REPORT

「歴史・地域資源を活かしたまちづくり交流会議」を開催

 地域デザイン研究会は2月2日、大阪市中央区の大阪府男女共同参画・青少年センターでNPOなどまちづくり団体の関係者と学識経験者を集めて「歴史・地域資源を活かしたまちづくり交流会議」を開催した。これは一般財団法人近畿建設協会の平成29年度支援事業として実現したもので、会議には大阪府域や周辺地域で活動する6団体が参加、各団体の活動状況、課題などを紹介した。これを踏まえて全体討論が展開された。

●6団体が参加、学識者交えて討論

すでに多くのNPO法人等がそれぞれのミッションに基づき活動しているものの、貢献度、財政・財源問題、永続性・継続性など様々な課題・問題を抱えている。開会にあたり進行役を務めた平峯悠理事長は、「NPO法施行から20年が経過したが、まちづくりを定款に掲げるNPOは現在約2万3,000法人。その中で課題も出てきている。皆さんとの情報交換を通じて共有化を図り、解決の糸口が見いだせればと願っている」と語った。会議では、さまざまな課題について学識経験者を交えて活発な討論が展開された。その結果は後日、「交流会議 とりまとめと提言」(平峯悠理事長)として示された。※提言内容は末尾に記載

参加した団体は、▽NPO法人すきなまち京田辺塾(橋本善之代表、鈴木俊寛副理事長、藤田捷正理事)▽船場げんきの会(谷口康彦副代表世話人、日比哲夫副代表世話人、千葉桂司副代表世話人、三谷直子事務局)▽NPO法人彦根景観フォーラム(谷口徹理事=柏原宿歴史館館長)▽NPO法人ひこね文化デザインフォーラム(戸所岩雄副理事長=計画工房I.T)▽NPO法人ひらかた環境ネットワーク会議(伊丹均理事長、末岡妙子公共交通部会副部会長、佐々木麻奈枚方市土木部、北西進太郎京都京阪バス)▽NPO法人地域デザイン研究会(平峯悠理事長、岩本康男副理事長=都市活力研究所、岡村隆正事務局次長=貝塚市地域整備監)の6団体。学識経験者として、石塚裕子氏(大阪大学未来戦略機構特任助教)、篠原祥氏(大阪大学博士課程在籍)、村橋正武氏(立命館大学総合科学技術研究機構上席研究員)が出席した。 第1部では各団体からのプレゼンテーションが行われ、主な事業や課題などが紹介された。※各団体プレゼンテーションは次表参照


すきなまち京田辺塾

船場げんきの会

彦根景観フォーラム


ひこね文化デザインフォーラム

ひらかた環境ネットワーク会議

地域デザイン研究会

■各団体からのプレゼンテーション

NPO法人すきなまち京田辺塾

<主な事業>小学生による自由研究支援事業、地域の防災安全支援事業、まちづくり推進事業、市制20周年記念提案事業京田辺情報マップの作成
<課題>行政、住民ともNPO活動への認識が低く、活発な市民の活動までには至っていない運営資金は収益確保を目指した空家巡回点検事業が軌道に乗らず、行政からの助成に大きく依存

船場げんきの会

<主な事業>建物を楽しむ(建物の魅力の発見)、通りと筋・まちを楽しむ(イベントとまち空間)、船場まつり、船場博覧会、御堂筋ギャラリー、三休橋筋プロムナード、水辺を楽しむ、歩いて楽しむまち(近代の歴史・文化を訪ねて歩く9つのコース)
<課題>行政による「まちの案内板」設置事業が始まったのを契機に「船場倶楽部」を設立。まちの案内板の計画、維持管理のみならず、船場のまちづくりの「窓口」機能を担う統合組織の検討を始めている。

NPO法人彦根景観フォーラム

<主な事業>多賀「里の駅」(野菜市)、足軽辻番所サロン「芹橋生活」、足軽屋敷特別公開、文化遺産を活かしたまちづくり研究会「路地防災を考える」、滋賀大マルシェ、町屋活用(花しょうぶ通り「街の駅」など)、世界遺産登録に向けての活動
<課題>行政との協働(世界遺産登録への政策提言なども含め)

NPO法人ひこね文化デザインフォーラム

<主な事業>「ひこね市文化プラザ」の指定管理業務、町家の利活用調査、オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏会、歴史講座開催事業、歴史都市彦根を楽しむ茶の湯体験教室、玄宮園で句会、古民家落語会、能楽ことはじめ、本町宿文化事業など実施、夢京橋キャッスルロードの整備、町屋「本町宿」の運営
<課題>NPOの自立を目指し本町宿(収益事業)を運営中。彦根文化の創造と普及活動のあり方、伝建地区指定された「芹町」のまちづくりの進め方

NPO法人ひらかた環境ネットワーク会議

<主な事業>学習環境整備PFI事業(S-EMS構築・運用支援事業受託)、MM事業(交通タウンマップ作成、バス乗ってスタンプラリーなど)、MMをゲームにした「交通すごろく」の実施
<課題>補助金の減額基調、後継者不足への不安

NPO法人地域デザイン研究会

<主な事業>都市計画プロジェクト研究会議、現地シンポジウム、地域遺伝子調査、歴史・地域資源を活かしたまちづくり
<課題>河南町地域公共交通パートナーシップ事業は、委託でない対等な事業協力関係のモデルであったが限界がある。財源問題、行政の支援の少なさ、コミュニティビジネスなどの独自財源の必要性、人材、会員数減、’高齢化

●「隙間」を皆で使える共通空間に


石塚裕子氏

篠原 祥氏

村橋正武氏

第2部の全体討論に先立ち、3名の学識経験者から次のような意見・提案などが発表された。石塚裕子氏は最近のまちづくりの動きについて、「個人の空間、社会基盤の空間、その間の隙間を皆で使える共通区間に変えていこうという動きがまちづくりの土台にあるのではないか」と指摘。人口減少や高齢化が進む中では、「キーワードとして活動人口を考えた方がよいのではないか」と提案し、「市民による継続的な改善運動、終わりのない運動で活動そのものを増やしていくことが元気になるポイント」と語った。

篠原祥氏は「大阪ええはがき研究会、ひめじまちづくり喫茶、三休橋筋愛好会、魅力発掘ワーキング(姫路)、都市大阪創生研究会、姫路駅前広場活用協議会、御堂筋まちづくりネットワークなど多彩な活動をやってきたが、仕事で培った技能をボランティアに活かす、プロボノ的活動を現役ワーカーが果たしていくことも重要だろう」と強調。三休橋筋では「利害関係のない立場で関わり始めた人をまちづくり勝手連と定義づけた。勝手連は活動のきっかけと、沿道の主体や公的主体や活動の輪をつなげる役割を果たした」とサポーター型まちづくりの研究成果を紹介した。

村橋正武氏は、NPO活動として「収益事業の必要性は重要なキーワードであり、活動の継続性のためにも必要なこと」と指摘するとともに、「今の都市づくりは、都市活動といわれるものに視点が移ってきている。経済的な仕組みを都市活動やまちづくりにどう組み入れていくかがポイントの1つになるだろう」と語った。

●収益事業で次につなげる

全体討論の中で、戸所氏(ひこね文化デザインフォーラム)は「NPOの自立のためには収益事業を持つことが重要」と主張。自らも本町宿を運営しており、「その収益は次の活動につなげるもの」と語った。また、まちづくりを行うには「その地域について(公に資する利を踏まえた上での)利害関係を持つ当事者でなければならばならない」と語った。それに対し篠原氏は、「最初のきっかけは、外部からであっても専門家がつくることも必要ではないか。地元の当事者が確かにそうだなと誘発されて動き出すという流れだってあるはず。それはかなり有効な策ではないか」と意見を語った。

枚方でのバス事業について触れた北西氏(京都京阪バス)は、「人口減少、労働人口の減少の中でバス利用者が低落傾向にあるが、『バスのってスタンプラリー』などの利用促進活動は大変意味がある」とバス事業とまちづくりの密接な関係性を紹介した。

●行政と意見交換のステージがない

行政との関わりに関して日比氏(船場げんきの会)は、「行政の事業を地元に落とし込んでいくという関係性は非常に強い」と現状を紹介した上で、「まちとして行政側との意見交換のステージがない。行政のまちづくりの窓口的な組織をつくるため動き出している」と方向性を語った。橋本氏(京田辺まちづくり塾)は、「京田辺はハード整備が一段落して、次は住民側が住みやすいまちにするために何をするかという段階だと思うが、現状として行政と関わる仕組みがない。その橋渡しをしたいので参考意見を聞きたい」と語った。戸所氏(ひこね文化デザインフォーラム)は、「都市政策と住民の間の隙間を埋めるのは文化、とくに良質な文化というものがその間を埋めていくのではないか。市民の目線に立った文化性を取り込んでいくことが手掛かりになると思う」と語った。

●補完性の原則で動いていくことが大事


ひらかた環境ネットワーク会議佐々木氏 末岡氏

岡村氏(地域デザイン研究会)は、「補完性の原理という考え方がある。一人でできることは一人でやる、一人でできないことは家族が助ける、家族ができないことは地域で助ける、地域でできないことは市単位で助けるというような補完性の原則で動いていくのが大事なことだろう」と語った。

移動・交通に関して佐々木氏(ひらかた環境ネットワーク会議)からは、「MM事業とコンパクト+ネットワークの計画に努力している」との話があった。末岡氏(同)からは「まちづくりは大人のたしなみ・道楽」という話があった。

まちづくり交流会議 とりまとめと提言

平成30年2月 地域デザイン研究会

歴史・地域資源を生かしたまちづくり交流会議においては、まちづくりに関する多くに意見や考え方が提示された。短時間であったため、交流会議では取りまとめ及び提言や提案は行わなかったが、交流会議での意見等を参考にしつつ、以下に地域デザイン研究会の責任において提言を取りまとめた。

【1】まちづくりの定義

「まちづくり」は様々な定義がなされている。

交流会議においても、まちづくりというのは、市民による継続的な改善運動、市民住民の勝手連的な活動、大人のたしなみ・道楽という極めてユニークな意見が出された。

それらの意見をふまえ「まちづくり」を次のように定義する。まちづくりの3つの要素

この3つの要素を充実させたるため、関係する住民・市民、企業、行政等による継続的な活動をまちづくりと定義する。まちづくり活動の実態としては、歴史的まちなみ・建造物保存などの環境整備、交流の場づくりとしてのイベントなどが多く、それを支える「移動」については市民・住民の活動にはなっていないのが実情である。

【2】まちづくりの主体と役割

■補完性の原則の再認識

 地方自治の原則は「補完性の原則」:一人でできることは一人で行う、一人ででき着ないことは家族が助ける、家族ができないことは地域で、地域でできないことは市町村が、市町村ができないことは国が助ける。補完性の原則は自助・共助・公助という言葉と共通する。この原則はまちづくりに関与する人々及び組織が認識しなければならない。

■まちづくりの担い手と役割

 まちづくりの担い手は、市民・住民、企業・民間、行政、学など様々であるが、地域の実情に応じてそれぞれの役割を担っていくことが必要である。その中で行政は財源及び権限の制限により過去のような主導的役割を果たせなくなっていると共に、「学」においては将来を見通した方向性や理念を打ち出せなくなっている。このような状況から地域に精通した市民・住民、企業が先導していくことは必然でもある。

このような現状から「まちづくりというのはまちづくりの当事者でなければならない」とか「利害関係者がまちづくりを動かしていく」という意見が強くなる。しかし市民・住民・行政・企業・大学が連携し自らの役割を担っていくという明確な意識が不可欠である。

【3】継続する仕組みづくりは必要か

まちづくりNPO等は極端に言えば「勝手連」的に生まれた。身の回りの環境改善を使命とし活動し、特段その存在の認知や評価を望んでいるものではない。しかし現在多くの団体がNPO法人化することにより非営利活動法人として社会的に認知はされてはいるが、下請的存在であること或はその場限りに終わっていることも事実である。

■多様な動機と活動が原則

まちづくりには様々な動機や組織設立の目的が存在する。創造的な活動を行う上で制約や規制などの枠組み必要としない。しかし自由な発想と活動が社会的に評価されるとともに、使命を達成するため継続して活動できることも必要である。

■創造的な活動の継続を支援する仕組みはどうあるべきか

まちづくりの行政法として機能する都市計画法では計画の主体は市町村と定められ、NPOやまちづくりの諸団体は特に規定されていない。また地方自治体の条例等にもその位置づけはされていない。これからの社会においてはNPO等の組織は不可欠であり行政組織や企業がまちづくり活動を継続して支援していく必要性は高まる。その中で新たな仕組みが生まれることを望むものであり、市民・住民の側からも積極的に働きかけることが必要である。

【4】NPO活動等の在り方

現在、日本各地でNPO等によるまちづくりが行われている。その中では大都市圏、地方都市圏、農村地域など地域の状況により活動の内容も目標も異なることによる課題・問題を抱えているのが実情である。今後のNPO等の活動の在り方をいくつかの視点で取りまとめる。

■地域を経営していく

これまでは全国的にも右肩上がりの社会的環境の中での諸活動が営まれてきた。しかし今後の人口減、少子高齢化社会の進展は自ずとこれまでと異なった視点が必要になる。その視点は「地域を経営する」という地域共通の目標をもつことである。NPO等の活動および行政はその認識を共有することから始まる。

■NPO活動における収益事業の重要性

 日本のNPOはボランタリーから始まった。それはまちづくりの大きな特色ではあるが、NPO活動等を継続していくためには収益事業による安定的な運営を行うことは極めて重要である。しかし収益事業を行うリスクもあり、一般的な企業活動と競争することは不可能であり、地域や行政の支援・補助という新たな仕組みも必要となる。

■人材の確保=行政・企業のOBの活用

日本のまちづくりNPO等は高齢者によって支えられている。定年退職後、それまでの人生経験や知識を社会に還元するという使命感が根底にあるとはいえ、それだけでは活動を継続することに限界もある。まちづくりが多くの世代に共有する課題として若い人たちの参画が不可避であっても、西欧のようなNPOに対する補助支援が充実していない状況では無理がある。将来は若い人材の雇用につながる組織を目指すものの、行政或いは企業のOBの参画により活動をより活発にしていくことが現実的対応であろう。

■危機感の先取り

 まちづくり活動の動機は、地域活性化、文化・歴史資産やまちなみ保存、観光などであるが、今後の日本社会・都市社会が直面する地域構造や居住に対する危機意識を先取りし、行政との連携を深め次に起こるであろう問題・課題に対する啓蒙や啓発を行うことは重要な使命である。行政や企業のOBがまちづくりの中核となる意義でもある。

【5】結論(まちづくり活動)

■規範的な都市計画と創造的なまちづくり

 これまでの都市計画はマスタープランを実現するための手段・方法を明らかにし、財源を充当するという規範的で体系的であった。しかしそれだけでは現代社会の諸問題に対応できないことからNPO等によるまちづくりが生まれてきたとはいえ、これらのまちづくり活動は体系的ではなくその地域で生まれた創造的なものである。これらが社会全体でどのように体系づけられるかは今後の大きな課題・研究テーマである。

■まちづくりの基本は「人の動き」と「移動」である

多くのまちづくり活動は市民・住民の身近な環境の改善から始まり、移動については与えられた条件として受け入れている。自動運転技術やAI、IoTなどの技術革新は私たちの身近なところにまで来ている。人の動きを把握しその移動を積極的に改善するという活動は地域活性化や観光政策などあらゆる局面で必要になってくる。まちづくりを人の動きと移動から見つめることが活動に広がりをもたらすことになる。

■まちづくり活動は面白い!!

多くのNPO等が資金難、人材難を抱えながら活動しているのは何故か。それは交流会議において「ボランティアは大人のたしなみ」「道楽」という意見に代表されるようにまちづくりは面白いから。それが結論である。


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