悠悠録

"ハレ"と"ケ"が成長を支える

平峯 悠

日本の経済成長率はこの10年ほぼ横ばいである。しかし欧米諸国では2倍以上の成長を示している国も多い。同じように成熟した先進国でありながら、なぜこのように違いが出るのか。これだけモノが溢れ、住宅事情もよくなるとこれまでのような大量生産・消費による経済成長は落ちるのは当然である。国を成長させるには、単なる生産・消費という視点だけでなく、ものづくり技術の更なる進歩、文化・芸術・芸能活動等による多種多様な“内需”を拡大させることが必要である。

最近の日本の成長が鈍ったのは、首都圏への極度の人口・産業の集中と地方の衰退という歪な国土構造とそれに伴う生活スタイルの変化によるところが大きいと考えている。異常なまでに首都圏に集中した現在に比べ、大正時代は、東京(江戸)、京都、大阪などに集中がみられるものの人口は全国ほぼ均等に分布し、その中で地域特有の生産や流通、教育、文化などが育まれ、“ハレ=非日常”と“ケ=日常”の生活サイクル即ち年中行事が守られてきた。その結果当時としては世界の先進諸国に負けない豊かな国でもあった。

年中行事は、季節の移り変わりに特定の集団や地域によって行われるハレ=非日常の行事であり、遊び、祭り・祭礼、節句、神社・仏閣行事、職人・商人・農村の行事など様々で、その中で日本的な道具・衣装が使われ、工夫され、それを支える多くの人達が役割を担う。このような全国各地におけるハレとケという日常の生活習慣が、人々を地域に定着させ、生活・経済の基盤として地域の内需を下支えしてきた。例えば岸和田だんじり祭では地域ごとの伝統やしきたりが受け継がれ、まち総出の参加により成立している。さらに山車の整備更新には、伝統を守りそれを受け継ぐ職人達がいる。衣装も同様であり、その結果まちが活性化し、生産や消費が拡大するという経済効果を生み出す。それが岸和田人の誇りともなっている。京都や金沢、博多など伝統文化が根強く残る地域ではその伝統技術、様式、考え方が新たな形で世界的に評価され、観光客、訪日客の増加にもつながっている。そのような事例はまだまだ全国各地に数多く残されている。ハレとケという、生活サイクルをベースにした伝統的な生活を維持し豊かな生活を送るには、衣服、食、道具、伝統を生かす行動などが不可欠であるが、それにより着実に生産は向上し消費が生み出される。

内需を拡大させるには、もちろん技術力を生かした新しい商品開発や人々の交流を促進する観光政策、地方の活性化方策が必要であるが、それを支えるのが「ハレとケ」という日本の伝統的な生活サイクルの再生ではないだろうか。西欧の映画で「私はこのまちが好き、離れたくない」というセリフをよく聞く。日本でも全国各地、まちでこのように言われるようになればさらに成長するに違いない。


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