分科会報告(第3回)

「まちとゆとり×居住分科会」

主査 茨木市役所 尾花英次朗

1.「ゆとり×居住」ってなに!?

 大きな家の建て方を研究しているのではありません。もともと、「まちとゆとり」と「まちと居住」といった別々の分科会がありましたが、訳あって合併統合の末、生まれたのがわが「まちとゆとり×居住」分科会なのです。(かつての太陽神戸三井銀行みたい。そのうち「さくら分科会」になるかも。)

 そんなわけで、「ゆとり」と「居住」といった視点から、街づくりのあり方を幅広く研究、議論すべく活動中ですが、特に「ゆとり」というテーマは奥が深くて難しい・・・。

 「豊かさ」という表現に置き換えると、東京・大阪などの大都市は、経済面では一定の水準に達したかもしれませんが、社会資本や市民生活、或いは自然・文化的側面についてはどうでしょうか。交通渋滞は解消されず、環境粗悪な密集住宅地が広がり、市民は小さな持ち家のローンに追われている。かつてのニュータウンには高齢化の波が押し寄せ、大規模店舗に敗れた駅前通りが静かに朽ちてゆく様は見るに耐えません。都市再開発にしても商業主義的で都会の文化の拠点とは言い難い状況です。

 また、日常の問題だけでなく、阪神・淡路大震災を通じて、私たちは、オープンスペースや複数の交通ルートの確保、或いは近隣コミュニテイの大切さなど、柔軟な対応が可能な「都市のゆとり」や有事にも助け合える「暮らしのゆとり」が重要との教訓を得ました。

 以上のような問題意識を持ちつつ、当分科会では、できるだけ現実にある地区や事業を対象に、「ゆとり」と「居住」をキーワードに、具体的な議論を重ねたいと考えています。

2.どんなことやってんの?

 月一回、平日の夜に研究会を開いています。((株)建設技術研究所さんの会議室を借用。毎度ありがとうごぎいます。)また、年4〜5回程度、話題の事業地や市街地について、実際に現地を歩いてみる「フィールドワーク」を行っています。


(注)写真は、神戸港・アメニティ旅客ターミナル前にて。スロープ・双方向エレベ←ターーから音声誘導システムに至るまで、ユニバーサルデザインが徹底された施設を見学。

 研究会では、「日本の都市や住まいに豊かさを感じないのは何故か?」「節目のない伸びきった都市構造を変えるには?」「今の街づくりや住宅政策のここがおかしい!」等々、フィールドワークの感想や日頃の関心事を題材に、ブレーンストーミングから始めて、議論を深めているところです。今後、活動記録の一環として、「街づくり提言集」をとりまとめることができればと考えています。以下に、最近の現地見学実績をご紹介します。

○H12.11.25「日本の住宅様式を探る・・・京都町家」

○H13.1.26「異文化ゾーンを歩く・・・鶴橋コリアンタウン」

○H13.4.21「ユニバーサルデザインを考る・・・神戸港アメニティターミナル」

○H13.10.13「人と車、折り合いの道づくり・・・大阪市内コミュニテイ道路」

 今後は、@都市居住、A密集市街地、B郊外ニュータウン、Cペイエリア整備などのテーマに沿って、具体的な地区を上げ、「ゆとり」と「居住」の視点から、ケーススタディに取り組んでいきます。研究会とフィールドワーク、いずれも多数のご参加をお待ちしております!

 コミュニテイ道路「ゆずり葉の道」を現地視察
          (まちとゆとり×居住分科会)


花博通りの古田歯科医院前で参加者記念撮影(左から5人目が古田さん)

 「まちとゆとり×居住」分科会は、人と車の折り合いの道づくりとして注目される大阪市「ゆずり実の道」整備事業の現状を視察するため10月13日、城東区関目周辺の住宅地を訪れました。この地域ではコミュニテイ道路「ゆずり葉の道」や城北川沿いの遊歩道が整備されたことで、まちにゆとりと潤いのようなものが生まれ、人々のコミュニケーションも向上しているようです。

 この日のフィールドワークに参加したのは尾花、石塚、小山、山内、中江、白井、佐々木、大戸、泉の9人と、大阪市建設局でゆずり葉の道整備計画を担当されている吉矢さん。約1時間半をかけて該当区域を散策するなかで、案内いただいた吉矢さんには分科会メンバーから多くの質問が飛び交いました。ゆずり葉の道は昭和55年に大阪市が全国初の試みとして阿倍野区長池で整備して以来、平成12年度末現在で327路線、約113kmを整備。視察した城東区内での整備延長は旭区に次ぐ市内2位、約15kmに達しています。人と車の共存を目指した新しいタイプの生活道路で、不要な車を排除し入ってきた車の減速を促すために車道幅を狭くし、ジグザグ状に変化させています。一方でカラーブロックによる歩道をゆったりとり、必要最小限の段差、車両乗り上げ防止の防護柵を設置、ジグザグの凸部を利用した植樹、ベンチの設置などでゆとり・やすらぎ空間を演出しています。

 大阪市の調査結果によると、ゆずり葉の道を整備したことで、@通過交通が25〜35%減少A走行速度が平均16%減速B歩行者の評価として「良くなった」の回答が60〜90%−などの効果が得られています。一方で当初計画を変更せざるを得なくなった面もみられ、防護柵は盲人福祉協会の申し入れ等を受けて当初の高さ30cmから80cmに変更、減速目的の隆起したハンプ(車道に設置した突起)は住民や運転者の声によって撤去することになりました。(交通安全という初期の政策目的をどう実現するかが難しいところです)


関目北公園周辺「ゆずり葉の道

 ゆずり葉の道と交差する「花博通り」。この沿道には平成2年の国際花と禄の博覧会(鶴見緑地)を契機に、大阪市都市緑化基金からプランターや花の苗が配布されました。住民が自主的に管理することを原則としており、10年以上にわたり手入れをしているという古田さん(古田歯科医院の奥様)に話を聞くことができました。話では、沿道の商店主や住民の交代などから自主管理をしなくなったケースも目立ち、緑化基金からの支援も今年で打ち切られたそうです。それでも古田さんは心を込めて手入れを続けていて、「この植物が家族の一員のよう。通行する人から声を掛けられ、立ち話することもしばしばあります」と話されていました。

 遊歩道が整備された城北川の沿岸では釣り人の姿も見られたし、ゆずり葉の道に接する公園では子供たちの賑わいが目立ちました。地域にとけ込んだまちづくり、地元参加型まちづくりの一端を見られたのが、今例のフィールドワークの収穫でした。


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