わが愛車くん

株)アニマトゥール弘報企画 道下弘子

 愛車の走行距離が1年で2万4000キロになった。これが本誌の編集氏の耳に及び「原稿を書くように」とのお達しをいただいた。

■買ったわけ編

 世の中に愛想つかして大学1回生の時に運転免許を取りオンボロのセリカに乗っていたが、社会人になってからは貧乏生活が続き姉の車をたまに運転するぐらいだった。平成9年の誕生日のあと更新を忘れ、気づいたときには6カ月以上を経過、ときの公安委員長に相談したもののアウト。「自宅も勤務先も駅から徒歩一分の距離、自家用車を持つ身分でもないワイ」今後は免許なし人生とあきらめひたすら公共交通機関を利用していた。

 転機は平成12年の夏。若い奴の顔はアホ面で、ナリは女はパンパン、野郎はみんなジーパンをずらせて下着を見せる、とにかく服装のマナーやハレとケなんぞとっくにない。毎日利用する公共交通機関でもマナーは死滅、注意をするが「みっちゃん、そのうち刺されるぞ」と友人の忠告もごもっともと思うようになった。車内で人々に目をやらず新聞を見ていても、ストレスは増大するばかり。「こんなところにわが身を置きたくない」と車に乗る決意を固めた。

 「免許はいつでもとれるワイ」とたかをくくり、先に車を物色、安い中古車をと知り合いを紹介してもらった。

 はじめにやってきたのは150万円也の小さいベンツくん。

 「こんなんに150万ももったいない」と悩んだ、この値段なら新車が買える‥‥。

 「いっぺん新車を見に行こか」と姉に誘われあっちこっちまわった。意外に安いものだと思ったのがBMW(318i)326万円。しかしパワーや内装などを見ているうちにどうしてもちょっとずつランクが上がってしまう。「やっぱり高こなるなあ」。

 9月に新型車がでるという情報をキャッチして「見るのはただ」と行き、一目惚れしたのが今の愛車だ。10歳からファンだったショーケンも一時乗っていた、まさに憧れのブランド。身分不相応、もったいない、しかし無理して買えないこともない‥‥。この深い悩みをすっぱり片づけてくださったのが、地域デザイン研究会の岩本康男氏だ。台湾旅行の道中何を見ても「道下さん、Jよりも安いで」と甘いささやき。悩んでいた色まで「そら、グリーンですがな」。平峯さんや中尾さんの「いっとこ」コールにも励まされた。帰国して一番にディーラーに連絡した。

■長距離走行編

 かわいそうなのです

 車が届くまでの2カ月間に免許を取ればよいと、10月中旬に門真試験場に行ったが、愛車がやってきたときはまだ「仮免許」。2月にようやく免許を取得した。

 この正月で正規の運転歴は11カ月になった。地球環境に配慮しない毎日の通勤だけで月間約500キロ。最終電車の時間を気にしなくてよくなった。加えて琵琶湖はじめ豊岡など遠方へも行く。往復約150キロの琵琶湖には市民団体をNPOとして立ち上げる仕事があり、毎月3〜4回は行かねばならない。イベント系の仕事では本番となると荷物が多く、容量452リットルのトランクも満杯にして走る。足の悪い母親らを新潟〜松本、駿河湾〜伊豆、山陰、正月には伊勢へ旅行に連れても行った。

 とにかくわが愛車はかわいそうなほどこき使われている。

 人が車を選ぶのではなく、車が人を選ぶのだという。

 わが愛車にはいつまでも私というドライバーを選んでいてほしいと願う。

■雑感編

 阪高は回数券を別途買っているが、道路公団の5万円のプリペイドカードはすでに5枚目を使い終わろうとしている。高速道路の有り難さをひしひしと思うとともに、日本の通行料金の高さ、社会資本整備に市場原理を持ち込むことの未熟さを感じる。また山深い地方の隅々まで道路が整備されているのを見るにつけ、つくづくと日本の道路行政に「ようがんばってますな」と、いいたくなる。

 それにしても、道路は誰のためのものなのか。

 走行距離の伸びにあわせて最高速度も伸びているかというと、そうでもない。東名高速で190キロを出してから半年後に中国道で踏ん張ったが、200キロに達することができなかった。警察が、違反が怖いからだ。湾岸線で39キロ、一般道で26キロ、舞鶴道で39キロ---捕まった違反歴だ。高速道ではいずれもまけてもらったと思うが、これ以上違反を重ねたら運転できなくなってしまう。違反金は8万8000円に達し、初心者講習と免停講習に丸2日と2万7000円を費やし、仕方なく取締キャッチ用の機具を買った。

 高速走行できるように設計されている道路なのに、もったいない、もったいない。

 週に1回愛車を洗っていた。過去形なのは昨年8月にわがマンションで洗車が禁止になったからだ。洗車禁止の理由は「使う人が少ないから」と「ゴミ収集車の通路になるから」。マンションの理事会で決めやがった。洗車していたのはほとんど私だけで、土日だからゴミ車を妨げることはありえない。自分の車を自分で洗うのは当たり前、でないと小さな傷もちょっとした変化も見つけられない。誰かのヘンネシだとすぐわかった。使う人数が少ないという理由で禁止するのは理にかなわないなど常識で異を唱え理事会出席を所望したが、管理組合の一員にすぎない者は「意見を述べるだけで、退席を命じることがある」旨のありがたいお達しが来ただけ。

 無教養で常識のない人たちが理事会を構成するとこんなことになるのかと、彼らの行状を振り返って発見したのは、何でも「禁止」ということ。「禁止」は手っ取り早いだけのもっとも幼稚で短絡的な手法だ。

 愛車のおかげでわがマンションはじめ住む地域の貧しさを再発見、実現の可能性は今のところないが「こんなところにわが身を置きたくない」と強く思うようになった。

 貧しい地域から出て行くか改革するか。それにしても住宅ローンが残っている。


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