瓦素材を用いた環境アートによる参加型広場づくりの検証
一南淡路市の慶野松原を事例として−

アトリエK 伊藤可奈子

 淡路景観園芸学校の「まちづくりガーデナー養成講座」を受講したことがきっかけで、景観学校の林まゆみ先生には何かと声をかけていただいているが、「瓦を活かしたまちづくり協議会」の活動のお手伝いも林先生からの声がかりだった。 地場産業であるいぶし瓦を使って、何か「まちを活性化」することはできないだろうか…。きっかけは景観学校の学生の卒業研究テーマになったこと。この地区の瓦工場群の景観が「若者の感性」を刺激したことだった。中にいると分からない日常の風景の素晴らしさ。ここが活動の原点になり、驚異的なスピードで瓦の広場が完成した。その活動について検証したレポートを紹介する。

 OAGN=アルファグリーンネット(淡路景観学校の卒業生でつくるNPO)
 ○林まゆみ 兵庫県立淡路景観園芸学校教員・兵庫県立大学助教授

 近年、地域環境改善の市民が参加する活動の中で、公園づくりや地域マップづくり等さまざまな取り組みが報告されているが、地域の磁場産業である瓦を用いての特殊な領域においてのまちづくり、環境改善活動における検証例はほとんど見られない。そのため、本研究では、住民による発意から広場づくりまでのプロセスを検証し、どのように多様な人材が関わったかを詳細に検証することにより、このようなアートという特殊な事例においても地域住民と行政が共に参画し、自らの選択による緑豊かなまちづくりの計画と活動をどのようにすれば効果的であるかを考察した。

研究の方法とその結果>


瓦の広場

 まず、参加型広場づくりの住民発意へのプロセス・広場づくりのプロセスとその検証を行い、ワークショップ(以下WSとする)等での意見やアンケート結果をKJ法で分類整理し傾向を分析した。人材・所属する組織・各人の役割・途中段階における参加氏の意見、活動後のアンケート等による意見の分析等を通じて、この活動における地域環境改善の位置づけや参加者の役割、活発な継続性をもたらすための提案を導いた。

<住民発意のプロセス>

 対象地は淡路島の南、旧西淡町の慶野松原を中心とする地域で、この地区は良質の粘土採掘に支えられ、伝統産業品「淡路瓦」の生産地として有名であるが、1995年の阪神・淡路大震災で瓦屋根の住宅が倒壊。それがあたかも瓦が原因であるかのようなマイナスイメージが手伝ってか、少なからず需要が減少し停滞気昧になっていた。大量で安価という他地域にも押されたりして、産業構造の改革も大きな課題となっている。これら地場産業の活性化と地域の環境改善活動は、震災後の市民活動の活発化と共に地元住民の間で大きな課題として認識されてきた。

 兵庫県立淡路景観園芸学校(以下アルファとする)では、平成11年からこの瓦産業の活性化を支援する研究を進めており、園芸資材への活用提案のコンペティション開催や、専門課程での景観園芸演習フィールドとして瓦工場群を対象にした地域活性化の環境づくり一等を課題としてきた。学生による卒業制作課題として「瓦工場群パーク化構想」が2年にわたり取り上げられるとともに、(特)アルファグリーンネット南淡路支部、淡路県民局、西淡町の協力によって地元での発表という機会も得た。発表後、参加者全員が実際にまちあるきをし、意見交換をしたことで「瓦広場づくり」への意欲が高まった。その結果、住民発意による「瓦絵を活かしたまちづくり協議会」の発足につながり、瓦素材を活かしたアートによる参加型広場づくりが行われることとなった。<広場づくりのプロセス> 早速始まった活動で、資金は県民局の助成金に申請して得ることができ、アドバイザーとしてはアルファに支援を依頼することになった。地元住民のモチベーションを高めるために古い写真を持ち寄り、今後のまちづくりのヒントにしようと「伝えたい昭和の西淡鑑賞会」やアルファ教員の講演会等を実施し、「外からの風」を内部に吹き込む形での高まりが人集めにもつながったといえる。 計画立案は地元住民だけでは技術や経験の不足が心配なことから、アルファ教員や専門家のアドバイスやスケッチによって慶野松原におけるデザインヘの思いをまとめていった。実践的な活動は延べ日数30日、延べ人数159人で、19工種もの作業に及ぶ。ほとんどのデザインは専門家のアドバイスなどがベースになっているが、現場での変更や工夫がいたるところで発生し、驚異的スピードで広場の完成につながった。しかしコアメンバー4人で全体の6割の仕事をしていることが注目された。 活動成果についての報告書を助成金配布団体に提出するとともに、地元中学の卒業予定生徒全員の鬼瓦の制作とその作品を広場に設置することを兼ねたイベントが企画され、各関係者と新聞3社の出席のもとでオープニングセレモニーが行われた。

<地元住民によるWSの意見とアンケート結果による意見>

 WSでは美観として「ごみ問題」「景観の美しさ」「瓦の良さ・美しさを伝えるための工夫」などが挙げられ、これからの夢として「瓦を使う・活かす」「憩いの場」などの意見、多くの人と一緒に活動したい、オープンガーデンと関連付けたい、楽しみたいなどの意見が出された。また、アンケート結果の意見では、「瓦ロードを作って観光の名所にしよう」など、地元、瓦、淡路が誇る景勝地「慶野松原」への熱い思いがあふれていた。

 参加者のほとんどは何らかのボランティアグループに所属しており、それだけでまちづくりへの意欲も高いことが推察されるが、「今後このような活動をまたやってみたいか」との問いには、80%の人が「やってみたい」と回答し、「瓦工場群が花・みどりで修景されれば歩いてみたい町になると思うか」の問いには93%が「歩いて見たい」と回答した。「行政との連携」や「皆で協力するための交流やネットワーク作りが必要」などの意見があった。また、今回の活動の感想を尋ねると、@活動を公開して参加者を募るA定期的に会を持って皆で確認しながら進めるべきB今後は慶野松原から古津路へ瓦を活かしたまちづくりを進めたいC瓦の町としての特徴を活かし地域のPRに専念したい−などの意見があった。しかし、D今回は成功をおさめたが今後の活動は地域によって温度差があり瓦ばかりに囚われることなく、地域の特性を活かしたまちづくりに取り組んで行きたい−など、前向きな感想、意見、抱負が多岐にわたってあった。

<考察>

 地場産業衰退の危機感が背景にあり、地域活性化や瓦を用いた景観美創出への意欲が高かったことに加え、外部(アルファ等)による調査や提案が地元住民の発意を刺激し、教育機関との連携を深めたいとの思いも強いことが理解できた。一方で、活動参加者の年齢が50代から70代が中心で60代が一番多く若い人の参加が少ないこと、実作業のメンバーが固定化したこと、継続的な作業では多くの立場の人の参加が少なかったこと、「わがまち」の魅力の情報発信のツールを持つことも大きな課題となった。

<展望・継続性をどのようにもたせるか>

 今回の活動で参加者の意識が高いことは理解できたが、このような活動を今回だけで終わらせないために核となるような事務局的存在が必要だと思われる。定期的な会合、広報活動、企画デザイン、資金・資材の調達や方法、行政やアドバイザーとの連携を出来るだけ多くの人の参加の中で確認しながら進めていくことが活動の継続には不可欠である。「わがまち」の活性化を望み、魅力あるまちづくりを推進し、自立した市民活動として発展していくためにも行政との対等のパートナーシップを構築していきたいと思う。


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