「コケ緑化で都市に風を」

原論分科会 ひさびさに開催

 原論分科会 道下弘子

 地域デザイン研究会原論分科会は9月7日、大阪府立大学大学院の村瀬治比古教授(生命環境科学研究科植物感性工学研究室)を講師に招いて、「コケによる建物緑化と環境技術におけるバスオマス利用の可能性」をテーマに開催、15人が参加しました。

この分科会は1年半ぶりの開催で、今回から立命館大学の建山和由教授を副座長に迎え、まちづくりに活用できる環境技術についてより深く考えていく体制としました。村瀬教授の講演内容は次のとおり。

◎植物で潜熱し、熱のドームをできにくく

 ヒートアイランドは大都市の問題で、地表面の温度が堺市街で48度を記録したとき、仁徳陵では31度と大差だった。都市は太陽放射の反射率が低く、風がないと都市全体を覆うようなドームができ、風交換・熱交換が妨げられる。このドームが境界層で、太陽放射があると熱は地中に伝導され、ほとんどのアスファルト・コンクリートは顕熱になる。植物があると顕熱が小さく、潜熱が大きくなり、反射熱も大きくなる。建物の場合は内部に熱が入ってくるが、植物が屋根にあると反射熱が大きくなり、熱は妨げられる。

[潜熱] 固体から液体、液体から気体、固体から気体、あるいはその逆の変化の際には熱量を吸収あるいは放出する。この相変化のため吸熱あるいは放熱して、温度変化となって現れない熱を潜熱と呼ぶ(融解熱蒸発熱、昇華熱、凝固熱、凝縮熱など)。

[顕熱]  相の変化のない場合、加熱・冷却した熱はそれに比例して温度計の目盛が上下するので顕熱(感じとることのできる熱)といわれる。

◎建物緑化―デザイン、環境の両面重視へ

世界の緑化感の流れを見ると、当初はデザイン重視で環境という意識はなく、建物のシンボルや見せたくない物を隠すために建物緑化があった。次第に環境という要素が考えられるようになり、デザインと環境の両面が重視されるようになった。そして今日では単純に環境が目的とされるようになってきた。リヨン市電の軌道敷の緑化、シンガポールでは街のガーデン化によって気温が下がった。高層ビルの屋上緑化は進んではいるが、表面積が大きいので屋上だけでは実行緑被率が低い。

◎土不要、軽量、メンテ不要の「コケ」に注目

屋上緑化にはビオトープ型(東京ガスエネルギー館)、立体型(なんばパークス)、平面型(伊丹空港)の3つがある。ビオトープ型は上加重・イニシャルコスト・メンテナンスともに大きく、平米あたり400〜500キログラムの加重がかかる。平面型でも平米あたり10〜80キログラム。そこでコケに注目した。コケは土が不要で軽く、メンテナンスも要らない。湿潤な条件のもとで常緑だが、無冠水でも色は茶色くなるが生存できる。

◎スナゴケの生育・培養方法を開発

コケによる緑化は以前から考えられていたが、生育が極めてゆっくりで、広大な圃場が必要、産地が限られる、生産が不安定、単価が高い、品質が不揃いなどのデメリット要素がコケ緑化を阻んでいた。そこで、自分は通常3年かかる生育期間を短縮して1カ月で成長させることができるスナゴケの生育・培養方法を開発した。春と秋だけ成長するという特徴を利用して、人工環境下で育成するので、広大な圃場も必要ない。

スナゴケが量産できると、コケ瓦、コケ壁、断熱材つきコケ基盤など、用途は多様だ。すでに東京・青山のプラタビル、元麻布のフォレストタワーなどでコケ緑化が実践されているし、スリーエムはコケ専用の接着剤を開発中だ。竹中工務店は平米あたり7万円で散水装置付き(工事費込み)の外壁材として施工している。

◎水を与えると、すぐに温度が下がる

スナゴケの光合成測定システムがなかったので現在実験中だが、重さあたりのCO2固定比較では他の植物よりはるかに大きい。また、コケは水に対する反応が早く、水を与えるとすぐに温度が下がる。

コケ緑化は一部の建物だけでなく地区全体で利用して水量などをコントロールすると、都市に風(Green Wind)を吹かせることもできる(アクティブ緑化)。


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