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■原子力発電の功罪

 福島第1原発事故については、発生当初の1年ぐらいは大きく報道されたが、現在はあまり報道されない。一体どうなっているのか考えたいと思う。

 日本の原子力開発は、戦後占領が終わった後に始まった。1954年に原子力研究開発予算が国会に提出され、認められたのがそのはじまり。1955年、アメリカから日本へ濃縮ウランを貸与するための日米原子力研究協定を締結。アメリカのコントロールの下で、原子力開発が始まる。原子力協定は当初は個別に承認をとる方式だった。その後、1979年にスリーマイル島原発事故、1986年にはチェルノブイリ原発事故を経験している。日米原子力協定は1988年包括的同意方式で調印。わが国の核燃料サイクル計画について長期的な見通しのもとでの安定的運用が可能になった。

 一方で、プルトニウムは増え続け、国内外で計約48トン(長崎型原爆の4,000発分)。これの消費のめどはない。核兵器をつくるのではないかとの疑いを払拭するために、高速増殖炉を推進する必要があるがその可能性はどうなのだろうか。夢の核燃料サイクルということで、1967年動力炉・核燃料開発事業団が設立され、1995年8月に発電開始したが、同年12月にナトリウム漏洩事故が発生し、運転停止となった。2010年8月には原子炉容器内に筒型の炉内中継装置が落下、長期の運転休止となる。2016年、政府はもんじゅ廃炉へ向けた最終調整に入ことになった。 福島県からの避難者は、2016年8月現在、福島県内46,153人、県外4万0,833人、合計8万6,986人にのぼる。これだけの人が生活を破壊され、ふるさとへ戻れない状況が続いている。

 事故による放射線の影響が出ている。小児がん検査の結果では、小児甲状腺がんおよび疑い人数は、先行検査・本格検査を合わせて175人にのぼる。これは、受検者数30万0,476人を分子におくと、1,717人に1人の罹患率。日本全体では、100万人あたり0~3人であり、明らかに原発事故に起因すると思われる。

 福島第1原発敷地内の汚染水対策では、当初「鉛直バリア方式」が提案されたが、東電が「それでは1,000億円かかり、債務超過になる」とのことで、研究開発費という名目で、開発途上の凍土壁を国の予算でやることになった。結果、いまだに閉合はなされず、汚染水が垂れ流し状態になっている。安倍首相の「アンダーコントロール」の国際公約も果たせていない。

 避難指示解除の基準が、年間20msv(ミリシーベルト)ということだが、本来公衆に暴露される放射線量は年間1msvまでとされている。放射線量に関しては、絶対安全値ともいえる閾値(いきち)は存在せず、自然界と同程度なら許容するという概念に基づいている。小児がんが福島で有意に増加していることを考えると、これは問題があると思う。

 原子力産業による「功」はもちろんある。原子力発電に伴い、そこに働く人、関連産業等。その影響があまりにも大きいため、うかつに原発をやめられない。しかし、そこに投資効果、波及効果があるかどうか。電力を生産しているのはもちろんだが、放射能廃棄物の処理方法が確定していないし、プルトニウムは増え続ける。いずれ廃炉になるその費用、いったん事故が起これば、本来は電力会社が破綻する。続けるも地獄、やめるも地獄。あなたなら、どちらを選びますか?(T・K)


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