分岐点(分かれ道)

地域デザイン研究会 理事長 平峯 悠

 日本そのものの信頼性を揺るがす建築物耐震偽装問題が表面化し、それに追い打ちをかけるようにIT時代の寵児としてもて囃された堀江ライブドア社長が逮捕された。勤勉でまじめが特徴の日本の「もの作り」社会が崩壊しつつあるとして、日本の伝統や道徳、秩序をもう一度立て直すべきだという意見が多くなってきている。

 昨年の内閣府の世論調査で、「国を愛する気持ちを育てる必要がある」と答えた人は約8割、日本の誇りに思うところは「長い歴史と伝統」が40%、「美しい自然」が39%、「優れた文化や芸術」が38%の順になっている。これから見ると例えば、数学者の藤原正彦氏(S18年生)の「世界に誇るべき我が国古来の{情緒と形}をもって世界に範を垂れよ」、作詞家阿久悠氏(S12年生)の「自由な社会から自ら日本のタブーを作りあげ、小学校から徹底的に日本を教えよ」という提言はすぐに実行できるように思える。しかし経済効率を優先する人々の行動、自然を破壊しながら進められる開発、礼儀作法や言葉遣いを疎かにした社会生活などの実態を目の当たりにすると、世論調査との乖離が大きいと言わざるを得ない。この原因には世代間の意識構造に大きな差が生じていることにある。

 NHK放送文化研究所が1973年から5年毎に行っている「現代日本人の意識構造」調査には、毎回注目すべき結果が現れている。2003年調査からは世代間の意識変化を「伝統志向−伝統離脱」「まじめ志向−あそび志向」の軸に分けて分析している。

 戦後60年を経過し、毛沢東神話崩壊の歴史的事実が明らかになり、さらにタブーとされてきた日本の憲法改正論議も活発になってきた。またこれまで明確にすることを避けていた日米・日中関係、日本の国際貢献、教育や生活のあり方などについての根本的な議論が始まっていることをみれば、日本全体が「分かれ道」にさしかかっていることは間違いない。社会状況の変化が、世代を超えて日本の伝統や進むべき方向を意識させるきっかけになる。司馬遼太郎の「坂の上の雲」が見えるようになるのではないか。

 まちづくりにおいても、日本人の生き様や作法、自然や季節が感じられる暮らしかた、車から解放された歩く空間や路面電車の復活、人々の間尺にあった空間等をどのようにして実現していくかをここ数年議論しているが、日本社会全体が分岐点にあるという意識で改めて問題提起をしたいと考えている。


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