2005フォーラム「地域力と都市観光」
〜関西に訪れたくなる魅力はあるか〜

 NPO法人地域デザイン研究会主催の2005フォーラム「地域力と都市観光〜関西に訪れたくなる魅力はあるのか〜」が2月8日、大阪市立難波市民学習センターで開催され、市民や行政関係者、地デ研会員など約100人が参加した。成熟した市民社会では「住みやすさ」という内部評価だけでなく、外部の人から見ても魅力ある都市づくりが求められる。今回のフォーラムでは「観光」をキーワードに、「何が問題!大阪・関西の観光」と題した橋本伸也大阪市立大学大学院助教授の基調講演と、5名の出演者によるパネルディスカッションを展開、地域力の課題と都市観光の切り口から関西再生シナリオを探った。

(基調講演とパネルディスカッションの概略を掲載します。文責・大戸)

開会の挨拶

藤田健二(NPO法人地域デザイン研究会 副理事長)

 今回のフォーラムのテーマ「地域力と都市観光」について、若干の私見を述べさせて頂きます。「地域力」について私は、@地域交流力(Communication)A地域コミュニティー(Community)B地域への関与力(Commitment)−の“3つのC”(3C)が源泉、原点であると考えています。観光とは何か、私は「その国や地域の“風と光”を観ること」だと思います。本題の「都市観光」(アーバンツーリズム)とは、「都市の中心市街地(まちなか)が持つ生活文化を都市づくりに活かし、それを楽しむ身近な旅をいう」とされています。その意味では、住民と来訪者による相互交流・相互刺激による、その地域や都市の「生活文化」の再生と創出運動の展開が、都市と観光のあり方を決めるキーとなるはずです。そして、それを根底から支えるのが、その地域が持つポテンシャルとしての「地域力」であると考えます。都市観光の推進には、これまでの都市計画に留まらず、来訪者の視点に立つ「観光計画」との有機的な連携を超えた融合が重要であり、“地域力”を基本に据えた「生活丸ごと」の総合的視点からの理念や制度・仕組みや取り組みが求められます。今回のフォーラムでは、地域や都市観光を介して、さまざまな課題についても、何らかの手がかりや提案が頂ければと期待しております。

基調講演(要旨)
「何が問題?大阪・関西の観光」

 講師:橋爪紳也氏(大阪市立大学大学院助教授)

 人が楽しむ場所、遊ぶ場所はもっと真剣に考えるべきだというのが、私の長年の思いでした。まちづくりや地域計画をされている人たちの集まりである地域デザイン研究会が、「観光」をキーワードにフォーラムを開催すること自体に驚いています。

 ここ10年間、私がキーワードとしている1つが「集客都市」。この言葉には、お客様を「集める都市」とお客様が「集まる都市」の2つの意味があります。そこに定住している人たちだけが都市の担い手でなく、日々どこからか多くの人がさまざまな目的で訪れ、都市の活力を支えているわけで、都市や地域のデザインをするにはそれらの人たちのことも含めて考えるのが不可欠なのです。

 それを考え始めたきっかけの1つは、国立民族学博物館をつくられた梅棹忠夫先生と勉強会をし、そこで梅棹先生が話されたことが今でも心に残っています。大阪のことを考える際に、たとえ話なのですが、市内の土地や家屋など資産にかかる税金をすべて無くすことなできないものかと言われました。その代わり、大阪に入る人から税金を取るというのです。これは1つの考え方で、土地や住民から税を取るのでなく、まちに来る人、私はビジターと呼ぶようにしたのですが、いろんな目的で来てくれる人たちがまちの活力であり、彼らこそがまちを支えているのだということを地域計画論の中に入れるべきだと私は本心で思うようになりました。

 なぜそれを確信したのかというと、私は大阪市中央区の長堀橋で生まれ育ったが、ミナミの中心部に住んでいる人の感覚としては、住んでいる人はほとんどいない。しかし朝になると、心斎橋や難波の駅から通勤・通学の人が何万人も大量にあふれる。夕方には遊びにくる人、飲みに来る人たち何十万人もがまちにあふれ、終電になれば帰っていく。住んでいる人よりまちを使っている人、ビジターのほうがはるかに多い。これが都市の本質ではないかと感じたからです。

■都市型観光を本気でやるべき

 2001年に大阪府知事からの要請で設置した大阪観光推進宣言策定委員会に、私は副座長で関わり、大阪は都市型観光を本気でやるべきだと、観光を基幹産業として堂々と位置づけた「観光立都・大阪」宣言をつくりました。これは観光推進宣言でなく、観光業の振興にとどまらず、根底から考え直すべきだというものです。

 宣言文では「観光に関わる産業と文化をよりいっそう育み、国際交流に資することで、これまでにない都市の理想を示したいと考える。・・・・・・観光によって大阪が新たな都市の可能性を世界に示す覚悟であることを、個々に宣言する。」と高らかにうたっていて、観光を真剣に考えることで地域や都市を変えようという宣言です。私は観光について真剣に取り組むもとで、まちが本当に変わってしまうという思いを込めたのです。この宣言を受け観光協会など既存の組織が統合され、大阪観光コンベンション協会が発足。また、例えば大阪府には国際交流と観光部署が合併し観光交流課ができ、観光交流局へ向け準備が始まっているし、こうした流れを見てもグローバルスタンダードに近づいてきていることが分かると思います。

■プロモーションとして魅力をいかに見せるか

 私が考えている関西の観光の課題について思っていることを話します。最近、地域のブランディングとかソフトパワーとして地域の魅力を増そうと言われます。地域力はまさにそのことだと思います。観光という面から考えると、わがまちの魅力を発見するだけでは不十分で、どの地域に対しわがまちの姿を示すのか、プロモーションとしていかに地域力を見せるのかが重要なことです。例えば北海道は台湾に対して、北海道はアジアのヨーロッパとしてPRし、実際に観光客を呼び込むことができました。

 わが地域の魅力も複数あり、相手が求めているものに応じ、魅力的に見せるのが地域のプロモーションとして大切なことだと思います。これを本気で考え政策的に行ってきたのがシンガポールだろうと思います。70年代以降、シンガポールは観光も基幹産業の1つだと位置づけ、政府観光局をつくり世界中にシンガポールを売り出しました。まちづくりでは観光客が減った80年代に再開発の在り方を変え、超高層ビルを建てるタイプの従来のやり方を捨てて、チャイナタウンやインド人街では地域の文化的、伝統的な民族の建築デザインを残しながら再開発することにしました。


司会(石塚裕子)

■政策転換したシンガポール

 世界が同じような方向で再開発するようになる中で、がらっと方針転換したわけです。きたなく汚れていたまちだったが、ガーデンシティという、美しいまちだということをわざとキャッチコピーに出して中心部を修復型の再開発し、にぎやかに美しく変えたというのは、観光政策的にもおもしろい事例だと思います。シンガポール政府は、さらに方針を変えています。従来は日本や欧米を重点にプロモーション活動をしていましたが、最近はインドネシア、インド、中国に重点を移しだしています。

 もう1つは、柱とするテーマを見直し、医療のツーリズムを打ち出しています。これは整形美容のことで、プチ整形のニーズはアジア中にあるが、中国やインドネシアには技術者がいない。シンガポールで整形美容をしたら、ついでに数日間は滞在するし、友人も伴ってくるだろうということです。また、シンガポール周辺に対しリゾート開発などの投資をかなりしています。ある分野において都市が中心的役割を担うことをツーリズムの中で考えるのが、ブランディングの大事なところだと思います。それも地域力です。

 もう1つ、日本国中がいま「観光だ」「集客だ」と声をあげています。関西はどこと競合していて、どこと戦うべきかを考えるべきです。中国、韓国の旅輸局や大学では、観光に本気になって力を入れています。青海大学では韓国人の留学生数百人とか、観光専門家も受け入れると話していました。青海ではここ数年間で大きく変わり、数kmにおよぶビーチリゾート、コンドミニアム群ができました。ビーチリゾートといえば、大連も海南島も同様ですが、そのライバルに対して戦略を考え、実行しようとしています。

■メッカを目指す釜山

 地域力とはどこと競合していかなる分野のメッカを考えるかだと思います。大阪の関係でいえば釜山が競合相手の1つに上がりますが、釜山の国際映画祭はすでに10年になります。ハリウッド映画など世界の映画制作のロケ地を誘致することを決めるロケ協という組織がありますが、釜山が動いてアジアのネットワーク事務局になりました。

 私は釜山国際映画祭を立ち上げた人に話を聞きました。なぜ映画祭なのかというと、空洞化した中心市街地の映画館などがぼろぼろになっているので、そこを何とかしたいと映画祭を始めたそうです。ようは商店街を何とかしたいがゆえに映画祭を始めた。いまはシネコンになっていますが、前の通りは映画祭通りと名前を変えています。始めるにあたってヨーロッパの映画祭をすべてリサーチしたうえで、同じやり方でなく何に特化すべきかを考え、賞を出さない、アジアの映画に特化し、その時期にプサンに来たらアジア中の映画が観られるようにしました。

 それと同時にビジネスコンベンションをしていて、あるホテルでは映画の企画を持っている人と投資する人たちのビジネスミーティングをしています。映画で観光客を呼び込むだけでなく、同時に映画を産業として育成し、投資を集めるというビジネス的な動きを同時にしています。つまり、映画監督が売り込む場でもあるわけです。いくつもの政策を重ね合わせて独自の映画イベントを組み立てています。ライバルはどこかと私が聞いてみたら、シンガポールだと言いました。シンガポールはインド映画に投資しているから、釜山はそれ以外の中国市場を握ろうとしているようです。これは明らかに投資戦略ですね。釜山の場合、文化産業と観光集客産業とがうまくリンクして独自の産業政策になっている事例です。

■市民と協働で集客魅力づくりを

 市民とともに地域の集客魅力をつくることも重要なことです。事例としてあげられるのが米国・サンアントニオです。サンアントニオの文化芸術担当の人に話を聞いてみたら、例えば河川を使うためのさまざまなソフト(仕組み)があるということでした。1つは、市内を観光用ボートが就航していますが、コンペをして民間企業に運行権利を任せています。市は売上の5割をもらい、その金を船着場や停泊所の整備費用にあてる。ハード整備の費用を運営会社から徴収するのが合理的だと話していました。

 もう1つは、NPOに河川でのイベントの調整権利を渡しています。日本では管理という発想が従来からありますが、使いこなすという発想が重要だと思います。公共空間をより多くの人たちに使っていただくために、ある部分を民間に渡していけば、市民と一緒にやっていける余地がもっと生まれると思います。土木で言えばアドプトプログラムをもっと展開すべきで、集客に関するアドプトがあってもよいと思います。

■地域独自の判断が欠かせない

 いろいろ話してきましたが、ようは「観光でも」というような次元の話をしている場合ではありません。わが地域の魅力を考えて地域が独自に判断し、外の誰かに伝えていくのは当たり前。そのように考え方が根底から変わらなければいけないと思います。観光を1つの産業分野に封じ込めるのではなく、このまちは本当にいいところだと地域の誰もが思っているという状況を、いかにつくるかだと思います。

 大切なことは対外的に「あこがれ」をつくるブランディングであり、2つめは文化産業という考え方です。3つめは多くの人が観光にかかわるまちづくりに対し、加わっていく仕組みづくりです。景観法ができたのだから、これを観光集客に使えるかどうか大事なことだと思います。今回の景観法では、美観というものを地域で考え、固有の景観をつくろうというのが概念だと思いますし、景観法が大きな転機になると思います。

 いろんなことを申しましたが、@ブランドづくりA文化と産業の連関づくりB地域の美観を考え直すには今が転機−この3点を強調したいということで基調講演を締めさせていただきたいと思います。


パネルディスカッション(要旨)

■コーディネータ

  • 橋爪紳也氏
    大阪市立大学大学院文学研究科助教授(アジア都市文化学専攻)

■パネリスト

  • 鈴木 勝氏
    大阪明浄大学観光学部教授(国際ツーリズム振興論)

  • 高木美千子氏
    旅行作家/エッセイスト

  • 村上和子氏
    NPO法人神戸グランドアンカー理事長

  • 平峯 悠
    NPO法人地域デザイン研究会理事長


左から、橋爪紳也氏、鈴木 勝氏、村上和子氏、高木美千子氏、平峯 悠

橋爪

 本日のキーワードは「地域力と都市観光」で、都市にこだわるのが論点かと思います。特に関西が魅力あるのかどうかについて、パネラーの方々のご意見をお聞きしたい。まず自己紹介を含めて一言ずつお話しください。

鈴木

 私は4年程前から日本の大学では初という観光学部で、教授として「観光マーケティング論」「国際ツーリズム」「国際観光論」を教えております。それ以前は旅行業に33年ほど従事し、日本を除く海外の観光振興のお手伝いをしてきました。テーマの「都市観光」という面からは、日本の都市、海外の都市を渡り歩いてきました。国内では京都に7年、大阪に5年、東京に20年、海外ではシドニーに5年、北京に4年。退職までの10年間はパッケージ旅行の企画をつくっていて、限られた1ページの中でこの国をどのように発表したら日本人がひき付けられるのかを考えていました。海外の訪問歴20回以上の都市は、上海、香港、シンガポール、クアラルンプール、ニュージーランドの各都市。その中で心待ちにするようなフィットする言葉、ブランディング、何を売り出したら一番よいのかについて取り組んできました。日本人の海外旅行者は年間1600万人にのぼりますが、その尖兵としてやってきました。日本を何とか世界に打ち出そうと、このような場にも時々出演させてもらっていますが、メインは海外の小都市、特にアセアンの国々や、極東ロシアの観光専門家達のチーフコーディネーター役としてお手伝いさせていただいています。平成15年にビジットジャパン・キャンペーンが発表され、訪日外国人を誘致するという機運が盛んになりました。それも確かに大事ですが、日本からも同時に海外へ行くこと、2ウェイが大切です。2010年には訪日外国人1000万人、その頃には日本からの海外訪問者2000万人、両方あわせて3000万人が日本を往復するわけですが、同じような人数が行き交うようになるのが「観光立国日本」の理想形だと思います。「関西に魅力はあるのか」と問われれば、十分に魅力があるものの、方法論において世界の目が向いてきていないのが現状だと思います。

村上

 私は神戸でメディア関係に長く携わり、取材や番組をつくっていく中で、人や話題などを素敵に伝えていきたいと取り組んできました。そうした中で、このまちはこんなふうにしたらさらに良くなる、連携したらもっと発展するとか、いらぬおせっかいをしてきた関係から、仕事を地域とともに進めたいと考えています。神戸の人たちは震災で精神的なダメージを受けています。震災から10年が経過し、ひところの神戸のイメージが変わってしまっています。世界第4位の貿易港だった神戸港が、今は日本の中で第4位。国際貿易港、国際観光都市と言われた神戸が、このままだと、1地方の個性のないまちになってしまいます。神戸は港を生かしてもっとアピールできるのではないかと感じ、観光集客という目線の中でNPOの神戸グランドアンカーを立ち上げました。アンカーは錨のことです。このまちにはグランドデザインがない、演出がない、プロデューサーが不在という状況の中で、私達のNPOはそれに関わっていくことにしています。

橋爪

 震災前までの神戸は、ブランドづくりの面では日本の最先端だったと思います。観光面は盛り返してきているように見えますが、それは日帰り温泉地で日本第1位の有馬温泉が神戸市に位置しているからで、神戸の中心部の観光客はどんどん減っているようです。データはよく注意して見る必要があります。

村上

 観光客が戻っているというのは、ルミナリエ観光のことだと思います。ルミナリエの期間中、14日間で昨年は530万人、1日平均38万5,000人。この数字の扱いが私たちの大きな問題にもなっています。

高木

 私は東京で生まれ、育ち、広告代理店でコピーライターの仕事をしながら、東京のど真ん中で忙しく飛び回っていましたが、東京は人間が住むところではないと感じるうちに、関西の魅力にとり付かれてしまいました。旅人のつもりがいつのまにか関西生活30周年を迎えてしまいました。1974年に京都に来て以来、日本の素晴らしさはやはり関西にあると引き出しづくりに励んでいたところ、大阪から仕事の依頼があり、南海電車で高野山に行く機会がありました。その時から大阪の私鉄のすごさを知り、関西から離れなくなりました。大阪に住むようになってから、京都にいた時に訪ねてきてくれた東京の友人たちが、訪ねてこなくなってしまいました。なぜなのか不思議でなりませんでした。最近、北区に転居しましたが、天神橋商店街があり、住まいのミュージアムという船場の昔の暮らしを実感できるような施設、さらに蕪村の生誕の地も近くにあって、発見・発見の連続で大阪のおもしろさ、素晴らしさを実感しています。北摂や河内の山並みも素晴らしく、私はいま、ウォーキングの旅を企画し皆さんをお連れしています。しかし、東京から関西に旅行に来る人たちは京都から神戸に回ってしまい、なぜか大阪に来てくれない。そんな中で、「大阪再発見の旅」(角川書店)という本を書かせてもらいました。関西以外の人たちにぜひ読んでほしいと思っています。

平峯

 ずっと昔の話になりますが、大阪市長だった関一(せき・はじめ)さんは、ものすごく勉強された人で、自分自身で哲学を持ち、まちをつくり変えようとしました。先日の毎日新聞の紙面にも関一さんのことが紹介されていたのですが、「都市の誇りとするところは、市民の福祉を増進すべき施設を整え、一国文化の進展と経済の振興に対し最高の機能を発揮するにあり」と書いてある。戦前の日本は各都市がものすごく競争をしたのです。競争の原理は、美しくなりたい、偉大な都市になりたい、品格のある都市にしたい。それらを重点にした遺産が今の時代に残っているのです。ところが最近、偉大、威厳、上品などの言葉が使われなくなり、都市に寄って来るべしという哲学が失われてしまった。まちを良くするためのキーワードを「観光」とするのはよいとしても、大阪を国際集客都市にするのならはっきりしたポリシーをもって、市民全体で取り組んでいくことを明確にしないと、大阪の良さが出てこないと思います。十数年前の京都のまちは悪くなっていました。まちなみが悪い、感じが悪い、何でもありで、まちがどんどん悪くなっていた。それが最近になって立ち直りつつあるのは、京都の経済人など優れた人材たちがまちをどうしたらよいのかを考え、企画し、実行するようになったからです。もう1つ、例えば枚方や堺、岸和田、芦屋、尼崎などは都市観光とどう結びつくのかの問いに、答えはあるのでしょうか。私は「ある」と思います。成功事例ではドイツのフライブルグ、アメリカのチャタヌガ、関西なら長浜市などがそうです。寄って来るべき所の都市、それと各都市の常住者の関係から「観光」が語られるべきだと思います。

橋爪

 関西の魅力、その中身をお聞きします。

鈴木

 京都、大阪、神戸、奈良にしろ、それぞれに魅力はあるのに、海外に対し十分な発信をしていないのではないでしょうか。私は海外の都市に行ったとき、必ず本屋に立ち寄ります。海外のまちの本屋で佇めば、そのまちの観光が光っているかどうかが分かります。また、そこには中国を紹介する本がたくさん並んでいるのに、日本の観光ガイドブックはほとんどありません。まずは、海外で日本の都市が理解されていないことが残念ですね。海外の本屋では日本自体に光が当たっていない気がするし、関西にはさらに光が足らないのではないでしょうか。

平峯

 ガイドブックの作り手が誰なのかも問題ですね。

鈴木

 海外からの観光客が日本の都市の魅力を感じ、帰国後にその魅力をガイドブックに書いてもらう。外国人に大阪、関西の良さを紹介してもらうことが重要だと思います。

橋爪

 海外のガイドブックで大阪のところを見ると、情報自体が古い。最新の情報を出版社や取材者に届けることも大切ですね。その面から見ても、橋本さんが関わっているNPO神戸グランドワーカーの活動などは大切なことだと思います。

村上

 ビジターを国内の人と海外の人に整理して、観光をとらえる必要があります。日本の中でも国内旅行者が圧倒的な数ですし、この人たちのことを無視できません。修学旅行で行ったような名称・旧跡という以前の観光地には、再びは訪れず、違うところに行こうとこだわりの旅をする人たちが増えています。小さなまちであっても、私が見つけたという満足感です。1万人規模の小さな都市でさえ、観光客を迎え入れてまちが大きく変わってきています。日常の暮らしの中では当たり前だった地域の文化を、メディアにきちんと載せて、エレガントに力強く、魅力的に情報を送り出したまちには、多くの観光客を迎えられる形になっています。日本人に対して関西の3都市は、以前からの当たり前の情報しか届けてなくて、関西に行きたいと思う気持ちにさせていないのではないでしょうか。だから、国内に対しても対策を練れば、掘り起こしの観光客をもっと迎え入れることができると思います。また、神戸と大阪とは30kmしか離れていませんが、神戸圏、阪神圏、大阪圏というように、それぞれの個性をアピールしていきたいと考えています。NPOは雨後のたけのこのような数にのぼりますが、情熱と民度があり、地域のよく分かった人材を使ったNPOをぜひ理解し、支援・育成してほしいと思います。これこそが行政改革ではないでしょうか。東アジアからの観光客を関西に呼び込むためには、こうした地域力が欠かせません。最近、男の人たちに元気がないため、地域力は女性の力をいかに生かすかにかかっているような気もします。若者だけに任せると、やる気やエネルギーがあって形はできるとしても文化の伝承が途絶えてしまいます。やはり、まちに培われたDNAを自分たちのものにしたうえで、新しい文化の情報発信の中に若者の力を生かす。これから相手にするのは世界であり、東アジアの人たちに対処していくことを根底に踏まえて、私たちは言うだけでなく、実践を重ねていきたいと思います。

橋爪

 コミュニティから観光をとらえることも大切なことですね。小さな輪がたくさんあって、それが全体の意識を変えていくことにつながっていくわけで、NPOの力は今後さらに重要さを増してくると思います。

高木

 大阪になぜ来てくれないのかを考えているときに、先日の日経新聞に「訪ねてみたい商店街」の調査結果が出ていました。天神橋筋商店街が何位に入っているかと見入ったら、10位までに大阪の商店街はどこも載っていませんでした。東京の人に言わせると、大阪の人は俺たちが日本一だと威張っているそうです。そう言われるのはなぜだろうと考えることも大切なことです。台湾の観光客を呼び込もうと九州・宮崎県に大きな施設をつくって大失敗しました。雪のない国の人は九州に来ず、北海道に行ってしまいました。欧米の観光客には京都や奈良が人気ですが、遺跡を持っている中国、韓国の人たちを京都や奈良に案内していいものかどうか、そうしたことも観光客誘致のセグメントとして考えるべきだと思います。また、大阪、京都、神戸は時間距離30分しか離れていないのに、お互いが悪口を言い合うのは良くないですね。観光、集客力を考えるうえでは、関西州と捉えて仲良く何かをできないものかと思います。

平峯

 古いものでいいものはたくさんあるはずです。それを現代的な視点から発掘し、新たに創造していくことが大切なことだと思います。フライブルグでは環境をテーマにまちをつくり変えようとしています。古いものだけを掘り起こすだけが観光でもない。地域力とはコミュニケーションをはじめとした総合力です。例えば長浜市のまちづくりでは、そこに住む住民一人一人が何か新しいものをつくっていこうと始まり、いろんなことが組み合わされていって、今ではいろんな人たちが住みついています。そういう所が都市観光の手本になると考えるなら、学ぶべきところはしっかり学ばなければなりません。大阪で例えば枚方市は、市民ネットワーク会議が広がりを見せています。これには観光的要素があります。福知山市は明智光秀の城下町ですが、行ってみたら何もない。役所がやっているのは城の修復と、その隣に美術館をつくっただけ。それが都市観光と思っていること自体が問題で、考え方の基本を見直すべきだと思います。

村上

 ただ新しいものをつくれば良いというのでなく、過去・現在・未来の流れの中で、過去の知恵を今に生かすことは大切で、今風にいかにアレンジしていくかですね。

橋爪

 会場の皆さんから頂いた質問表の中から、カジノと観光との関係についての質問があります。  村上 神戸のポートアイランドをカジノにしようという声が以前にありました。世界の国の中で日本のようにカジノのない国はほとんどありません。観光客はお金を使う場所がないと、欲求不満になってしまいます。許せる範囲の掛け金で遊べるようなカジノがあってもよいと私は思います。

鈴木

 一昨日、学生を伴ってシドニーに新たにできたカジノに行ってきました。関西空港をゲートウェイに世界中から観光客がやってくるとしたら、りんくうタウンにカジノがあってもよいと私は思います。世界の流れを入れるシステムとして、カジノを研究すべきだと思います。アジア、日本、欧米をミックスした洗練された形にするなら成功するのではないでしょうか。

高木

 大阪はオリンピック誘致に取り組んだ経緯があるし、その候補地はあるような気がします。韓国・済州島は東洋のハワイを目指していて、日本からの旅行客もカジノで楽しんで帰ってきます。ある意味で政策的に考えることは良いことだと思います。

橋爪

 次の質問ですが、年間5億円を渡すから大阪を訪れる人の数を増やしてほしいと頼まれたとしたら、何をしますか?

鈴木

 観光は同時進行型にさまざまな取り組みが必要ですが、その中では航空政策ですね。5億円を用意できるなら、海外からの日本に来るスケジュルールの中に関西空港の利用を入れたら、補填金、補助金を出すことが身近にできることかもしれません。

村上

 大阪のキャッチフレーズを整理してみてください。大阪は水の都ですから、もとそれを強調して、川下りを徹底するのもよいのではと思います。

高木

 水都のことは大阪市も考えていて、15の船着場をつくる予定です。熊野古道が世界遺産として脚光を浴びていますが、そのスタート地点が天満橋のたもと。だから大阪市内を流れる川をもっときれいにし、水都にふさわしい船着場をつくって遊覧船を就航させる。私も水都大阪には大賛成です。

平峯

 もしも5億円を使うなら、企業でもNPOでも住民でもいいからその一部を使ってくださいと話を持っていけば、いろんな知恵が出てくると思います。今までは行政側が誰か特定のところに頼んでやってもらおうとしていたから間違うのです。

高木

 川をきれいにするだけでなく、大阪では山も荒れ、交野の山には竹がはびこり見苦しくなっています。そのお金を里山整備にも使っていただきたいと思います。

橋爪

 もう1つの質問は、世界文化遺産となった吉野・熊野を関西全体としてどう取り組んだらいいのでしょうか?

平峯

 熊野信仰というのは、昔から関西の持っている宗教のいわば原点だからです。世界文化遺産になったから急にというのでなく、私たちは大阪を含めた関西の歴史・文化をもっと教え、学ぶ必要があると思います。私たちは最近、歴史に対する関心を失ってしまったのではないでしょうか。歴史といっても弥生時代の大昔に飛んでしまわないで、今から少し前の大正、明治の文化、江戸の文化、戦国時代の文化とは何だったのかを徹底的に教育することが必要だと思います。

鈴木

 世界文化遺産について、海外からの旅行者にガイドとして語る人がいません。エジプトでは、ピラミッドを中国人の団体旅行者に中国語で説明していました。オーストラリアのカガドゥ国立公園では地元のレインジャーが克明に説明してくれました。 吉野・熊野が世界文化遺産となった今、そこまで克明に説明できるようなガイド教育、インタープリテーター、レインジャーの組織が日本ではできていないと思います。

高木

 10年ほど前に熊野古道を取材したときには、語り部の養成をしていたはずですが、それは日本語だけだったのでしょうかね。

橋爪

 最後にパネラーの方々に一言ずつ話していただきたいと思います。

鈴木

 私は以前まで、日本人を海外に行ってもらうことがアクティブ(能動的)なことだと思っていましが、最近は外国の人たちを迎え入れることのほうが、よりアクティブだと思うようになりました。

村上

 神戸は震災を境に人口が減っていたのですが、昨年11月を境に人口が増えだしています。港周辺にも多くの高層マンションが建ち、そこに神戸以外からの熟年層の人たちが買って住むようになってきました。神戸の人口の4分の1が、ここ10年で生まれた子供たちと他地域から移り住んだ人たちです。こだわりを持って神戸に移ってきた人たちは、新たな交流人口を呼びます。震災以降に神戸が切り口にしたのは、医療産業都市への転換です。新しい医療産業ゾーンの地区に現在60社の医療関係企業が入っています。600社にするのが目標だそうです。都市では他にない魅力のものを今の時代にあったテーストで送り出すこと、それが都市型の観光集客力にもつながると思います。

高木

 以前の大阪には粋(すい)という文化があり、かつて私は感動したことがありました。素晴らしい文化が失われ、最近はタコ焼やお好み焼だけがPRされ過ぎています。山や川など自然を美しくよみがえらせて、住む人たちがいいまちをつくり、歩きたい道をつくっていくこと、それが人を呼び込むことにつながると思います。大阪ではもっと緑を多くして、歩きたいまちにしてほしいと願っています。


閉会の挨拶(新島健士)

平峯

 今回のパネルディスカッションで出たような提案を誰が推進するかと言えば、やはり首長が音頭をとるべき。その場合に仕組みをつくる必要があります。1つは首長のもとに専門家を集め、着実にチェックして進めるべき。もう1つは、情報発信という面からもマスコミが重要な役割を担っていると思います。

橋爪

 私が冒頭に言いたかったことですが、「観光しか」や「観光でも」という「でもしか」であってはならないと思います。観光について考えること自体で、従来の地域やまちづくりになかったものを見つけられるきっかけになります。外から人が来ることを想定して、わが地域をどうしたいのかが考えられるわけです。


出演者プロフィール

基調講演/

パネリスト

橋爪 紳也

大阪市立大学大学院

文学研究科助教授

(アジア都市文化学専攻)

1960年大阪市生まれ、1986年京都大学大学院修士課程修了(建築学専攻)1990年大阪大学大学院博士課程修了(環境工学専攻)、同年京都精華大学文学部専任講師、1995年同大学助教授、1999年大阪市立大学文学部助教授、2001年同大学大学院文学研究科アジア都市文化学専攻助教授、現在に至る。現在、イベント学会副会長、()日本ディスプレイ業連合会理事ほか公職多数兼務。著書は「集客都市」「飛行機と想像力」「モダン都市の誕生」「日本の遊園地」「祝祭の帝国」「大阪力事典」(監修)ほか多数。

パネリスト

鈴木

大阪明浄大学

観光学部教授

(国際ツーリズム振興論)

1945年千葉県生まれ。1967年早稲田大学商学部卒業、同年JTB入社。19811986JTBシドニー支店次長。19891993JTB北京事務所長。JTBアジア・取締役日本支社長など歴任し、20003JTB退社。20004月大阪明浄大学観光学部助教授。20024月同大教授、現在に至る。日本観光学会、日本観光ホスピタリティ教育学会、APTA(アジア太平洋観光学会などに所属。神戸大学経済研究所研究員など公職を務める。著書は「国際ツーリズム振興論」「55歳から大学教授になる法」など多数。

パネリスト

美千子

旅行作家/

エッセイスト

東京港区生まれ、大森育ち。コピーライターとして広告代理店に勤務の後、1965年消費生活研究会を設立、生活評論家として「だまされない王様−豊かな商品知識」を出版。1974年京都、1982年に大阪に移住し、ホテル、デパートなどのPR誌、その他の媒体にエッセイを執筆。大阪を拠点に日本各地の歴史街道をウォーキング、歩く視点での旅を執筆中。また、世界各地の世界遺産巡りの旅も回を重ねる。著書「いざというときに役に立つ接待グルメマップ」「大阪再発見の旅−摂河泉・歴史のふるさとをゆく」など多数。

パネリスト

村上 和子

NPO法人神戸グランドアンカー理事長

神戸市中央区在住。武庫川女子大学卒業。元サンテレビプロデューサー。「現代食文化研究所」主宰、()神戸商館代表取締役、関西国際大学講師、神戸市都市景観審議会委員長など務める。NPO法人神戸グランドアンカーを2004120日に設立。国土交通省等の支援で「第1回KOBE港の絵大賞」を実施。全国都市再生モデル調査として、「みなと神戸・ポートルネッサンス〜次世代のみなととまちづくりへの検討調査」実施。地域の特性を活かした多くのまちづくりを手がけ、コンセプトの提案とともにその指揮にあたっている。

パネリスト

平峯

NPO法人地域デザイン研究会理事長

1938京都生まれ。1964年、京都大学大学院を修了、大阪府に入庁。土木部で都市計画に従事し、土木部総合計画課長、技監、土木部長を歴任。阪神高速道路公団理事、大阪高速鉄道()社長を経て、現在鹿島建設()関西支店顧問。日本都市計画学会副会長、土木学会本部理事のほか、「これからの社会資本整備に関する調査研究」委員長などを歴任。1989年泰山塾(現在の地域デザイン研究会)創立以来代表をつとめる。20001017NPO法人地域デザイン研究会設立、理事長に就任。


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