悠悠録

町のイメージ

地域デザイン研究会 代表 平峯 悠

平成15年の歌会始のお題は「町」であった。御製・御歌をはじめ詠進歌はいずれも生活やふれあいの場である町のイメージを詠っている。いくつかを「古き家軒をつらねて並びたる京の町並みなつか「ふとわが名呼ばれし気持ちに振り返る路面電車など、心の中に刻み込まれた町の情景やイメージが歌に読み込まれている。人々にとって「町のイメージ」はかけがいのない思い出であり、生きてきた都市は人間が作り上げていく公共的作品である。

従ってまちづくりに当たっては、芸術作品と同様に、どのような町にするかをイメージすることから始めねばならない。街路や広場の計画では町並みや空間の広がり、建物および店舗の将来を、また土地利用計画では周辺の緑や河川等の自然環境と市街化の方向などを思い浮かべ、そのイメージを具体化し世の中に提起していくことが必要である。与えられた課題に対し豊かでしかも複数のイメージを持つことができればその構想や計画は成功する。最終的には町のイメージとして人々の心に強く生き残っていく。


絵:伊藤可奈子

ところが、役所やコンサルタントなどでまちづくりを担当している多くの実務者がそのような手順を踏んでいるとは思えない。都市計画マニュアルや法令・施行規則、補助要綱などに準拠し、こうしたいという自己主張もせず、空虚な文言を連ね、画一的な計画に終わっていることが多い。平安時代後期の庭造りの技術書である「作庭記」では、次の3点を第1は、「生得の山水をおもはへて〜」、即ちどこかでみた自然の姿やあり方を思い起こし、第2は、「むかしの上手のたておきたるありさまをあとして〜」とあるように、これまでの良いところに学び、第3に、「国々の名所をおもひめくらして、おもしろき所々をわかものになして〜」、多くの名所の面白いところを自分の考えに取り込め、と教えている。

現在のまちづくりにも十分応用できる。

開発事業に伴うアイディアコンペ、あるいはプレゼンテーションなどでは面白い提案があることから、日本人が感性を失ったわけではない。私達も常に町のありさまや人々の行動を観察し、町に対するイメージトレーニングを欠かしてはならない。「心が働くとイメージが起こり、イメージがあると心も働く。イメージには力があり、イメージすることによって思いもよらなかった素晴らしい働きが出てくる」(注)という。

(注)「無意識への扉をひらく」林道義 PHP新書

 


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