●残すべき町並み

18年ぶりの阪神タイガースリーグ優勝に大阪なかんずく道頓堀界隈は沸き立ったが、何度もテレビ画面に映し出される道頓堀の町並みには、一目で大阪とわかるサムシングがある。大都会の盛り場ではあるが独特の濃いモノがあり、改めてまちづくりには時間と手間暇がかかることを感じさせられる。道頓堀と並ぶ大阪の名所、法善寺横丁の火災による再建問題から、町並み再生とその効果などについて感じたことを書いてみたい。

昨年9月におきた大阪「ミナミ」の法善寺横丁の火災による再建問題は、地元の要請を受け、狭い路地裏の町並みが維持され、その風情や面影が残されることになった。あらためて言うまでもないことであるが、法善寺横丁の再建で最も問題となったのは、今までの建物が建築基準法の接道義務を満たしていない点である。被災前の法善寺横丁は、幅員2m程度の狭い路地に小さな木造建の飲食店が軒を連ねており、これがこの横丁の魅力であったわけだが、同時に火災に弱い町並みであったことことから不幸にも被害を大きくしてしまっている。

建築基準法を満たす形で再建するとなると現在の道路に2m程度のセットバックが必要となり、ただでさえ狭い店がますます狭くなるので、一部の店舗は2階に入ってもらうとか、一軒の間口を狭くしてそれぞれ上階に店舗を拡張するなどしなければならない。土地区画整理事業の過小地換地と同様の問題が生じており、権利者同意という点で再建までのハードルが高い。一方で、この「狭小性」や「密集性」が法善寺横丁独特の雰囲気を醸し出し、古くから客を惹きつけてきたわけであるから、建築基準法を順守することにより失うものもまた大きい。

この問題は、法善寺横丁だけでの問題ではなく、阪神・淡路大震災で大火となった長田区などの繁華街の再建でも同様な論議を起こしていることは記憶に新しい。今回の再建にあたっては、1988年の建築基準法改正に盛り込まれた総合的設計制度の活用と、同法の建築協定か都市計画法の地区計画等による規制強化の組み合わせにより、狭隘路地の町並みが維持されることになったようであるが、総合的設計制度の対象となるのは、「安全上、防火上支障がない」ことが前提となっている。「安全上、防火上」の確保と「町並み保存」を両立させることは中々に難しい。しかし、たとえば欧米での店舗開発の最近の潮流である「ライフスタイルセンター」は地域コミュニティをSCの中に再現する様々な仕組みを取り入れている。このようにSC運営の重要な戦略として、「町並み」というものが意識されている点は、町並み再生・町並み保存の意義を示すものとして示唆に富む。

●残すしかない町並み−ミニ開発の現状−

われわれの周辺にあるミニ開発の建替えでは、歴史的な町並みと異なる問題がある。1960年〜1970年代の高度成長期から始まったミニ開発はインフレ、給与所得の上昇、住宅ロ−ンの整備拡充、税制面の優遇措置等による持ち家指向の需要に応える形でブームが続き、折りから住宅地価格の高騰の結果、都心部および周辺部で拡大した。しかし、初期に建てられたものは築年数が40年を超えるものが現れはじめ、建替えが進み始めている。

大阪市から通勤時間が約30分の距離にある門真市を例にとる。門真市は1960年代の高度経済成長期に若年労働者の受け皿として木造賃貸アパートやいわゆる文化住宅などが駅周辺に建築され、過密住宅問題を抱える都市である。この門真市では1970年代から現在に至るまで一反程度の農地開発によって形成されたミニ開発や、老朽化したアパート跡地へのミニ住宅建設が市内のいたるところに見られる。特に地価が高騰したバブル期は敷地面積が30u前後の3階建て住宅の密集開発が見られ、日照問題や圧迫感の増大という問題が発生している。

ところでミニ開発住宅建替えの最も深刻な問題は、建築基準法を違反している物件や、連棟式住宅という集合住宅としては法適格住宅でも単独物件としてみた場合建築違反住宅の建替えだ。このような場合、そろそろ建替えをと考えても法的に建築出来ないか、または建築が出来たとしても、従前住宅よりかなり小さい建物しか建てられなかったりする場合が多く、スラム化するか更なる狭小化へのスパイラルを辿ることになる。ミニ住宅の購入者は、この様な末路は知らずに購入しているがゆえに、建替え時期に顕在化することが多く事態を深刻化させている。ミニ住宅全ての所有者がテレビ番組の匠(「大改造!!劇的ビフォーアフター」)に出会えるわけではないのだ。

町並みを保存することは、快適性や収益性を確保するだけではなく、私たちの資産価値を守ることにも繋がるが、一方で不動産価格が昭和50年代の水準まで下がってきたという今、保存するにふさわしい資産かどうか資産選択の際に、慎重に考える意識も必要だといえる。


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