高齢者と地域

―地域益を守るための高齢者の役割―

地域デザイン研究会 代表 平峯 悠

新聞の声の欄に高齢者からの投書が多くなってきているが、内容についてはあまり感心しない。私の健康法とか食べ物への注意、身体に悪いことはやめる等を得意げに書き綴っているのを良く見かける。

これまでの日本を支えてきた人達だから健康に気をつけ長生きしてもらうことには何の問題もない。しかし高齢者は病気をせず健康であればよいのか。

各国で老人が大切にされるというのはそれだけの理由がある。一般的にいえば、年輪が醸し出すウイット、深い知識と生活の知恵、自分の体にしみついているその国の伝統や作法、歴史的な体験・経験、生き様の美しさ、しがらみから解き放たれた自由な発想と思想の表現等があるから尊敬されるのである(勿論そうでない人も多く見かけるが)。しかし戦後の経済優先、日本の伝統や歴史を置き去りにした教育やものの考えが蔓延している現在、高齢者またこれから高齢者の仲間入りをしようとしている人達が、尊敬される存在となれるのだろうか。

日本の高齢者対策は、健康維持や介護を始め仕事、趣味、学習、娯楽の充実を図り生きがいを持ってもらうために、行政や地域がサポートすると言うことのように理解され、高齢者もそれに甘え当然のこととしている。これにはとてつもないお金が必要となり、年金問題に見られるように若者の負担が耐え切れず、粗大ゴミとか早く死んだほうが良いというような意見さえ出てくる。進展する高齢化と長寿社会では高齢者はサービスを受ける存在というより、「節約」「工夫」などこれまでの日本の美徳を受け継いでいる高齢者の行動そのものが社会にとって有用となるという視点や枠組みで考えることが必要になる。

最近「国益」と言うことが議論されだした。お茶の水大の藤原正彦教授は、産経新聞「正論」で「通常、国益とは安全と繁栄と考えられている。しかしこのふたつの確保が全てに優先すると言うのならアメリカの51番目の州となるのが最善で、属国になるのが次善である。重要なのは“国益を守るに足る国家を作ること”である」とし、「日本の文化伝統の源泉である感受性や美しい自然や情緒、高い道徳など国としての品格を守ることこそが国益を守ることの本質である」と述べている。これと同様に「地域益」や「都市益」も存在する。関西をはじめ各地でも活性化が行政の標語となっているが、経済の活性化が中心であり、真剣に守り育てるに足る都市・地域を作るという議論や行動は一部に止まっている。

都市・地域益を守るには、永年地域で生活し活動してきた高齢者の役割は極めて重要である。その人達は日本の伝統や文化を教えられ、地域の自然や礼儀作法、身だしなみ、豊かな生き方、住居や建物、歩くことを含む交通、街に対する感受性やよさを見出す力を若い人より強く持っているはずであり、またそうでなければならない。目標を明確に出来ず、何でもありの現在の日本あるいは都市・地域を良くするためには、高齢者が自らが参画し、世の中に迎合しない意見を述べ行動することが必要である。市民・住民が参加するまちづくりの会合などでは、若い人も勿論いるが高齢者の参加が多い。また75歳くらいまでの前期高齢者の中には独自の活動をする人達が増えてきている。暇があるからだけではなく、世の中のために何かをしなければならないと考えている証左であろう。小さなことであっても高齢者であるから出来ることは多くある。

国際化が進展すればするほど、守り主張すべき自国の文化や考えを明確にしていかねばならない。これは世界の常識である。誇るに足る地域を造るためには高齢者始め多くの人達の力を結集しなければならないが、先ずは現在日本の作法・言葉遣い・身だしなみの乱れ、公共心や美的感覚の欠如、自国或いは地域の歴史や文化への薄っぺらな認識等を正し、世の中に警鐘を鳴らす、そういう投書や論が主流になり、それが全体の行動原理となることを望みたい。これは私自身にも言い聞かせていることである。


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