REPORT

「都市計画」討論会を開催

未来を託す都市像・都市計画とは

都市計画法制定100周年を迎える今、人口減少と高齢化・少子化等これまで経験したことのない変化に対し、いかに対応すべきなのかが問われようとしている。地域デザイン研究会はこれまでの都市計画の有り様を検証、新しい都市計画の枠組みを提案しようと5月25日、学識経験者、都市計画経験者、現役の都市計画担当者を集めて討論会を開催した。テーマは①日本における都市計画とは?、②社会変化に対応する都市像、都市計画とは?、③住民・市民、地方自治体、国の役割は?

基調講演として、平峯悠地域デザイン研究会理事長、谷口守筑波大学教授、村橋正武立命館大学総合科学研究機構上席研究員の3名が講演を行った。これら基調講演を受けるかたちで討論会に入り、活発な討論が行われ。た討論には基調講演者3名のほかに、大阪府、大阪市、寝屋川市、八尾市、貝塚市、京市田辺市の都市計画部局関係者、学識経験者らが参加した。(文責:鎌田徹、岡村隆正)

く基調講演1>講演者:平峯悠

「私が考える都市計画」~大阪圏を対象として~0日本における都市計画とは都市の成り立ち、古代都城制(平城京~平安京)は都市計画の原型ではあるが都市計画とは言わない、城下町は封建城主が武士階級を維持するためにつくったもので、都市計画とは言いづらい、寺内町は商売もあり、浄土真宗寺院を核として発達した自治都市で、日本独自の都市計画と思っている。港町は住んでいる人が港として一生懸命につくったという意味では都市計画の始まりと考えられる。

く都市計画の場>

大阪市はまさに区画整理で出来上がった都市。日本独自の土地所有形態があり、結果的に日本独自の都市・地域構造が出来上がる。それが都市計画の「場」となる

<日本独自の都市地域の構造>

西洋の都市計画、例えばパリは、凱旋門から道路(通り)を中心にしてモニュメントをつくる。しかし日本はそうではなく、町(ちょぅ·まち)を基本とした地域構造になっている。

く都市計画地域を区分する>

都市計画の対象地域を2つに分ける。1つは直接的都市計画で「町(ちょう)」を中心に考える都市計画。もう1つは、広がりのある広域的・間接的都市計画。

〇社会変化に対応する都市像、都市計画とは?

人口が減少する社会において直接的都市計画はどんな貢献をするか?人口の増減、買い物、空き家の状況、高齢者支援、NPO活動などで評価すると、ここから発展させて広域的都市計画の議論も可能で、密度計画や誘導、交通などをつくっていくことが可能になる。

未来を託せるのは都市計画しかない。人口減少から始まり、利便性をどうするか、どこから始めるかということになると、最初に顕在化するのは、やはり直接的都市計画。「町(ちょう)」から出発するしかない。具体的には、地区計画制度の活用、専門家による都市計画提案制度の活用が考えられる。

く基調講演2>講演者:谷口守

「都市計画を変革する」

〇社会変化に対応する都市像、都市計画とは?

<立地適正化計画>

1990年に京阪神都市圏における都市機能集積地区の分布を客観指標により取りまとめ、「都市機能集積地区」という概念を提案した。それが2014年にようやく「都市機能誘導地区」として立地適正化計画に位置付けられた。24年かかった。ただ、現実はこのような条件を満たすところはそれほど無い。都市計画を変革する4つのポイントは、①まちを黒字に(縮退予算への再編)、②新・調整区域を考える、③専門家+担当者の確保、④成人病化する都市と織り合う(バイオミメティックスをベースに)

く住宅地からのコンパクトなまちづくり>

カルテ方式で、そこのまちに「効く」対策は?ということで『ありふれたまちかど図鑑』として全国1996住区で特性の取りまとめをしたことがある。「シンプルルール」として、①計画無くして開発なし②プランニングオーソリティーの設立、を強調したい。

くバイオミメティックス>(生物模倣学)

都市で今起こっている問題を具体的に見ていくと、①循環不全、②肥満化(肥大化)、③骨粗慇症、④ガン、⑤糖尿病と成人病(生活習慣病)だらけ。これに対して「コンパクト化=都市のメタボ防止」という流れを考えると分かりやすい。

  1. 循環不全の典型例としては、幹線道路の大渋滞や、通勤ラッシュ、赤字ローカル線の廃線等がある。

  2. 肥満化では、都市から伸びきった地域でのニュータウン開発=売れ残りの空き地が目立つ宅地。

  3. 骨粗縣症(スプロール市街地)では、スプロール過程でのミニ開発を裏返したような撤退形態=リバーススプロールも始まっている。

  4. ガン化する街とは、全体が縮小する中で一部細胞の成長が加速している街のこと。この典型例は千里ニュータウン。急速に全体の人口が減少しているにも拘らず、一部エリアでは高層マンションに建替え。

<基調講演3>講演者:村橋正武

「昭和~平成の都市政策・都市計画、そしてこれからは」

○日本における都市計画とは

く都市計画制度の経緯>

1919年に旧都市計画法ができ、1968年に今の都市計画法になり、そして2014年に立地適正化計画ができたという3段階で進んできた。旧都計法は国(内務大臣)がすべてを決めたが、だんだん機関委任事務となり、そして基礎自治体が決めるということになり、権限が国から地方公共団体に移ってきた。

〇社会変化に対応する都市像、都市計画とは?

現在の都市計画制度については、「広域的・間接的都市計画」で大枠を、ひらがなの「まちづくり」で直接的に地区・地域をつくり上げる形になっているが、実際はだんだんとひらがなの「まちづくり」に比重が移りつつある。

<立地適正化計画>

すでに1990年頃から今の人口減少は分かっていたので、都市計画をどうするかという議論をしていた。線引き制度を触るべきと議論したが、やはり難しいと判断された。都市構造の再構築など言葉はあっても足がかりが全然見えない。そこで急きょ、人口減少に対する手法に特化した立地適正化計画が私生児とも呼べる形で生まれた。今までの都市計画と異なるのは、経済的な仕組みと連動させていること。税・財政・金融措置など経済的インセンティブを与えている。

く人々の生き方、暮らし方、住まい方に基づいた計画>

参考として、鬼頭宏氏(歴史人口学)は、「人口の分布、集落のあり方、交流のあり方などを目指す都市像全体を取り纏めたうえで、様々な先端技術をベースにどのような新たな文明システムを構築するか」。都市計画はまさにそういうもので、都市像全体をどのようにめざすのか人口でなく、生き方、暮らし方を考えることであり、人口規模を目標としないことであると考える。

〇住民・市民、地方自治体、国の役割は?

立地適正化計画は、全国約1700の市町村のうち約500市町村がつくっている。国はバックアップの用意までで、落ち込んでいくところは今の制度では打つ手がない。国の責任放棄に見える。

討論会(概略)

基調講演の後に行われた討論会では、①日本の都市計画とは?、②社会変化に対応する都市像·都市計画、③住民・市民、地方自治体、国の役割こ、れら3つの課題を論点に討論が進められた。


○日本の都市計画とは?

く地域の力>

平峯:地域の力が根源的にあって、それをどう生かしていくかが都市計画の最初に考えなければならない基本的な事項。地域の人々を信用。困ったら何かしようという動きが出てくるもの。

く計画するということ>

平峯:現在のまちをどうやって計画するか、そのプロセスを持っていない。それが分からないので住民参加でやるとなってしまう。専門家がサボっているのかも。教育もしていない。一番根源的な「計画する」ということをどうするのかを最初にしなければならない。

くそれぞれの都市の出来上がり方の違い>

平峯:寺内町や環濠集落など、出来上がり方に違いがあり、その核が残っている所がたくさんある。各地域の伝統、文化が大切と言いながら、それを考えてこなかった。例えば三井が丘では、集合住宅の人口が減っている。貝塚市では旧集落は横ばいだが、周辺の府営団地の人口が減っている。こんな分析すれば対策を考えることができる。現状を知り、どうするかを考えることが重要。

く都市計画法がどの程度機能したのか?>

平峯:大正8年の1日都市計画法に始まり、今をつくっているのは昭和43年の現行都市計画法。突然、都市再生法に変わった。規制誘導と都市計画事業も備わった現行都市計画法は、いったんご破産にするという話もある。

○社会変化に対応する都市像、都市計画とは?

く人口減少>

平峯:現在の都市をどう診るかが先にある。日本の都市は昔と比べてはるかによくなっている。成人病化しているところ、人口減少などをどう診る。か一方でこの程度ならと許容値もある。単に理想都市を求めて、コンパクトシティはすばらしいとはならない。

村橋:人口減少の捉え方は場所によって違ってくる。京阪神都市圏と地方都市では、まるで現状が異なる。過疎地域では行政サービスが現にできなくなってきている。

平峯:大正9年には人口6,000万人、その当時から過疎地域はあった。それらを一律にコンパクトシティでまとめてしまうのは乱暴だ。

谷口:スプロールは悪い。無秩序に都市が郊外に広がっているところ、虫食い状になっているところなど、ちゃんとしていないところをなんとかしようという。話

く消滅可能都市>

谷口:そもそも人口増減の議論は自治体ごとに前提条件が異なる。増減の要因を分析することが重要。生活サービス、教育機関、インフラが有利に働く。農業の6次産業化も。定住促進運動はマイナス。集落がちゃんとあるところはプラス。2次産業やものづくりもばかにならない。増加しているのは東京都心、湾岸でのタワーマンシン。自分のところだけ人口を伸ばすというのは、みんなを滅ぼす発想だ。それを促進したのが増田さんである。

<公共交通をどう考えるか>

平峯:「公共交通を守るために車をやめて公共交通に乗ろう」と言っているが、皆さん車に乗っている。今、鉄道事業者は何とか頑張っているが、バスにはほとんど乗ってくれない。谷口:公共交通についてドイツやフランスと日本の差は、市民が鉄道事業は儲かるものという変なイメージを持っていること。鉄道事業は本来儲からない。若い人は車を買わない、使わない。一方で車での外出率が一番高いのが60歳代。20~30歳代は低い。今や車は高齢者の乗り物になっている。

谷口:全国のどこもが無関心。鉄道駅から遠く、バス便も撤退するエリアの住民の関心を上げられるかを考えた。プロの漫画家に参加してもらい、ベストシナリオとバッドシナリオ「地獄絵図」を表現し、分かりやすい将来像を提示した。あの手この手でメッセージを出すべき。

<立地適正化計画(「私生児」)が社会を変える?>

平峯:いろいろなタイプの「私生児」が世の中を変える可能性があるのか。実際の問題となると国の制度の中で実現は難しい。都市計画制度はどうあるべきか。恒久的なものであるべきという一方、それも難しいという中で何か別のものがないか。

茂福·寝屋川市:昨年、立地適正化計画をつくる担当をした。国の補助金が欲しいのでつくったというのが本音。つくりだしてみて、鉄道の駅の大事さを改めて気づかされた。

く法律以前に一般常識やマナーとしてコンパクト化を>

谷口:自動車の車体に「地球環境のため中心市街地に乗り入れないようにしましょう」とか、住宅に「広がって住むと地球環境を損ないます」とか。一般常識やマナーとしてコンパクト化ということにならないと、抜け道、不作為がなくならない。法律に頼らない方が良いというのが私の意見だ。

〇住民・市民、地方自治体、国の役割は?

くエリアマネジメント>

寺本:大阪市は平成26年からエリアマネジメントという制度を条例でつくった。条例で使っている法律は、都市再生特別措置法、地方自治法、都市計画法との合わ技である。

<小学生のまち調査>

村橋:小学生が自分のまち(栗東)をグループで歩いて、気づいたことを発表する宿題があった。プロよりもおもしろく、大人が見過ごしていることにも気づく。榎本・京田辺市:京田辺の現状は人口も増えており、インフラもしっかりして、まだ健康体の都市かと考えている。そんな中で将来に備え、子供たちに将来のまちづくりに関らを持ってもらうためには、まちづくりについて学んでもらうことが大切だと思う。

くパブリックの概念>

谷口:パブリックスクールを訳してもらうと、皆「公立学校」と答えるが、イギリスでは「私立学校」「。誰でも入ることができる学校」ということで、公共の「共」に相当する。日本では、官と民の概念だけになってしまう。「パブリック=共」の概念がどこかでゆがめられた。これに気付かないと、いいまちづくりができない。

く各基礎自治体の計画はあるが、県全体で見ると整合性がない>

谷口:福岡県を4地区に分けて、地区ごとの整合性を図る取り組みを始めた。海外の事例でいえばドイツでは運輸連合で公共交通のエリア戦略を、また一番うまくいっている事例はミネアポリスの広域都市圏計画。ここではインフラに関する予算もっ持ている点が評価できる。

尾花・大阪府:いま私のところで始めたのは細かいロットだが、9つの市町村の部局長と私で、土木やまちづくりをテーマに年に3~4回だが集まって話をしようとスタートした。

く制度はその地域の問題や人口などの条件のなかで考えるべき>

岡村:ブランディングや町単位で考えれば解決策はあるという話は興味深い。実際の現場は人手不足で、自分達の街をどうするかを考える暇がない。片瀬:地区計画も景観条例も、統一された世界になってしまうと地方の独自性が出ない。

橋本・八尾市:八尾市の課題は、ものづくりの町の歴史から住工混在がある。生産緑地の30年問題から田畑がなくなり、住宅地になるなど、住環境と工場の操業環境をどうしていくか考える必要があ。る

く閉会挨拶>

岩本:都市計画は基礎自治体に権限が移ったわけだから、大いに人材を育てていかねばならない。大学の責任は非常に大きい。大学の先生と地域のまちづくりを一緒にやっていくことが大事だと思う。


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