MEMBER'S SQUARE

旅ゆけば・・・

本当の熱帯夜

岩本康男

ブラキチという言葉をご存じですか?ブラジルに魅せられて、気も狂わんばかりになる人のことです。私も3度ブラジルに行ったお陰で、今はそれほどではありませんが、一時カイピリーニャやシュラスコ、アセロラにはまっていた時があります。

私が3度も訪れたのはベレン(=地図参照)というアマゾン川河口部にある、うっそうとした密林を農地に開拓するため日本から移住した人々のゲイトウェイになった都市です。それで、ブラジルではかなりへき地ですが、日本領事館も設置されています。1990年前後の日本がまだ最高に元気だった時代、日系人が多いこともあって、この地がJICAプロジェクトに選ばれました。周辺も入れると100万都市クラスなのに公共交通手段としてはバスしかなかったので、もう少し大量に輸送できる手段はないかと、まずパーソントリップ調査をして、将来交通計画を立てようという構想です。

大阪市はニュートラムの営業を始めてかなり経っていましたので、都市局の矢島さんから、中量輸送機関の導入が可能かどうか見てきてほしいと言われて、JICAの作業管理委員のメンバーとなりました。マンゴーの並木のある赤道直下の街です。中心地から外れると熱帯雨林が連なっていますが、かつて農地や放牧地に利用された土地も多く、赤茶けた土がむき出しになっているところが目立ちます。パラ川というアマゾン川が大西洋にそそぐ支流にあって、ポルトガルが植民地時代に拠点にした舟運の要衝で、ピラニア、ナマズ、亀、ヤシガニの美味にはまりました。会議中には1時間に一度、砂糖でスプーンが立つぐらい甘いコーヒーが小さなカップで出てきて、これをグイーと飲むと何だか活力が出てくるのです。また私がブラキチになった一番の理由が、大学や地方庁、調査機関など現地のカウンターパート達の気風です。それから、食堂やホテルの人たちも実におおらかでフレンドリー、友として最高です。歓迎会などを開いてくれた夜は、もうここに居続けたいと思うぐらいでした。

困ったことはインフレのすごさでした。タクシーに乗ると新旧の料金の換算表では間に合わず、そのさらなる換算表が必要になるのです。硬貨はすぐに役に立たず金属価値になります。ホテルは1週間で料金が変わります。ブラジリア建設の債務負担が響いた時代ですが、ブラジル人の気質だからこそ乗り越えられたのでしょう。

本題の話ですが、夕方になるとシャワーのような豪雨が降ります。傘など役に立ちませんから、誰も外を歩きません。低いところは池に、道路は川になります。都市計画手法の一環として、敷地に対しては雨水が浸み込むように建築や舗装をしてはいけない率、緑被率のような規制をしています。この状況を見て、私はニュートラムのような繊細なオペレーションを要するシステムや立体構造物は管理が難しいと、推薦しませんでした。その後いろいろ検討の結果、バス車両を優先運行するようなシステムを採用したと聞きました。

さてスコールの後の時間です。涼しい風が吹き、屋外での夕食は最高です。市民は生き返ったようにいきいきと活動を始めます。自然の息吹にあふれた生命力がよみがえり、人も植物も生きている喜びを感じる時なのです。我が国の気象担当者がTVで、顔をしかめて「日本は今日も熱帯夜です」というのを聞くと、熱帯に対する差別感情を覚えます。熱帯夜がなければ、現地の人々は一日を快適に終えられないのです。


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