徳島県上勝町を訪問
〜15年度現地シンポジウム〜

フリーランスライター 大戸修二

地域デザイン研究会(平峯悠代表)の平成15年度現地シンポジウムが3月27日、28日の2日間、「住民・地域・行政が一体となったまちづくり」を合言葉にさまざまな取り組みを展開している徳島県上勝町で行われ、地デ研会員15人が参加した。27日に開かれた上勝町関係者との意見交換会で笠松和市上勝町長は、同町のまちづくりの考え方や活性化への取り組み、今後の課題について説明するとともに、「今後は農村と都市との連携、共生が欠かせない。その仕組みづくりに力を貸してほしい」と要請した。これに対し平峯悠代表は「上勝町は危機感を持って挑戦している。それに比べ大都市は危機感に乏しい。大阪のNPOとして情報交換を密にしていきたい」、また岩本康男副代表は「大阪のまちづくりに生かせるアイデアがあると思う。上勝町ブランドをぜひ発信してほしい」と語った。

上勝町は徳島市の南西40km、四国山脈の南東山地あり、総面積109km2、標高100m〜700mの間に大小55の集落が点在。全体の85.6%が山林で、そのうち83%が杉を主体とした人工林。町の人口は昭和30年の6,265人をピークに減少に転じ、平成12年時点で2,124人。高齢化率は44%で、過疎と高齢化が同時進行している。

少子高齢化による人材不足、森林や農地の荒廃、町財政の悪化、廃棄物による大気や水質の汚染、町内産業の衰退という課題に対し、同町では「これらを何とかしないと町の将来はない」と様々な分野からの取り組みをしている。笠松町長は「日本の施策には問題点が多い。例えば長期計画(総合計画)といってもせいぜい10年間。そんな短い単位でなく1,000年先までを目標に置かないといずれ右往左往してしまう」と語る。

様々な取り組みの中で注目される1つが「ゴミ分別への取り組み」。34種類分別を実施しており、町内に焼却炉を持たずに外部等への委託によりゴミ処理を行い、リサイクルと減量化に取り組んでいる。生ゴミについては各世帯に生ゴミ処理機またはコンポストを設置し、ほぼ100%近くの生ゴミが堆肥化されている。

ゴミの34分別や家庭用の生ゴミ処理機の普及により、平成10年に136tあった焼却ゴミが平成14年には60tと半減。逆に資源として再生されるゴミは165tから229トンに増え、再資源化率は79%になった。

こうしたことを踏まえ同町では昨年9月、2020年を目標に焼却や埋立処分されるゴミの排出をゼロにしようという全国初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った。

また、住民一人ひとりが問題意識を持ち、町の振興のための解決法を見出していく人材育成・実践活動「IQ塾」「IQ運動会」を展開している。IQ塾が個人に対して研修・意識改革を行うのに対し、IQ運動会は町内を5地域に分けグループにより疑問・課題を出し合い、解決に向け活動するもので、自発性を誘発することで「楽しくおもしろいまちづくり」につなげている。地域運動には補助金が支給される仕組みで、特徴を生かしたまちづくりが進みつつある。例えば道路周辺の杉の江戸打ち、道路案内板の設置、花づくりなどによって、町内の景観整備が着実に進んでいる。

安定した経済と雇用創出に向けて、第3セクターによる取り組みにも積極的だ。同町には、(株)上勝バイオ(しいたけのホダ木を製造)、(株)かみかついっきゅう(つきがた交流センター、月ヶ谷温泉村キャンプ場、スクールバスの運営管理)、(株)ウインズ(国土調査を主目的とした測量設計コンサルタント)、(株)もくさん(木材の伐採搬出から木材加工、住宅建設等一貫した木材産業会社)、(株)いろどり(農産物PR、販売に関する業務、産業情報等の取り扱い)の合わせて5つの株式会社があり、これら第3セクターによる新規雇用は約100人にのぼり、I・Uターン者を受け入れ、地域活性化を担っている。5社ともに同町にとっては「必要不可欠な存在」になっているという。

また、ごみゼロ運動に関連し、廃棄物を元にした新原料への技術開発や情報のコーディネートを行おうと新たな事業をスタートさせる計画で、今年にNPOを設立、全国展開を図る予定という。「良いときにこそ悪くなることも想定することが大切」(笠松町長)と常に危機感を認識している。

過疎化に伴う遊休施設の活用にも取り組んでいる。

福原地区にあった旧福原小学校(鉄筋コンクリート造3階建て延べ1,330m2)は、平成11年4月に正木地区の上勝東小学校に統合され、空き校舎となった。この空き校舎をまちの活性化に生かそうと、平成12年に町営住宅と貸事務所による複合施設へと改築した。2階、3階の町営住宅はI・Uターン者向けで1LDK8戸。1階は企業向け事務室5室を設けており、すでに入居を終え、空き教室の用途転換が軌道に乗っている。

そのほか、森林・農地の適正管理を目指した森林・農地適正管理プロジェクトや、構造改革特区活用による有償ボランティア輸送事業などにも取り組んでいる。

こうした様々な取り組みとおして、@定住人口増加の可能性が出てきた(I・Uターン者)A人材育成の重要性が認識されたB産業観光の可能性が出てきたC交流による人材ネットワーク・情報収集能力が向上したD職員や住民の一部に自身と誇りがでてきた―など成果が得られたという。

そして今後は、@I・Uターン、若者住宅の建設A人づくり教育B情報収集と活用C第3セクターの活用D国際社会への対応EリサイクルタウンF第1次産業の基盤整備=地球環境基盤整備への意識改革―を目標にまちづくりを進める考えでいる。

意見交換会では、上勝町側から「地域再生プロジェクトの中で地域通貨の導入を考えている。成功している他の市町村を紹介してほしい」「間伐材による柵を作っているが、都市のヒートアイランド防止に活用できないものか」などと要請があった。都市と農村との共生、その仕組みづくりのため、今後、地域デザイン研究会と同町とが環境、経済、まちづくりについて相互に情報交換していくことを確認しあった。

現地シンポジウム参加者は、平峯、柳田、岩本、鎌田、新島、道下、中出、中尾、山部、松島、小西、阪本、別府、岡村、大戸の15人


ごみの34種分別状況


役場の環境パトロールカー


空き校舎を複合施設に


棚田を見学する参加者


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