地域デザイン研究会「プロジェクト研究会議」報告

「大阪駅と地盤」星野鐘雄氏が講演

7月12日(土)、眼下に大阪駅を見下ろすマルビル・第一ホテルの29階会議室において「プロジェクト研究会議」を開催、星野鐘雄氏(ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社代表取締役社長)を講師に招き「大阪駅と地盤」をテーマに講演していただきました。

星野氏は、地盤工学会関西支部顧問でもあり、鉄道・地盤工学双方にわたる専門技術者。昭和38年3月京都大学工学部土木工学科卒業後、日本国有鉄道に入社、企画・計画から建設にわたる第一線で活躍。国鉄民営化後も西日本旅客鉄道株式会社の大阪工事事務所長、施設部長、取締役建設工事部長を歴任。平成10年には関西高速鉄道株式会社の代表取締役社長に就任。

平成12年からジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社の代表取締役社長。著書には「新鉄道システム工学」(交通図書賞受賞)。

プロジェクト研究会議における星野氏の講演概要を掲載します。作成にあたって当日のスライド資料等を活用させていただきました。ここに厚くお礼申し上げます。(担当:友田、南、尾花)

1.大阪駅の歴史

●大阪駅は30〜40年おきに改築

現在の駅ビルは4代目

初代の大阪駅は、明治7年の神戸〜大阪駅間開通と同時に開業。新橋〜横浜間開通の2年後のこと。外国人技師の指導で鉄道建設が進められ、その後、大阪駅は30年から40年おきに改築。現在の駅ビルは四代目。

21世紀を迎え、現在、新しい駅ビルの構想を計画中。

明治10年に京都まで開通後、利用客が増え、明治34年には二代目大阪駅が開業。昭和4年から11年に上淀川から下淀川まで4km弱の高架工事が大阪地区の道路交通と鉄道の立体交差化を目的に実施。昭和15年、三代目大阪駅が開業。昭和27年からオリンピック開催年の39年までに高架橋が沈下したため対策工事「アンダーピニング」が行われた(=ビデオで紹介)。環状線の全線開通、昭和45年の万博に合わせて駅の増強工事を実施。昭和58年に今の大阪ターミナルビルが開業。今年で20年になる。

●初代大阪駅は堂島から梅田に計画変更、終端駅構想も修正。鉄道・土木工学発祥地のひとつに

初代大阪駅は、船運の利便と商業中心地である堂島の近くに計画。ヨーロッパのような終端駅を構想。しかし、住民の反対で田園地帯の梅田、中央郵便局付近に変更。京都への直通運転のため通過タイプとなる。

駅舎は木造レンガ張りの洋風建築で瓦葺屋根が特徴的な装飾。外国人の指導のもと建築されたが、井上勝鉄道局長が「土木技術者の養成」のため大阪駅2階に「工技生養成所」を設置。9年後には逢坂山トンネルを日本人技術者だけで造った。わが国の鉄道工学、土木工学の発祥地のひとつ。

明治34年改築の二代目大阪駅は、石張りレンガ造りで日銀の大阪支店と並ぶ大変豪壮な建物だった。

2.大阪駅の地盤と工事の経緯

●三都の駅と地盤

京都駅は地盤が比較的よく軟弱地盤がない。東海道新幹線は地下マイナス5mの沖積砂礫層という比較的新しい時代の砂礫層に留めてある。京都駅はマイナス20mの洪積砂礫層が支持地盤。

新神戸駅は京都・大阪と異なり花崗岩が山側にある。布引の山沿いには有名な諏訪山断層。海側には真砂土。一体的な駅の構造計画から、ホームと線路の構造を切った。基礎も剛性の大きな直接基礎。地盤が100万年の間に1000m、年間1mm動いている計算。50年で50mm変位してもホーム部分が落ちないように工事区長として自ら設計。地震の被害は少なく済んだ。

大阪の地盤は俗に豆腐状。大阪駅はー20mまで粘土層。その下に砂礫層。大阪の地盤は粘土と砂礫層が交互に五層。昭和初期に建設された高架橋は、梅田粘土層で杭が留まっている。

●武智杭による高架化、阪急線との切換工事

大阪の道路交通緩和のために、昭和4年から11年に延長3.7km、上淀川、下淀川の間で、鉄道を上げた。

この高架橋を支えるのが節くれだった「武智杭」で杭の長さが5.5m、工事費を節減したという記録があるが、後に沈下する原因となる。

●地下水取水規制(S37)まで続いた地盤沈下と対策工事

高架橋工事中から周辺の地下水の汲み上げによって地盤沈下の兆候が現れ、昭和16年には国鉄内に沈下対策委員会が設置されたが、戦争のため見送られ、実現したのは昭和27年。地下水位は、昭和初期に工場の地下水汲み上げ開始後、低下し始め、昭和37年に大阪市で地下水の取水規制により徐々に回復し、地盤沈下が沈静した。

ホームも不等沈下で大きく傾いた。昭和12年から32年の20年間で、大阪駅の10番線付近の総沈下量が実に最大1.8m。今のヨドバシカメラの前あたりが一番落ちた。

大阪駅は南北に歩くと、不思議なほど勾配とか階段がある。これらは高架橋の沈下の後遺症。応急対策として、線路の勾配は急に変えられないので、バラストを注ぎ込んだり、高架橋と線路の間に桁をかました。

従来の高架橋の上に受け材を設けて、コンクリート桁とか合成桁、鉄桁を挿入し、線路を上げている。ホームも上屋も上げた。

●アンダーピニング工法(S31〜S39年)

アンダーピニングは、ラーメン高架橋が沈まないようにその下に杭をかませて、下の天満層まで何らかの形で杭を打ち、それ以上下がらないようにした。このアンダーピニングは日本で初めての工事だった。

3.これからの大阪駅

大阪駅北のコンペの優秀作品。新幹線が入ってきて大阪駅と直角に交差したり、大阪を象徴する水を大胆に取り込んだり、アルゼンチンからは高層部分を両側に配し真中に緑を広げる計画。これらのすばらしい作品を土台にしながら再開発の計画が出てくることになろう。

評判が悪いのは混雑するコンコース。中央口も東口も改札口を入ると中2階がありウロウロすることになる。環状線と東海道線の乗り換えは特に混雑。今度は、全部段差をなくしていくことが必要。ギャレという流行っている店がありジレンマではあるが、乗客第一に考える計画。南北方向、東西方向で不思議な段差があり、バリアフリーになっていない。JRで考えている駅ビルの絵を見せたいが、関係機関と協議中であり困難なため、コンセプトだけでお許しいただきたい。

星野氏の講演を受けて、フロアとの意見交換も行なわれました。今後の大阪駅の開発をめぐり、都市の玄関口としての重要性や新幹線の導入可能性などが質問されるとともに、区画整理などの基盤整備と宅地上の建築行為が分離された従来型の開発手法から、土木インフラ整備と建築計画が一体化した新たな都市開発手法について提案がなされました。


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