土地利用政策、景観政策の実態を聞く~プロジェクト研究会「都市計画」の取り組み~
地域デザイン研究会の会員有志は、成熟社会(人口減・少子高齢)における新たな都市計画のあり方を明らかにすることを目的に、プロジェクト研究会「都市計画」を立ち上げ、内部で情報収集・検討する一方で、外部のキーパーソンを招き、補完してきた。昨年(2015年)1月に国土交通省技術審議官(都市局担当)の清水喜代志氏に「社会ニーズと立地適正化計画」を、同年9月に都市開発コンサルタント顧問の佐藤健正氏に「ニュータウン開発を中心としたこれからの都市計画を考える」をテーマとするセミナーを実施した。
そして今回、京都市が先進的に進めている「土地利用政策」「景観政策」について7月22日、国立京都国際会館館長で元京都市助役の木下博夫氏、京都市都市計画局建築技術・景観担当局長の松田彰氏から、その実態を話していただいた。
■京都市の「土地利用政策」「景観政策」
<目的>
戦災を受けず、戦前の街並みや商店街、伝統産業が数多く残った京都が、その街を京都らしさとして守り、ものづくり(物質文化)とものがたりづくり(精神文化)をベースに、文化創造や環境・観光等を切り口に、ひとづくりを通じて、都市格アップのまちづくりを目指す。
<法体系>
「京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例(平成12年度)」のもと、「京都市商業集積ガイドプラン」、「京の景観ガイドライン」で進めている。
(1)京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例(平成12年度制定)
まちづくりに関する手続条例として制定。基本の考え方は、事業計画を早期に周辺住民に開示し、地元と密に情報交換をしてもらうための事前の届出を前提としている。適合すべき「まちづくりの方針」として、都市計画マスタープラン、京都市商業集積ガイドプラン、京(みやこ)の景観ガイドラインを位置付けている。
(2)京都市商業集積ガイドプラン(平成12年度制定)
まちづくり3法の一つ大店立地法が制定された際に、従来の商業調整がなくなるため周辺商業者や住民に影響がないよう制定したもの。エリア毎に商業の規模の目安を定めたのがミソ。
最大の難問は、私権に関わるゾーニングであったと思われる。商業の規模の目安をつくるということで、概念上のゾーニングとしているが、従来からの土地利用や地域特性を踏まえ、きめ細かく示され、明確に図示できるものとなっている。
結果、商業中心と言いながら、地域の成り立ち、商業の歴史も踏まえて、住宅、ものづくり、家内工業と言った木目細かなゾーニング規制ができるようになっている。
(3)京(みやこ)の景観ガイドライン(平成19年度制定)
景観法(平成17年度施行)を受け、より具体に分りやすい解説本として策定。5本柱(高さ、眺望、デザイン、歴史的町並み、屋外広告物)+1本柱(支援制度)を軸に推進。
根拠法令は、都市計画法、屋外広告物法、独自条例、補完条例である。
最大の難問は、中心の「田の字」エリアの建物高さをどうするかだったと思われる。従来31mの高さ規制をしていたところだ。長く住み続ける人間にとって、高い建物が建つことが決してよいことでないという考えが広がっていたため、表立った反対がなく、15mにできたようである。
<評価>
戦災を受けず古い街並みが残っていたこと、そこにずっと住み続けてきた市民の住む環境を守るという建前重視(大阪では、高く売り抜けるという本音重視になるのではないか)など京都の特殊性はあったと思うが、私権に関わる規制について、行政による地道な調査を基礎とし、市民、開発業者、議会などの合意形成を乗り切り、よくやったものだと感嘆した。
現行法、独自条例、補完条例でカバーし、わかりにくい法体系ではあるが、現行法が陳腐化し使いにくく、また、きめ細かいことができないためと言える。
プロジェクト研究会{都市計画」では今後、これまでの研究成果をまとめてまいります。
(文責岡村隆正)