連載企画

ゆけば・・・

初めての東北旅行の思い出

前田秋夫

 僕は東北旅行が大好きである。大学1回生の時に初めて東北に行ってから、20回以上は行っている。それぞれが自分の人生と重なり、たくさんの思い出がある。特に初めての東北旅行ではすこし大げさかもしれないが、旅で性格が変わったような気がする。

<旅程>京都発(1972年10月5日)→裏磐梯(五色沼)→鳴子温泉郷→平泉→乳頭温泉郷→十和田南→奥入瀬→浅虫温泉→下風呂温泉→京都着(10月15日)

◆旅のきっかけ・ジャコビニ流星群

 1回生の前期試験が終わりに近づいたころ、同級生のN君から、「試験休み、ジャコビニ流星群を見に行かないか」と声をかけられた。すごい流星群らしく、前回の1946年の時はHourlyRate、何万という流星が大出現したという。「生きている間には、見られないかもしれない」と言われ、「いいね」と返事をした。「試験が終わりしだい出発する。目的地は10月9日乳頭温泉だ」「どこ、それ?」「東北地方の山奥にあって、日本で一番星がきれいに見られるといわれているところだ」「1泊目の宿と東北ワイド周遊券を買っておくからお金用意しといて」と言って、さっさと教室を出ていった。貧乏学生のこと、手元にあったのはその月の生活費2万5千円のみ、このお金が続く限りの旅行である。

◆京都から裏磐梯へ

 10月5日京都駅を出発した。周遊券で乗れる乗り物しか使えない。次の日の昼ごろ、猪苗代駅に着いた。「磐梯山を山越えして裏磐梯へ行く」。N君がリーダーである。磐梯山に登りはじめたが、周りはみんな本格的な登山姿、僕らは普段着である。隣を登っていたおじさんが「磐梯山をなめたらいかんよ」と言い残して追い抜いて行った。確かに磐梯山は1,800mを超える山で決して普段着で登るような山ではなかった。死にそうな思いで山を越え、目的の裏磐梯

のユースホステルにたどり着いたときは、日が落ち冷え込んできていた。

◆裏磐梯の夜

 やっと食事にありつける。裏磐梯のユースホステルの受付でN君が「予約しといたNです。2人・1泊です。食事はすぐ食べます」と言うと、受付の人が「満室なので、予約は取れませんという返事をしたはずですが…」と言った。「どこでもいいから、泊めてください。死んでしまいます」と話した結果、「夏用バンガローならあります。毛布をお貸ししますので」。10月とはいえ東北の山の夜は寒い。食事を終え、バンガローでお酒を飲み、体を温め、さっさと寝た。寒かった。前途多難を予想させる旅の始まりだった。

◆旅は続く

 この後も苦難は続き、ジャコビニ流星群も見られなかったのであるが、この旅を終えた頃、「まじめなだけが取柄で頭痛持ちの学生」だった僕は、「ネアカでいい加減な頭痛持ちでない学生」に変身していた。僕を変身させてくれたN君が、今年急死した。お葬式で見た彼の笑顔の写真は、「どや、東北は楽しかったやろ」と語りかけているような気がした。 



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