主張

令和時代の都市政策-多様で高次な地域を創る

平峯 悠

6月21日発表された財政経済運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」は新しい時代を「Society5.0」とし、サイバー空間と現実空間を高度に融合させることにより、人口減少、少子高齢化という現実の中で持続可能な社会を構築するというものである。しかし令和に入って初めての方針としては具体性がない。

「失われた30年」「何もしなかった」平成といわれるが、平成元年発足の泰山塾(地域デザイン研究会の前身)の理念は、「多様化こそが都市の本質であり、都市を活性化させる原点である」であった。生活は豊かになり、シビルミニマム的な条件は満たされ、その中での多様性を新たな視点とした。阪神淡路大震災、東日本大震災および昭和期の反動としての行政資、公共事業のムダ、さらにはそれを「悪」とする風潮が蔓延するなどにより、多様化社会の実現が遅れたに過ぎない。働き方や女性の社会進出、産業形態など益々多様化する社会を支えるSociety5.0は有効な手段・方策であり、通信販売の拡大、テレワークやテレビ会議による外出機会や移動回数およびオフィス環境や立地の変化、自動運転化による居住地選択の拡大等は都市の構造、人の価値観に大きな変化をもたらす。

日本の都市の成り立ちの多くは、中世期からの城下町寺内町および自然発生的に出来上がった村落共同体等が基本であり、多様な画地と民家集落、地域の産士神を祭る神社、鎮魂のための寺院など宗の教的施設などからっくられた混合体が根底にある。その単位が「町(ちょう·まち)」であり、今でも00元町、00町一丁目で表される都市域が生活や活動の基盤にある。その「町(ちょう・まち)」も多様であり、劣化の兆しの見える町、利便性の低下している地区、住環境が変化している地域、再開発や商業業務施設の進出により変貌している地区など様々である。このように日本の地域・都市は多様な「町がモザイク状に連なっている。その「町」およびその集合地域(市、府県)に対してSociety5.0を適用していくことが、これからの都市政策を進める第一歩であろう市町村行政における統計も、長年にわたって町丁目単位でデータが蓄積されているため、IT技術やAIにより、新たな項目や分析を加えることにより新たな政策展開が可能となる。

一方、それと並行して重要なことは、どのような都市·地域を創出し、その実現を目指すのかという目標設定である。人口減少社会への対応、東京一極集中の是正など国土の根幹を揺るがす課題が喧伝されているが、益々進む都市化の中で都市地域の目標を設定することは不可避である。泰山塾の問題意識は、社会が求める高次の欲である「ホスピタリティ(おもてなし」)「アメニティ」「全」「豊かさ」「利便性」「リゾート(憩い」)などを都市政策の柱に据えることであった。高次の欲求達成には従来の施設整備・規制誘導の考え方や体制では不十分である。求められているのは、例えば、「安全な都市」「最高のおもてなし都市」「快適性抜群の都市」「心休まる都市「移動と利便性を備えた都市」など人々が共感できる標であり、それをあらゆる技術や手法を用いて達成することである。

昭和期(戦後)には都市施設の充足、スプロールの防止が都市政策の中心であったが、それが都市計画や都市づくりの最終目標ではなかったはずであ。る令和時代は人々が生活・活動する「場」に着目し、その地域における目標を明確にしたうえで「、人々の知恵」と「科学技術」等を用いてより高次な地域を作り出す。これが令和時代の都市政策の基本であろう。このような都市へのアプローチが定着すれば、公共事業嫌いの風潮も払拭され、多くの人達が都市づくりや都市計画は面白いというに違いない。またそう願いたいものである。


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