もっと水辺を楽しもう!
「river cafe SUNSET37」の試み

(株)環境整備センター 泉 英明

●はじめに

『まちにこんな空間がほしい。』『こうなったらもっとまちは魅力的になる』という提案はこれまでにたくさん行われ続けてきました。でもなかなか実現しません。そこで、私もワーキングメンバーの一員として参加しています都市大阪創生研究会(※)の「IKINA水辺」グループの7名は、大阪の水辺に注目し、もっと魅力的になる具体的提案を掲げ、何が壁になっているのか、どうすれば実現に近づくのか、そしてそれは社会に受け入れられるのか、法律や資金面も含めた具体的な検討を行いました。

(※)都市大阪創生研究会は平成10年大阪大学鳴海教授の呼びかけにより、市民的な支持を得ながら行政と民間のパートナーシップによって新しい時代に向けての都市のリノベーションを実現する目的で設立された会です。在阪企業約10社と大阪市、コンサルタントなどで構成されています。

そしてそれは実現しました・・・。

それが川の上に浮かぶカフェ『rivercafe SUNSET37』です。この企画は、大阪の水辺の魅力を創出する社会実験として、平成15年10月3日〜19日の約2週間、期間限定で大阪ドーム南の尻無川にて実施したものです。

 

私は、大学生時代のアルバイト先の店長の勧めで船舶免許を取り海で遊ばせてもらったこと、会社の事務所が大川の目の前でいつも水辺に接していたこと、知人の勧めでドラゴンボートのチームに所属していたこと、仲間とともに大川に手作りいかだを浮かべ花見をしていたことなど、幸運にも水辺に親しむ機会に恵まれていました。

そこでグループの仲間と出会いその想いがますます強くなり、今回の企画へとつながりました。

我々が生活するまち大阪を「行ってみたい大阪」にしたい、そのためには大阪のまちのど真ん中を悠々と流れ海までつながる「水辺」の財産を生かしたい、そして何より純粋に水の上に出たい!そのための装置を創ろうという想いからこの企画はスタートしました。

そして、一人でも多くの方に水辺の魅力を再認識していただくこと、地元団体と一体となった運営形式の試行を通じて、これからの水辺・公共空間の利活用の道筋を提案し、様々な水辺ビジネスの可能性を拡げること、そして我々の生活や心の中に失われかけている水辺を取り戻すことを目標に掲げました。

来街者の方々に水辺の雰囲気を楽しんでいただくため、川岸と水上に浮く台船を一体的に魅力ある空間に変貌させ、簡単な飲食ができるようカフェを営業しました。お昼の風、真っ赤な夕日、きれいな夜のイルミネーション、心地よい音楽を感じ、川の上に浮かぶ台船に揺られながらおいしく飲み物や食べ物をいただくのは本当に気持ちがいいものです!また、我々の水辺に対する想いが直接伝わるよう、企画段階から船や周辺の飾りつけ、カフェの運営、調理、接客などに至るまで、志を共にする仲間を募り、楽しみながら「手づくり」にこだわって運営しました。この社会実験の企画運営スタッフは全員ボランティア参加です。また、台船の調達や係留、台船の安全対策や飾りつけ、夜間照明、音響、電気工事、ミュージシャン、カフェ店員など、約130人の方々の協力に支えられ、はじめてこの企画は実現しました。現在は河川法などの制約により川の区域においては営業行為ができないこととなっていますが、我々の想いや本企画の趣旨を関係行政の方々と共有でき、全国的に非常に稀ですが期間限定で実施できる運びとなりました。企画から実現まで約6ヶ月、仲間とともに過ごした本当に大変で楽しかった時間をご紹介いたします。

●決心編(4月〜5月)

水上カフェをやろう!とはいっても、グループの7人は仕事や年齢も異なるサラリーマンで、また川、船、飲食店営業などはまったくの素人。そもそも川は使わせてもらえるのか、船はどこからなんぼくらいで借りられるのか、その係留方法は、安全対策はどうするのか、今までの検討でもなかなか見えてきません。まずは、何が必要か、それらの項目の優先順位などを確認するため、様々な関係者にお話を伺うことから始めました。特に川における数々の取組みをされており、遊び心豊かな山崎勇祐氏、伴一郎氏のお二人には、色々親身に相談にのっていただきました。

スタートしたのが4月。カフェというなら最も水辺を心地よく感じられる季節がいい。でも夏は川底のヘドロが臭うし台風の心配がある、冬は寒い。そのため、10月の初旬から中旬に実施することに決めました。時間の猶予はあと半年。河川管理者との協議を重ねる中で、われわれの企画に協力していただける可能性があることがわかり、本当にできるかもしれないという期待が湧いてきました。

●傷心編(6月)

実施場所については、水辺の魅力を感じてもらえる環境と、水辺へのアクセスと台船係留が可能な場所、地元の協力が得られるという3つの条件を満たすところを探していました。この企画の目的から、そのなかでも地元の協力が得られるということにこだわっていました。しかし、当初想定していました北浜の「ふれあいの岸辺」においては、自治会や周辺地権者などとの協議を重ねた結果、残念ながら協力を得られなかったため、この場所での実施は断念せざるを得なくなりました。これでふりだしに逆戻りです。メンバーも落胆の色が隠せませんでした。

●希望編(7〜8月)

とにかく実施場所を探さねばなりません。そこで大阪ドーム南側、尻無川右岸のスーパー堤防の場所が候補にあがります。この辺りは、前述の山崎氏が地元の方とともに川を生かした活動をされているエリアであり、協力が得られるとのこと。また、隣接する大阪ガスや大阪ドーム一帯の企業で構成される大阪ドームシティ開発協議会の協力も得ることができました。河川管理者も認めてくれそうです。普段は人通りの少ない場所なので少し不安でしたが、希望が出てきました。ただ、船を係留する設備がないためビットを岸に設置する必要がありましたが、通常の規格では1基数十万、台船を2台係留するので最低4基必要となり、事業費を圧迫し事業自体の成立が危うくなる問題が発生しました。

●資金難編(9月上旬)

どうせやるなら中途半端なものはしたくない、でも費用は最低限に抑えたい。期待していた都市再生モデル調査は落選、スポンサーのあても見つからない。よいものをつくるため色々な方々にすでに無理をお願いしているし、何とかしなきゃという焦りはある一方、もう一ヶ月前というのに事業ができるという確信はまだない状況でした。そこにビット設置を格安に抑える名案が浮上。高潮時や緊急時には別の場所に台船を移動する体制を整えることで、簡易かつ安価なビットの作成・設置が可能となりました。これで大まかな事業費が確定。赤字が出たら一定額まで研究会の支援をいただき、それ以上はメンバーの自己負担にしてでもやり遂げることを皆で確認しました。

●突進編(9月中旬〜10月3日)

あとは10月3日オープンに間に合わすように突進するのみ。河川や公園の一時使用・占用の手続き、港湾管理者や水上安全協会協議、営業許可手続き、メニュー・仕入れ材料・調理方法・厨房機器の確定、ビットやタラップの設置、店舗デザイン・工事、トイレ・ゴミ処理、夜間照明・音響機器・電気配線工事、広告宣伝、安全対策・警備、カフェスタッフやミュージシャン集め、シフト作成などをこなす日々。また、7人のうち1人は毎日現地に張ったテントに泊り込み夜間警備。それは準備期間後半からカフェ営業終了日まで続け、朝は現地から出社する暮らし。多くの方のご協力によりなんとか無事オープンに間に合いました。

●オープン!


昼間はゆったりいい景色を楽しめます


夜はライブ演奏もあり賑わいました


注文は公園側の店舗テントで受けます


フラメンコのパフォーマンスもあったり


犬のお客さまも常連に

船で来られるお客さんは注目の的

最初の日の昼間はまったくお客さんがなく、取材に来られた記者の方から「誰でもいいのでサクラを連れてきてください」と言われ、橋の上で「お茶ご馳走しますから座ってもらえますか?」と呼び込みをするハメに。しかし、その日の夜からは多くのお客さんに来ていただき、その後口コミやテレビ、新聞等で取り上げられ連日満員になり、延べ約3000人の方に大阪の水辺を楽しんでいただくことができました。犬の散歩がてらのおばさん、若いカップル、仕事帰りのサラリーマン、毎日夕食後に来られるご夫婦、子供づれのお母さん軍団、船で乗りつけるおじさんなど、色々な方にお越しいただきました。また、居合わせたお客さんがライブ演奏やダンスをしていただけるなど、結果的にほぼ毎日ライブが行われ、夜の音楽も非常に魅力的なものになりました。アンケートの結果からは、通りがかりと口コミによる来店が約6割と非常に高く、地元の西区・大正区の方が最も多い結果となり、水辺の心地よさを評価するご意見やカフェの継続を希望するご意見が多く、多くの水辺ファンを確保できました。

●おわりに

この企画を通じて、新しい水辺空間の魅力を発信し多くの水辺ファンをつくったこと、魅力的な都市空間は頑張れば市民自らの手で創れることを実際に証明したこと、水辺空間に関する仕組みや費用・市民と行政の協力方法などの具体的先例をつくったこと、などが実験の成果かなと感じています。また、経費の削減と来客者数の増大によって結果的には事業費のほぼすべてを営業収入でまかなうことができました。

この3〜4月の桜の時期に(財)大阪21世紀協会が天満橋の北詰でリバーサイドカフェ「SUITO21」を実施したり、その他団体が様々な取組みを行うなど大阪の水辺も楽しくなりそうです。しかし、最初に掲げた社会実験の目標は今回のリバーカフェの開催だけではまだまだ達成できませんので、これからも真面目な遊びを突き詰め、みんなでまちを遊ばせてもらいたいと思います。最後に今回の企画でお世話になった方からの一言です。「昔はこうした遊びがたくさんあった。

だから子供は大人になって知恵をはたらかせればあんなんできるんや、と早く大人になりたいと思った。だけど今は子供たちが大人になりたいと思わない。君たちにはかっこいい大人になってほしい。」とのこと。

少しでも近づけるようにがんばろっと。

(メイキングビデオを友人が作ってくれました。なかなかおもろいです!ご興味のある方は声をかけて下さい)


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