「未成線」の利活用で地方創生を!

奈良県五條市で全国初の「未成線サミット」開催

大戸修二

 地域の期待を担い計画・建設が進められながら、経済情勢や国鉄再建問題などで実現されなかった幻の鉄道路線「未成線」。その数は全国で81カ所あるといわれる。未成線「五新線」遺構群の利活用で地方創生を目指す五條市で3月4日、全国6地区の未成線関係者を集めた「全国未成線サミット~国土政策フォーラムin五條」が開催され、各地の取り組み状況、課題、方向性について語り合った。

 奈良県五條市と和歌山県新宮市を結ぶことで木材供給ルートを確保しようと計画されたのが「五新線」。1937年に着工したが、戦争激化で中断。戦後に五條~阪本間(阪本線)の工事が再開され、1959年に五條~城戸間11.7㎞が完成。工事は継続して進められたが、1982年に工事は完全にストップされた。その後、全国的にも珍しいバス専用道路として路線バスが運行されるようになったが、トンネルや橋梁の老朽化を理由に2014年(平成26年)9月末で交通利用の役目を終えている。

●全国から6地区が参加

 サミットに参加したのは佐久間線(静岡県)、今福線(島根県)、岩日北線(山口県)、油須原線(福岡県)、高千穂線(宮崎県)、五新線(奈良県)の未成6路線の関係者らで、それぞれの未成線の魅力・課題について話題提供。それを踏まえた上で、「未成線の利活用」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

 この中で未成区間について、高千穂線では軽トラを改造した車両を運行、今年3月からは新たにディーゼルエンジン搭載の新車両「グランド・スーパーカート」を導入。岩日北線では愛知万博で活躍した電気自動車を導入するとともに、光る蛍光石でトンネル内を装飾することで人気スポットを演出。油須原線では岐阜県・神岡鉱山で活躍したトロッコを譲り受け、観光鉄道「赤村トロッコ油須原線」として開通。これら3地区では形は異なるものの、観光施策としての車両走行を実現している。

 一方、今福線では「まずは路線図をつくろう」とイラストマップ化に全力を挙げてきた。佐久間線ではトンネルを地震観測施設に利用しているほか、民間側からワインセラー(トンネル区間)やドローン試験場にという活用要請もあるという。五新線では2015年に五新線再生推進会議を発足し、活動の一環としてGOJO大学「五條の昔と未来を語る」講座を開設。また、跡地を利用した子供達の「木レールイベント」を定期開催するようになった。

●物語づくりが欠かせない

 パネルディスカッションに参加した鉄道研究家・森口誠之氏は未成線利活用について、「建設当時を知る人が減少していく中で、まずは未成線の物語づくりが欠かせない」と強調した。「負の産業遺産、未成線で地方創生」と題して講演した新名惇彦氏(奈良先端科学技術大学院大学特任教授)は、「今回のサミットは1回目。全国の未成線地区ネットワーク化への一歩としたい」と語り、連携による地方創生を呼びかけた。

■土木遺産に「五新線」認定

 五新線が土木学会の平成28年度選奨土木遺産に認定されることが決まり、同会場で田代民治土木学会会長(写真右)から太田好紀五條市長(写真左)に土木遺産認定証が授与された。選考理由として、市民による路線敷地を利用したイベント開催が活発、利活用の中で老朽化インフラの維持保存技術の向上が期待できる、大構想にかけた先人の志を未来に語り継ぐ姿勢が感じられる、などが評価された。


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