こんなところ行ってきたよ

−アメリカ−

(ニューヨーク、ピッツバーグ、ボストン視察)

大阪府 南 健志

大阪府政策提言サポートシステムの海外調査公募に応募し、昨年の7月14日から26日までの15日間、アメリカ3都市(ニューヨーク、ピッツバーグ、ボストン)へ出張する機会を得ました。今回の調査目的は、「新しい産業空間」をタイトルにいわゆるバイオ、IT、医療産業などの新しい都市型産業と都市づくりとのかかわりについて、「大阪において新しい産業立地は都市空間としてどのような構成なのか。どのような取り組みが必要なのか。」などの見聞を得ようとしたものです。

■ ニューヨーク(ニューヨーク州)

最初の訪問地はニューヨーク。ここでの調査対象はITコンテンツ産業集積としてのシリコンアレー。ここでコンテンツ産業が立地した背景は、ニューヨークのもつ既存のメディア企業の立地、音楽家・編集・デザイナーなどの豊かな人材集積、世界屈指の観光都市としてのポテンシャルをベースに、地元ノンプロフィット組織(=NPO)を中心に、既存ビルのオフィス空間提供や商業活性化プログラムの実施を行ったことでした。

ところがこのシリコンアレーは、既存のオフィススペースにベンチャー的に立地するため、歩いて観て回ってもここがシリコンアレーであるかどうか全くわかりません。(現地ヒアリングしたジェトロNY事務所の人によると、彼らも各方面からのシリコンアレーの視察対応には苦慮するとのこと)ITコンテンツ系の産業立地というのは、大阪の集積地と言われる南森町や心斎橋でもそうなのですが、産業系の空間としては工業団地とは異なり、固有の都市空間ではありません。むしろ、ニューヨークにおいてジュリアーニ市長が行ったように、街全体を知的好奇心が刺激されるように都市活動づくり、都市空間づくりを行う。

そしてこれをベースに既存業務ビルをIT化用に改造したり、そのフロアーを安価で貸し付けしたり、さらには税や光熱費の減免などにより産業空間として形成されていくようです。

そのほかに驚いたのは、ニューヨーク市もバイオ産業育成に動きだしていること。大学医学部や医療関係施設が集積するマンハッタン島東部に「リサーチサイエンスパーク」プロジェクトを始動させている。このことについて説明を受けた後に、逆に現地スタッフから、大阪周辺のバイオ拠点の動向はどうなっているのかと聞き返されて(完全に偵察という感じで)。まさに世界競争であり、関西の神戸、彩都、京都も競争相手は世界であるということを実感しました。

■ピッツバーグ(ペンシルバニア州)

次の訪問地ピッツバーグへ。鉄鋼の街だと学生時代に習ったが、現在では鉄鋼所は1カ所で、再生医療産業とIT産業の街と全く姿を変えている。

かつて煙の街と呼ばれ隆盛を誇ったピッツバーグが、日本の製鉄業の進展により衰退し、人口も50万人から人に激減するなどしたことから、産官学一体となってバイオメディカル、コンピュータ産業など先端産業の街として再興を果たしたものです。

調査するに、ピッツバーグ大学医学部が鉄鋼・炭鉱労働者向け医療を原点として、スポーツメディカルの発祥の地であったこと。1960年代のダウンタウン再開発によりUSスチール、カーネギーメロン、ハインズなどの有力企業本社が立地していること。ミュージカル劇場、歴史的建造物、大リーグ・プロフットボールチームなどに文化資源恵まれていること。また、住みやすい都市全米1位に選ばれるなど住宅状況も良好であるようです。

現地の担当者などは、この都市の人はみな街を愛していると言い、バイオ産業の投資家会議の後は、皆でポップコーンをほおばりながら大リーグ観戦を行うようです。

このようにこの街が持ついろいろな要素はすべて現在の発展につながっている。要するに都市型産業を育成するにも、その都市のもつ歴史・経緯など場の力を生かすことが重要で、住み、働く人にとってのきちっとした都市づくりが大きく振興に寄与することが体感した次第であります。

また、この都市の産業再生、都市再開発に数多くのノンプロフィット組織(=NPO)が大活躍。ノンプロフィット組織がいくつも入居するビルは第2の市役所として機能しています。現地スタッフが、「世の中に貢献したい人がいるが、団体がない場合、自らノンプロフィット組織をつくり、こういった団体にファンドや税の特典を与える仕組みがある」といったのが印象的だった。なお、ピッツバーグのノンプロフィットの活躍は「誰が主体となりうるか」というテーマで、昨年11月にはNHKスペシャルでも取り上げられるなど、まさに注目すべきものが多々あります。

■ボストン(マサチューセッツ州)

最後の訪問地としてボストンへ。ここはアメリカ建国の地であるなど歴史都市であるとともに、ハーバード大、MITなど大学の街である(京都市は姉妹都市)。ここでの調査対象は大学周辺に立地するバイオベンチャー系企業の立地。バイオベンチャー企業の立地状況としては、MIT隣接地に大小さまざまなバイオ系企業研究施設が立地している。港湾倉庫跡地を改造してミニラボを立地しているものもある。MITの産官連携組織へのヒアリングによると、卒業生を中心とするベンチャー研究者は大学と徒歩で行き来し、役員を兼ねた大学教授とフェイスツーフェイスの情報交換しながら新製品を開発していくようです。

前先述のニューヨーク、ピッツバーグも同様であり、バイオ研究産業に代表される都市型産業は、既存の市街地内において、知識の源泉(ここでは大学)から軽いフットワークによる情報交換が可能な範囲での立地志向が高いようです。大阪、関西のバイオ産業育成についてもこのような都市型産業の立地特性を踏まえながら、都市づくりとの連携を図っていく必要があると思います。(大丈夫だろうか正直心配です)

■おわりに

今回、同時多発テロの影響で7月に延期されたことで、緯度が高く夏時間を採用するアメリカは夜の9時ごろまで十分明るく、またアメリカ東海岸の夏の暑さともあわせ、歩き回るという点では、疲れ果てるぐらいに十分堪能できました(その分歩き疲れて、夜の街を歩き回れずに面白いネタはあまりないのですが)。また、アメリカにおけるNPOの活躍や都市型産業の立地特性を調べるという点では2週間という期間は短すぎたのも正直な感想でした。都市型産業の振興は世界的な都市間競争そのものであることも実感できたし、そのために(私も含めて)日本人のほとんどが英語で仕事ができないのは国益上の大変な損失とも思ったものです。

この研修の成果は、大阪府へ政策提言という形で提出しています。施策として採用するのか、逆にピントはずれで採用するレベルではないのか、あるいは提言が先鋭的で処理できないかどうかわかりませんが、私個人としては今回の出張は思い出深い出張であり、いずれの都市ももう一度機会があれば訪れたいと思う都市でありました。

(追記)

今回の訪米の動機となった都市型産業の特性について参考文献を紹介します。

「シリコンバレー」のつくり方 テクノリージョン型国家をめざして 東 一眞著(中公新書クラレ)、「競争戦略「」マイケル・E・ポーター著 竹内弘高訳 (ダイヤモンド社)


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