NPO法人設立記念2001地域デザイン研究会フォーラム
〜「これでいいのか、まちは、暮らしは、人は・・・
今から変える、心豊かに住める都市・地域・まち」(速報)〜
去る2月3日(土)、大阪市立難波市民学習センター講堂において、地域デザイン研究会のNPO法人設立を記念するフォーラムが開催されました。第一部は事前に行ったアンケート調査の分析報告があり、第二部では池田市長の倉田薫様をはじめ、各方面でご活躍の5名のパネリストにより興味深い議論が展開されました。
ここでは、その概要をご報告します。
○ 日時2001年2月3日(土) 13:30〜16:30
○ 会場大阪市立難波市民学習センター講堂
○ 出演者
倉田薫(池田市長)
松尾カニタ(ラジオ・パーソナリティー)
木下真(国土交通省近畿地方整備局企画部復興事業調整官)
末岡妙子(枚方まちづくりネット代表)
平峯悠(NPO地域デザイン研究会理事長)
○第一部「こんなまちに暮らしたい」アンケート調査分析報告の概要
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本フォーラムの開催前に、真に豊かな地域づくりを進めるうえで、まずどのようなニーズが潜在的にあるのかを、まちづくりNPOや関連の任意団体の会員にアンケートしました。この分析結果を@「住む」A「安心」B「働く・学ぶ・遊ぶ」C「癒す・憩う」D「集う・語る」E「もてなす・思いやる」F「動く」G「住みたいまち」の8つのセクションに分類したうえで分析、地域デザイン研究会の岡村氏、石塚氏のお二人より「コント風」にアレンジしたユーモアいっぱいの報告がありました。→当日資料
○ 第二部「パネルディスカッション」の概要
<アンケートの分析結果に対する感想>
倉田:
市長は営業部長、広告塔であり、池田のまちをどうPRするかが私の課題である。
自分だけで売りこむのではなくセット(例えば、大阪なら神戸と)で、また、ソフト(安心・安全、環境、福祉、子育て等)でいかに売りこむかを考えていくべき。
カニタ:
アンケートの意見は万国共通のものであるが、まだまだ行政に頼っている印象を受けた。
都市間競争を踏まえた上でまちづくりの実現を考えるべき。ソフト、特に人間のネットワークが重要であり、21世紀のセーフティネットとは知識と知恵である。そのためには常に学べる場所づくり、多世代・国際交流できるまちづくりが重要。
木 下:
戦後から高度経済成長期にかけて国民のニーズは共通しており、国の役割も明確であった。
バブル崩壊後、低成長期に入って「まちづくり」が叫ばれるようになった背景には価値観の多様化があるが、国も多様化についてどう捉えるのか模索中である。
末 岡:
真に豊かに感じられない、受け手側の貧しさが問題ではないか。多様なニーズを把握し解決することは必要か。行政は数多くの選択肢を用意することが必要であり、それが豊かさにつながる。価値観(尺度)までもが多様化するのは容認すべきではない。
<多様化する市民のニーズに対する行政の対応方法>
倉 田:
行政はあらゆるメニューを提示するのではなく、「できる」メニューだけを提示し、気に入った人が残ってもらえれば良い。自信がなければ提示できない。
木 下:
パイを分け合う時代から取り合う時代に。
皆が方向を変えなければ争いが増えるという中で、向かう方向がバラバラ(=価値観の多様化)になろうとしている。そういう意味では価値観の多様化は均質化にはつながらないと思う。
カニタ:
日本は選択する習慣に慣れていない。
<都市間競争の現状と市民の認識度>
倉 田:
池田市は「小さくとも世界に誇れるまちをつくろう」が将来ビジョンである。ソフトで世界一を目指す。ペットロボットは池田市から世界へ発信した誇れる事例のひとつである。「信じて行動すれば通じる部分がある」と、私から市民に発信している。
カニタ:
一過性ではなく継続的な効果を生み出す施策を考えるべき。目玉を自らつくり出し、それに沿って優遇政策(隣接市との違い)を行うべき。情報化を活用し、市民の意見を反映できる仕組みをつくるべき。
<都市マスタープランは必要か?>
木 下:
地域の代表者(のニーズ)を入れると「金太郎飴」的なものとなる。これはマスタープラン自体の問題ではなく、つくるプロセスが個性的なものとなるような仕組みになっていない。地域の人にわかりやすい言葉にして示すことが必要。
末 岡:
枚方市では今回の総合計画の策定において画期的な取り組みを行った。ひとつは重点プランの策定、もうひとつは行政評価システムの導入により、総合計画を定量的に評価する「まちづくり指標」をつくったことである。ただし、総合計画が市職員に浸透していないことは問題である。
カニタ:
これからの行政の問われる役割は市民に対する説明力である。
<行政のアカウンタビリティ(説明責任)について>
倉 田:
市長の思いをいかに全職員(約1,400名)に徹底するか。池田市では平成8年9月から市のHPで「市長とび歩き」という「市長の愚痴」を常に発信し、これを庁内イントラネットで全職員が見ている。もうひとつは各小学校区の集会所に月一回出かけて「市長と市政を語る夕べ」を行っている。参加者は少ないが、それだけ池田市は情報公開が進んでいるのだと自負している。
<市民はまちを選ぶことが本当にできるか?>
木 下:
従来から、統計的には持ち家は満足度が高く借家は低い。ただし、地価下落後は持ち家も財産としての保有価値はなくなっている。そういう時代に入ってはじめて選択肢となるのではないか。国の政策によるところではなかったと考える。
倉 田:
池田市は4万世帯、空家、空室合わせて5千戸あるり、これをどう埋めるかが最大の悩みである。4人目の子供に対して25万円の補助、ダイハツから軽自動車を貸与(地元企業とタイアップ)している。子供(小学生)のいる世帯の引き込みが狙い「入(いる)をはかって出(いずる)を制す」。住宅政策ではなく金融政策の転換(低金利)が影響し、賃貸から持家への市内移住が進行している。
末 岡:
分譲マンションに住んでいるが、住民の会と管理組合が分離しており、これを一本化していかなければならないと思っている。自分が暮らす地域について住民の無関心は悲しい現象であり、今後アンケートなどを通じて啓発を行い、小学校区レベルでまちづくり計画をつくることができれば皆が住みたいまちになっていくと思う。
カニタ:
いい教育を提供することができるまちが第一希望である。日本の小中学校教育には不満が多い。分譲住宅はプライベートに対して大変規制が多い。
<車を使わないまちは可能か?公共交通の方向性は?>
倉 田:
(シドニーや湘南(鎌倉)のモノレールの事例を紹介)
日本のモノレールの規格ではインフラに金がかかりすぎて採算が取れない。あらゆる法律の規制緩和をすべき。
カニタ:
日本では公共交通が発達しており車が必要と思ったことは一度もない。保有コストを考ればタクシーを使う方が安いし、事故を起こして加害者になるリスクもない。近い将来公害を出さない車ができれば全て反対する必要はない。
木 下:
個別の輸送手段「ドア・トゥ・ドア」の利便性は捨てがたい。現時点では車がそれである以上なくなることはない。そういう中で自然・環境に調和していけるかを考えていくとすれば都心部を規制するなどの方法となろう。一方で、高齢者の生活を支える意味で公共輸送機関は今後非常に重要になる。
末 岡:
公共交通と考えると大規模な仕組みが必要となる。民間に任せる、民間が活発に動ける仕組みをつくる、例えばもっとタクシーを利用すればいいのでは。
<規制緩和はどこから手をつけるか?>
倉 田:
国土交通省となって一気に規制緩和の方向に進む可能性もある。モノレールなど、採算が取れるような規制緩和を希望している。
木 下:
公共輸送も利便性(発着頻度など)が問題である。自家用車の利便性に対するニーズは環境問題をしても抑えられないのではないか。利便性を確保しながら交通弱者や環境などと調和できる仕組みを考えていく方が現実的ではないかと思う。
<市民の負担とリーダーの決断>
倉 田:
サービスは高望みするが税金は安くして欲しいのが市民の判断である。このギャップの中で苦しんでいるのが各市の首長である。しかし、やると決めるときにはやらなければいけない。その時に何パーセントの市民に理解してもらえるか、正に説明責任を果たす、情報公開をしていくということであると思っている。
<関西(大阪)のまちに対する意見>
倉 田:
大阪のまちはこれまで「金持ち競争」「贅沢合戦」をしてきた。今は「貧乏合戦」をして、情報公開をしながら行革をし「小さな政府」を目指している。そこでNPOである。「民」でできることは「民」でお願いするということで、池田市は3月に「公益活動促進に関する条例」をつくる。
カニタ:
「アジア合衆国」というような考え方で本音で語り合い、努力しながら競争して欲しい。
日本の方にはもっと異文化を理解し魅力を感じて欲しい。伝統やアイデンティティは常に異文化と触れ合うことにより産まれる。もっと大阪に異文化と交流できる場所をつくって欲しい。
木 下:
大阪(近畿圏)の再生のためには、市民に対してマスタープランを示すことは重要な役割を果たしていくと思われる。国民(市民)がどう考えるのか、それをどう吸い上げてどう制度化するかが重要であるが、その前にどうありたいと思うのかがあって、それらをフィードバックしながらマスタープランに結実していくという作業を今後しっかりとやっていかねばならない。
末 岡:
枚方市では「貧乏競争」をチャンスと捉えている職員がいる。これまで関係を持たなかった課とも連絡を密にする姿勢が見え始めている。
行政は市民をパートナー、まちづくりの担い手として認めても、その担い手をつぶさないように支援して欲しい。
<質疑応答>
質 問:市民が「今から変える」きっかけづくりの知恵を経験から教えていただきたい。
末 岡:
課題を共有できない時代であり、共有できる課題を行政から仕掛けていかざるを得ないと思っている。枚方市では各小学校区単位で「コミュニティ協議会」を設置しており、今後まちづくりへの意識高揚を期待している。
カニタ:
2年半くらい前から「船場研究会」を同士で立ち上げた。行政の人はもっと現場を歩いて情報を集めるべき。
倉 田:
「暗いと不平を言うよりも進んで灯りをつけましょう」できないという前にわかろうとすることが必要。行動するためには首長のリーダーシップが重要であり、やる気のある首長を選ぶのは市民の責任である。
意 見:考えるものによってまちを考えるレベルが違う。市民が考えるのは小学校区単位など自分たちのコミュニティの範囲であろう。まちのことは「放っておいてくれ。そこまで行政は入らなくていい。」ということになる。そのかわり、都市・地域についてはリーダーがビジョンを示していただくことが必要ではないか。
<まとめ>
平 峯:
アンケートの総括としては、まちづくりについてはこうありたいという強い意思がなければ動きにくい。それを求めるのに市長さんというリーダーをどう選ぶかということもあるが、逆にこうありたいと市民も意識し、発信することも都市生活としての基本的なルールであると思っている。そういうことを発信できずにニーズのみが出てくるということはおかしいと思っている。
現場、地域など具体的なことを知らなければ何事も動かないということがある。今後、まちをつくっていくときの役割が少しずつわかりつつあるのではないかと感じた。
そこに住む人がその地域の文化としてどう考えるか。そういう人がたくさん集まればまちの品格が上がり、まちづくりの方向として根付けば地域文化として花開くことがあろうかと思う。これまでは歴史的なことに基づいて皆さんが行動され、誇りを持って動いたと思うが、最近は少し欠けているというご指摘があったことを反省しなければならないし、今後、我々としても是非取り組んでいきたいと思う。
以上