私は、27年間「まちづくり」ということに関わってきました。「まちづくり」ということばは、大変幅の広いことばでありますが、私の関わってきた「まちづくり」は約1ha前後の区域における、都市再開発法に基づく市街地再開発事業であります。

市街地再開発事業の制度(都市再開発法に基づく市街地再開発事業)については、現在の低成長時代においては、なかなかなじまないものになってきていますが、1969年に都市再開発法が施行されて以来これまでに、全国で572地区、区域面積で838.44ha(平成15年3月31日時点)が市街地再開発事業で整備され、都市の防災化、基盤施設の整備、商業の活性化等に大きく寄与してきております。

再開発事業は、初動期から完了まで約10年程度の期間を要する事業です。中には20年以上かかって完成している地区もあります。私はこれまでに17地区の再開発事業に関わりそのうち7地区が完成しています。この完成地区7地区のうちほぼ初動期から完成まで関わった地区は3地区であります。私は再開発事業のコーディネーターとしてこの3地区に関わっておりました。再開発事業は、何人もの専門家や企業の協働により創られる事業です。再開発プランナー(コーディネーター)、建築士、不動産鑑定士、補償コンサルタント、司法書士、土地家屋調査士、弁護士、税理士、商業コンサルタント、総合建設会社等の専門家や企業が関係します。

再開発事業の発端にはいろいろなケースがありますが、大きく分けると、行政サイドから地元へ下ろす場合と、地元の有志がこの地区を何とかしようということから出発する場合の2通りがあります。

どちらのケースにおいても、都市再開発法に基づく事業を実施しようとする場合には、初期段階ではその都市における再開発地区の位置付けのための都市再生計画や市街地総合再生計画を策定することになります。

その後対象となる地区の関係権利者に集まってもらって、再開発事業に関する勉強会を実施し、関係権利者に再開発事業に関する理解を深めてもらいます。これと平行して、再生計画を基にし、街区整備計画や事業推進計画で、事業の成立要件(収入金支出金の検討に併せて、関係権利者の権利変換率、保留床の処分性等)について検討を行い、事業推進の基本方針を立てるのです。

私が完成までかかわった3地区とも、事業が途中で頓挫していた地区でありました。事業のこう着状態から脱出できることができたのは、3地区とも行政の支援に負うところが大でありました。行政が反対派と賛成派の間に入って調整をしたり、公共公益施設を再開発ビルに導入することで保留床処分の一翼を担ったりしています。

再開発事業の事業推進を図ることができる条件としては、経済情勢が良いこと、立地条件が良いこと、関係権利者の合意形成がなされていること、行政の協力体制が整っていること、良きデベロッパーやコンサルタントがそろっていることがあげられる。これらの条件の中で、事業推進上最もウエイトを占めるものは、関係権利者の合意形成であろう。

合意形成には、関係権利者の属性やおかれている状況は千差万別であり、一人ひとりの状況を十分把握した上で、再開発事業に関する啓発や、疑問や不安に応えていくことが必要であると考えます。

例えば、商店街を含む再開発事業の場合には、商店主が高齢者であれば、このままそっとしておいてほしいという考えや、これを機会に商売をやめようとして再開発事業の補償費を退職金と考えて補償交渉に望む考えや、また若い人であればこの事業を機会に商売を拡張しようという考えや、再開発事業のために我々は犠牲になるので反対だという考え等様々です。

経済が成長している時期であれば、関係権利者は再開発事業に希望を託して前向きに考えることができるが、そうでない時期においては、リスクを先に考えてなかなか再開発事業に取り組もうという気にはならないものである。

社団法人全国土地区画整理組合連合会理事長の高橋光壽氏が「まちづくりは夢づくり、夢づくりは人づくり」と言われるように、コーディネーターが関係権利者と再開発事業の話をするときには、夢や希望を託することができるまちづくりの青写真を提示し、関係権利者の意識の啓発と併せて、将来の納得できる生活設計を提示し、相手の話を十分に聞いて一緒に考えていく姿勢を示すことが大切であると考えております。


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