踏まえ、パネラー各人から今後の地域づくりへの意見・提案を話してもらった。

●原風景を生かした地域づくりを

 松島氏は、ハード面に目が行きがちな中でソフト活用の重要性に触れ、東松島市陸前小野駅前仮設住宅の作業所で製作されている、ソックスモンキー「おのくん」(キャラクター)を媒介とするコミュニティの輪の拡大を紹介。「仮設住宅でのコミュニティを維持しながら、さらに発展させ、長く意識してもらう取り組みとして、これは優れものといえる」と強調した。

 また、これからの地域づくりを考えるうえで、「まちの原風景を生かした地域づくり(復興計画)」に言及。女川町(町内から海を意識できるまちづくり)、岩沼市(圧倒的な嵩上げを行わず、数カ所の築山によって避難場所を確保、原風景を維持)の視察事例を紹介し、「生まれ育った原風景は、次につないでいくための貴重な財産。防災対策の面から変わることはやむを得ないとしても、そこにあった空間を極力残した上での復興計画の重要性を感じた」と語った。

●地元裁量権がある「取り崩し型復興基金」を

 長瀧氏は、「時間がかかっている」ことの原因として、防災対策(ハード面)の大規模化を指摘。「最終的には逃げるという『津波てんでんこ』を基本に、理想を追うのではなく現実的な復興にポイントを置くべき」、「時間の経過で産業も人もどこかへ行ってしまう状況下では、根本治癒をしようと手術しても、体力がもたない例えから、まずは対処療法を」、「水産業、農業は比較的早めに復旧できた。復興は暮らし・生業の再生を最優先にすべき」、「役場などの公共施設は、防災拠点としてつぶされないところに置くべき」と話した。そして復興予算のあり方について、自由度の高い予算申請・執行、地元裁量権がある「取り崩し型復興基金」を提案した。

●長い目で「三陸」を見つめなおしてみたい

 三陸鉄道復旧に関連して地域づくりに触れた前田氏は、「宮城と岩手では状況が異なるかもしれないが、三陸に限ってみれば人口減少など基本的ベースは変わっていない。津波で新たな局面を迎えたが、地域振興、100㎞の鉄道維持のためにも『観光』を重視せざるを得ない。それなりの魅力もある。逆に堤防など巨大土木構造物が今後どうなるのかは分からないが、慎重に判断すべき。500年に1回確率の防災対策も重要だが、日々の暮らしも大変。その辺りのバランス感覚が重要であり、もう少し長い目で三陸を見つめなおしてみたい」と話した。

●巨大堤防をつくらない選択肢「津波氾濫原」

 岡村氏は、「課題解決に向けて」と題して、①巨大堤防をつくらないという選択②台地造成③地方主権の地域づくり④産業振興、の4点を提案した。

 ①と②は、時間をかけない手法として、津浸水区域は「津波氾濫原」に指定。そこは都市的土地利用をしないこととし、所有者から買い上げもしない。氾濫原は守る必要がないので、巨大堤防は整備しない。その一方で所有者に対しては、旧市街地に近い山を買収し、海の見える台地造成を3年程度で行い、固定資産税対応面積を確保して無償提供するという提案である。

 ③は、地方主権の地域づくりの復興交付金創設を提案。復興交付金は、被災直後に被災度を基準に総額を算定、その一定額を被災県に使い道を問わずに託してしまう。国主導でなく、地域の事情に最も精通した県・市町村が責任を持って、短期に円滑に実施できる仕組みを形成するとしている。

 ④については、海を資源とした水産・観光が主産業であり、特に水産業は庭先漁港でない一定規模以上の漁港として整備、若者が就職できる産業にするべきだとしている。また、復興事業は地元産業が興るまでのニューディールとすれば、適当な規模の復興事業であるべきだとして、地元産業の人手までを奪うような急激で過大な復興事業は、建設業ばかりを増やし、産業構造を歪(いびつ)にし、復興が終われば増えすぎた建設業もつぶれてしまう。「人手も考慮した事業量や産業構造」の重要性を強調した。

●過去の経験を活かす

 これらの提案に対しアドバイザーの村橋正武氏は、「地元負担をなくす」「人の派遣」「インフラの早期復旧」「てんでんこを活かす」などの点で、「国も、阪神淡路大震災を含む過去の経験を活かそうと努力している」と強調した。

●自治体間で平常時からの連携が欠かせない

 大震災以降、東北復旧・復興のため何度も現地に行き来している立間氏は、「時間がかかっている中で、仮設住宅でのコミュニティが壊れつつある」と新たな事態の発生を懸念している。一方で同氏は昨年から福島県にも足を運び、津波被害とは全く異なる放射能汚染にともなう被害の実態を目の当たりにしている。規制が解除され、帰宅者が今後増えていく中で、「コミュニティづくりはまさにこれからの課題。周辺を含めたまちづくりをどうするかについても探りたい」と話した。また、5年間を振り返って感じることとして、「自治体は平常時から、同時被災しない複数の自治体と防災中心の連携をとっていくべき。裏の連携の重要性を感じている」と話した。


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