読者の声

■一本の木

 私はマンションの2階西角に住んでいる。南側には15階建ての別棟が立ち、北側は道路に接している。西側に、十数年前ホームセンターができた。それまでは、低利用の資材置き場で、マンション側には無花果や桐の木が植わっており、街中にもかかわらずのんびりした空間だった。

施設は屋上が駐車場となった平屋建て、壁は白の鋼板張りだ。開発に係る環境対策として北側道路沿いにケヤキが三本植えられた。しかし残ったのは一本だけ。これまで開発側の立場にあって、厚みやボリュームのない植栽の効果についてはあまり評価せず、開発条件だからと割り切って対応していた。

しかし生活者になると、評価が変ってきた。無機質な隣の壁が目に入ることと日光の照り返しを防ぐため、リビングルームのよしずは二重にして使う。そしてよしずの途切れたフランス窓からは、見越しの松ではないが、屋根の向こうにケヤキが見えるのだ。風が吹けば葉がそよぎ、夏には蝉のたまり場となる。常連のヒヨドリ、シジュウカラ、イソヒヨドリのさえずりの舞台ともなる。

我が家に自然の音や移ろいを運んでくれる「一本の樹」は、大きく育った。(止り木)


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