顧客

地域デザイン研究会 代表 平峯 悠

 驚異的な支持率を示す小泉内閣は、持論の郵政事業の民営化に止まらず、民間にできることは民間に任せるという姿勢で、特殊法人をはじめ国立大学等の改革を進めようとしている。「官」に対する批判が多い中、この改革は国民の大方の支持を得るものである。民営化すれば、経営の健全化、効率化、サービスの向上を求められるのは当然であり、どの企業でも取り組んでいる「顧客」に対する満足度を向上させることが要求される。

 ここ数年「顧客満足(CS=Customer Satisfaction)」を高めることが企業の戦略として打ち出されてきている。今までも顧客優先、顧客第一との経営方針はあったものの、良い物を作れば消費者は満足するという思い込みがあった。しかし最近では顧客の欲求は多様化し、画一的な考えでは人々は満足しないという傾向がはっきりしてきたため、顧客中心へのバラダイム転換や改革が進められてきているのである。

「顧客」というのはお得意の客、言い換えると商売で料金を払う側の人のことをいう。行政や公共・公営事業で言えば税金や使用料、通行料を支払っている人達はすべて「顧客」である。民営化以前の国鉄は「乗せてやる、嫌なら乗るな」という態度でおよそ顧客満足の世界からかけ離れていたが、今では様変わりし民営化の効果は発揮されつつある。高速道路の通行料を支払う利用者は道路公団等にとって大切な「顧客」ではあるが、現在の公社・公団等の姿勢はこれで十分か。さらに各種の税金を納付している「国民・住民」とその使途を付託されている「官」・「行政」との関係はどうであろうか。一番問題なのは、税金等を自分のお金と錯覚する役人や官僚機構が自らの既得権益を守ろうとし、国民や住民とかけ離れた所での補助金や交付金制度等による歪な権力構造が生まれることである。またそこには利権に走る政治家や関連業界との不透明な関係が生じてくる。日常生活や現場から離れるにしたがって、即ち市町村から都道府県およぴ国の順に、その弊害が大きくなりがちである。地方分権は税金等の納付者である人々や事業者の目線で行政サービスを行うことに意味がある。

 街づくりや公共事業の「顧客」は言うまでもなく税金や料金を払ってくれる国民・市民・住民であり、顧客サービスを忘れた対応であってはならない。変化の激しい流通業界や民間企業ではバブル崩壊以後消費者の意識が変わってきたことを素早く察知し、顧客対応の新たな戦略を展開しようとしている。そこでの重要なキーワードは、@ブランドづくり、Aマスから個へ、B量より質の向上、C生涯顧客づくり、D顧客対応のクイックレスボンス・システム、E顧客データの活用などである。これらはこれからの街づくりや公共事業に求められていることと共通していることに気がつく。都市間・地域間競争に勝ち抜き、人々が定住し、豊かな生活を営むために不可欠な視点である。

 21世紀の社会は高齢化・少子化が進み、シルバー世代や女性の社会進出もあり、地域や街或いは交通・流通も大きく変わってくる。街づくりを実施するための基本である都市計画法も改訂され、現在都市計画学会で都市計画マニュアルの策定作業に取りかかっているが、行政を離れ「顧客満足」という視点で新しい街づくりの方策を提案していくことは、地デ研の大変面白いテーマと考えている。


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