REPORT

2019年度現地シンポジウム

ノスタルジックな港町「鞆の浦」を訪問

 江戸時代からの古い町並み、穏やかな瀬戸内の海と島々が織りなす風景美など、観光客を含む多くの人々をひきつけてきたノスタルジックな港町「鞆の浦」。地域デザイン研究会は2019年度現地シンポジウムとして12月12日、広島県福山市役所を訪れ、鞆の浦のまちづくりの課題と対策などを聞いた。その後、福山市関係者の案内で伝統的建造物が建ち並ぶ「鞆の浦」の町を視察した。(文:大戸修二)

●繁栄の証し「歴史的な町並み」


現地シンポ説明会

鞆の浦(福山市鞆町)が位置するのは沼隈半島の東南端。急しゅんな山々が海岸まで迫るわずかな平地に、家々が軒を連ねて建ち並ぶ。古くから風待ち、潮待ちの港として栄え、多くの豪商が生まれ、繁栄の証しとして町が形成された。戦禍や大きな災害をまぬがれて残る「歴史的町並み」の文化的価値や景観は高く評価され、2017年11月「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、2018年5月には港湾施設を中心とした文化財が「日本遺産」の認定を受けている。

●風情の一方で生活上の課題さまざま

歴史・文化と人々の暮らしが織り成す独特な風情がある一方で、生活する上でさまざまな課題を抱える。同地区は埋め立てによって町を大きくしてきた歴史があり、現在の地形骨格は約300年前のままの状態。町内道路はきわめて狭く、そこを車がひんぱんに行き交う。1日平均交通量は3,600台で、通学路でもあるため危険きわまりない状況にある。同地区の東側では高潮被害もあり、たびたび20~30cmの冠水が発生。後背の急傾斜地では土砂災害も発生するなど、防災事業の未整備も課題だとされてきた。

●鞆港埋立・架橋撤回し山側トンネル

こうした課題解消のため福山市は1996年(平成8年)、幹線道路整備と歴史的町並み保存などを柱とする「鞆地区まちづくりマスタープラン」を策定。その具体策として動き出したのが広島県による鞆港埋立・架橋計画。しかし動き出したはずの計画について数年後に就任した広島県知事は2012年(平成24年)、撤回を表明。埋立・架橋の中止と山側にトンネルを掘削して道路整備を行う意向を固めた。2016年には埋立免許申請などを取り下げ、現在は「山側トンネル建設計画」に関する住民説明会の段階に入っている。

●地域主体の「鞆まちづくりビジョン」始動

福山市では新たなまちづくりに向けて2018年3月、「鞆まちづくりビジョン」を策定した。延べ11回のワークショップを通じて策定されたもので、5つのまちづくり目標を掲げて「地域主体」のまちづくりを推進する。ビジョン実現のため福山市では、地域のさまざまな取り組みや課題解決を協働で進めるとともに、施策や事業で下支えを行うとしている。同年8月には、町並み保存・活用に取り組む全町民参加型の組織「鞆まちなみ保存会」が発足、新たなまちづくり機運を整えつつある。

今回の地デ研現地シンポジウム(1泊2日)参加者は10人。市役所会議室で開かれた説明会で、地域主体の取り組みについて福山市都市計画課(鞆まちづくり担当)の中川晋次長は「本格化はこれから」としながらも今後への期待感を強調した。一行はバスで鞆の浦に移動、古き港町風情が漂う常夜燈や雁木、国の重要文化財「太田家住宅」、朝鮮通信使ゆかりの場所「福禅寺対潮楼」などを徒歩で見学した。


常夜燈

古い町並みを視察

商家前で記念撮影

●新たなツール「電気自動車型タクシー」導入

私を含む足腰の悪い高齢者にはかなりきついフィールドワークとなったが、それを救ってくれたのが鞆の浦観光の新たなツールとして導入された電気自動車型タクシー(=写真)。ゴルフカートを改造して製作されたという4人乗り仕様で、市役所関係者に呼んでいただき搭乗。それは狭い道や坂道もスイスイ走る優れものであった。

●渡船で仙酔島・国民宿舎へ

この日の宿は対岸の仙酔島にある国民宿舎で、市営渡船「平成いろは丸」(=写真は船内)に乗船して渡ったが、島から見渡す風景もまさに絶景。夕食では鯛など旬の魚を使った漁師料理をたっぷりいただき、その席では地デ研の今後のあり方についても話し合われた。<参加者・順不同> 平峯、岩本、小山、岡村、前田、田中、立間、大戸、小川、松島の計10名


仙酔島からの眺望

<参加者ひとことコメント>

▽鞆の浦の現地で、役所の方の説明・案内を受け、魅力と課題を再認識した。伝建地区などを生かした、さらなる魅力アップを期待したい。(松島)

▽伝建地区の歴史を中心とした観光とともに、現在の漁港、鞆の浦での生活者の目線で施策を立てる。地域の人達と来訪者双方が楽しめる街づくりを目指すべき(歴史に偏ってはならない)。そのキーワードは「雇用と働く場づくり」。豊かな漁業と歴史資源を、観光客と地域の人達(老若男女)が一体となって活用し楽しむことだと思う。(平峯)

▽初めての鞆の浦だったが、ゆったりとした景色と人々に触れられ、身の丈の改良でとどめて欲しいと思った。(立間)

▽鞆の浦を久しぶりに訪れて、景観と開発の問題の難しさをあらためて感じるとともに、急速に進行している人口減少・高齢化への早急な対応が必要と感じた。(前田)

▽当初の埋立架橋計画表明から36年たっても、いまだに実現できていない。その間に人口減少、地域経済の衰退が進んでしまった。外野席からの景観論争、地域の実情を知らない政治家の発言などが原因と思うが、県と市の二重行政により地域全体を総合的に考える計画主体がなかったこと、がんじがらめの補助金制度がそもそもの原因のように思う。今後、県道のトンネルができることになるが、それとは別に、①フリンジパーキング、②そこから街中に行く公共的モビリティ、③伝建地区周辺も含め、まち自身の雰囲気、景観づくり(シーサイドホテルのような、なじまない建物はいらない)④タウンマネジメント-などが地域づくりにとって重要な要素になると思う。(岡村)


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