Biyoセンターの実験を終えて

(株)高環境エンジニアリング 中江研介

「環境」は、21世紀のキーワードのようにいわれています。もともと「環境」保全と「建築・土木」は、ほとんど相反する行為と思われます。「建築・土木」業界の「出来形と工期」の請負形式は、「規模とスピード」による効率化の上に成り立っていて、一部の技術を除いて、環境づくり、環境修復などの技術となじみにくい面があるようです。

私の会社名には「環境」の二文字が入っていますから、「環境」部門と「建築・土木」部門を橋渡しできないかとの希望をもって設立された・・・と思いたいものです。

環境技術を多少なりとも勉強しなくてはと試行錯誤や模索のなかで「バイオファン」という装置技術と出会いました。おもしろい水質浄化技術ですので、そのメカニズムと検証実験について紹介いたします。

1.バイオファンの水質浄化メカニズム

バイオファンとは、水面に浮かべた水掻き羽根をゆっくり回転させるだけで、(図-1)に示すように水に湧昇循環流を発生させ、しかも極めて小さいエネルギー(15〜50W)で大量の水(6〜20m3/分)を循環させるといいます、「重力」と「層流理論」を原理として物理学者によって考案され、当時、特許申請中でした。「大きいことは良いことだ」式の土木技術に馴れ親しんできた私には原理も理解できないし、信じられませんでしたが、「目から鱗」の心境で逆に新鮮な興味を覚えました。

このバイオファンの原理をなんとしても検証したく、平成14年度、(財)琵琶湖・淀川水質保全機構の実験公募に応募し運良く採択されました。

2.温度躍層防止実験(biyoセンター共同実験

ダム湖などの水質悪化は、夏季の「温度躍層」に主な原因があるといわれています。

文献によると、「一般にダム湖では、夏に向かう時期は湖水の表面が暖められて軽くなり、水の密度差からある深さまで水温の均一な層が形成される。この表水層と深水層との間に水温の急激に変化する層が発達し、この層は温度がジャンプするという意味から、夏季の『温度躍層』と呼ばれる。『温度躍層』より下の層では光が遮られ光合成は次第に減少し、バクテリヤの呼吸、有機物の分解等によって酸素が失われる。底泥が無酸素状態になると、栄養塩や金属類が酸素を失って水中に溶け出すなど水質悪化の原因となる」とあります。

ダム湖の深層水は無酸素化によって腐敗し、底泥から溶出する有害物質や冷水塊などの影響による水道水の黴臭、灌漑用水や河川漁業への被害が問題となっています。最近では、自然の土砂供給阻害による河川や湖沼沿岸部の侵食も指摘され、海外では既存のダムを撤去した例さえ出てきているようです。

2-1)アクリル水槽を用いた「温度躍層」防止実験

アクリル製の水槽(深さ60cm)を水深40mのダム湖に見立て、実験槽および対照槽(ブランク槽)を設けた。実験槽では縮小設計された模型の回転羽根を廻しながら、両槽ともヒーターにより人工的に「温度躍層」の生成を試みた。時間経過に伴う両槽の水温鉛直分布を(図-2)に示す。

実験槽における60分経過後の平均温度は、初期値の12℃からおよそ16℃に上昇した。180分〜210分経過して水温が22℃〜24℃になると模型羽根の循環による熱量の供給速度と外気温(9℃)によって冷やされる速度が均衡して、水面下-38cmの位置において成層し、定常状態に達した。

2ー2)ダム湖のシュミレーション

水槽実験における「定常状態」の水深から“κ”値を求め、この値を実規模のダム湖に用い、計算上のシミュレーションを行った。ダム湖の諸元は以下のように仮定した。

以上の結果は、水深34mのダム湖の水域10haを対象に、アーム長R=4.5m、出力1KWのバイオファン1基を春先の混合期に浮かべると、「湧昇循環流」が水を常時、34mのダム底から表面に導き「温度躍層」の発生を防止できる可能性を示している。

バイオファンの「湧昇循環流」理論は証明されたわけで、私は有頂天になり“温度躍層”問題に悩むダム管理者がこぞってバイオファンを採用するだろうと考えました。何故ならダム湖丸ごと「温度躍層」から守る方法は過去になかったからです。私は早速、国や自治体のダムを訪ね、「温度躍層」の防止効果を訴えましたが、驚いたことに誰も信じてくれませんでした。その理由は@そのような現象(湧昇流の発生)は信じ難い。A実験規模と実際規模が違いすぎるし、実際はもっと複雑。その他行政上の理由もあるようでしたが、ダム管理者が皆土木屋さんだと思うと変に納得しました。

ところがこの実験を評価して下さる方もいました。その方は淀川水系流域委員会委員長、京都大学名誉教授 芦田和男先生でした。「他の物質と違い『水には相似性』があり、規模の大小は問題ではない」と。私はこの芦田先生の評価に勇気づけられたのはいうまでもありません。しかし今回の実験で「環境」部門と「建築・土木」部門のマッチングは意外に難しい作業だと感じさせられました。
(この実験結果は、平成15年10月(財)琵琶湖・淀川水質保全機構10周年記念技術研究発表会で発表された一部です)


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