ペンリレー

逆流のまちづくり

ユーエヌ土地利用研究所 中佐一重

まちづくりの流れが大きく変わろうとしている。川上から川下への流れが、逆に川下から川上へと逆流しつつある。国が決め、 都道府県が取り込み、市町村が実施するというのがこれまでの一般的流れだった。一般に通達行政と言われるもので、国が決めた内容を都道府県を経由して市町村が実施するパターンをとり、補助金という媒体を通してこれまで円滑に推進されてきた。

しかし、この流れを変える大きな堰が2つ発生している。

1つは地域住民のまちづくり意識の向上・まちづくり活動の活性化、そしてもう1つは自治体の財政状況の悪化である。

前者は、政治を巻き込んだ公共事業のあり方論が盛んであるが、阪神淡路大震災でのボランティア活動や全国各地で展開されているまちづくり運動の拡大に表れているように、住民生活の視点を出発点とした公共事業のあり方が重視される。それはまた、地域住民が地域のまちづくりに参画していくというプロセスでもある。

後者は、バブルの崩壊以降、税収の落ち込みや公債費等の累積債務の増大によって自治体の財政状況が悪化し、単独事業や補助事業が実施しにくくなりつつあるという状況がこの問題をより深刻化させている。

このような状況下で、まちづくり条例等によって住民参加のまちづくりを展開したり、一部の公共事業を日本が成熟社会へと突入し、また国民の一人一人がまちづくりに関する高い見識を持ちつつある現在、これまでのような上位下達的なまちづくりには自ずと限界があり、逆に新しいまちづくりの手法・システム、そして国民「逆流のまちづくり」は地域住民が地域のあり方を自分たちで考え、基礎的な自治体である市町村が責任を持って地域住民とともにまちづくりを推進し、都道府県等と協力して施策を推進していくというものであるが、ここで重要なことが2つある。

1つは、このまちづくりを推進するに際しては行政情報の公開、説明責任といったことが先行すべきであって、これをせずに地域住民が情報の外に置かれることは、新しいまちづくりの方向を曲折させてしまう懸念があるということである。

2つは、公共事業といっても地域住民に全部を任せられるものではなく、真に国土や広域の開発・整備・保全に関するものは国や地方自治体が責任をもって強力に推進しなければならないことである。そこでは、新しい役割分担関係が構築されなければならないことも必要である。我が国においては、まちづくりを取り巻く環境は、現在大きく変化しており、地域住民の安全・安心・快適なまちづくりに向けて新しい哲学、新しい規範、新しい目標、そして新しいシステムの構築が今まさに求められている。


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