ヨーロッパ大遠征顛末記(III)

阪神高速道路公団 中尾 恵昭
守口市      吉川 一典

オーストリア(ウィーン、バーデン)

1月8日13;25 OS(オーストリア航空)258便
 バルセロナ発
 15;45 シュベヒャート空港着

スペイン、バルセロナを飛び立ち、ピレネー山脈を眼下に2時間余りでウィーン、シュベヒャート空港に降り立った。随分小さな空港である。スペインから利用した航空会社は、F1レーサーで名を馳せたニキー・ラウダが所有するラウダ航空機で機内食のトレーは三角形で食事も満足できる内容であった。

ウィーンは13世紀から1918年の第一次世界大戦終了まで、神聖ローマ帝国、オーストリア帝国の王都で、ハプスブルク家がキリスト教(カトリック)の拡大政策と他の王家との婚姻により領土を拡大しつつ富と権力の座に君臨し栄華を極めたことで知られている。また、モーツァルト、ベートーベン、シューベルトなど希有な人材を多数輩出した音楽の都である。

ベルリン・フィルの「ジルベスターコンサート」に対峙する「ニューイヤー・コンサート」会場のオペラホール、王宮、市庁舎、王立図書館、ウィーン少年合唱団が毎週日曜の朝、歌声を披露する王宮礼拝堂等々が立ち並び、街なかを“美しく青きドナウ”が流れる中世の残り香が今なお漂う街である。

空港で周遊バスが乗り放題の「ウィーンチケット」を購入し、市内のウィーン南駅まで行き、地下鉄4号線でホテル「PARK SCHONBRUNN」に向かった。その建物はシェーンブルン宮殿の隣に建つ歴史的迎賓館であったもので、今回の旅で一番高級な4星ホテルであった。

我々は荷物を置くと市内に出て、カールスプラッツ駅からケルトナー通りを北に、国立オペラ座を通り、ゴシック調のシュテファン寺院を見ながらシュウェーデンプラッツ駅まで散策した。壮麗で尊厳な建物群により帝国の王都の雰囲気が街全体に漂っている。道行く人たちは鷹揚でウィーン市民としての誇り、プライドが感じられ威圧される。

その夜はワインケラーで宴たけなわとなった。

あくる日の早朝、ホテルの隣のシェーンブルン宮殿を散策した。シンメトリーの植え込み、温室の植物園、広大な庭園。ここは偉大なるオーストリアの母、女帝マリア・テレジアが愛したロココの粋を集めたハプスブルク家の夏の宮殿である。宮殿内に入ると王家の往時を偲ばせる富と権威と美に彩られた調度品、装飾品の数々が私たちに帝国の威光を語りかけてくる。中でも「会議は踊る。されど進まず。」と皮肉られたウィーン会議の舞踏会の舞台になった「大広間」は圧巻だ。頭上には巨大なクリスタルのシャンデリアが今も燦然と輝いている。

華麗で奢侈な館のなかにハプスブルク家最後の皇帝といわれるフランツ・ヨーデフT世の妃で、“バイエルンの薔薇”と讃えられたエリーザベトの愛と権力の渦中での悲嘆と喪失感が訪れた人々の胸を打つ。

宮殿の近くの駅から郊外電車に乗り、ウィーン近郊のバーデンに向かう。バーデンはウィーンから1時間30分位のところにあり、ベートーベンが作曲活動に勤しんだ地で、温泉保養地でもある。早速温泉に出向くと料金先払いで腕時計の様なものをくれた。ここではプールのような温泉に水着で入る。サウナもあり、利用する時に先ほどの腕時計を入口の機械にかざすと回転バーが作動し入室できる仕組みになっている。

サウナルームの中は素っ裸で混浴!土地柄か、ドイツ語、イタリア語が飛び交い、年齢も20代から70代の男女が、すでに20人位談笑している。注意書きが読めず、水着のままで入室したため衆目の的となり、早速「Are you cold?」と質問されたが、慌てて「Yes」と答えてしまった。周囲の人はおおらかで、ぶらぶらさせながら室内を歩き回るし、20才前後と思われる女性も惜しげもないポーズで寝そべっている。全てに大きい外人に囲まれ、すっかり気後れし、今更水着を脱げなくなったのが一人。もう一人は堂々と裸でバーデンのサウナを楽しんだ。

案の定、サウナの時間が延びて、ウィーン市内に戻ったのは夕方4時頃で、早速王宮に向かった。ハプスブルク家の象徴、双頭の鷲を戴いた王宮。それは栄光の大帝国の大いなる遺産であるとともに市民の精神の支え、心の拠り所なのかもしれない。七世紀にわたって広大な領土を支配し続けた帝国の王都、ウィーン。今更ながら歴史の重みにただただ圧倒されそうだ。

ウィーン最後の夜、ホテルのフロントでくつろいでいると、さりげなく置かれている調度品や絵画が紛れもなく帝国の都であったことを彷彿とさせる。

文化の豊かさや厚み、時間を超えて息づく歴史の証拠が市民の日常生活にも組み込まれていることが感じられ、この街にまたいずれ再訪したいと思いつつ、次の都市「太陽きらめく水の都」イタリア・ヴェネチアに向かう。

(つづく)


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