福祉のまちづくり

〜北欧視察の紹介〜

八千代エンジニヤリング(株) 石塚裕子

 少子高齢化が進行する中で、福祉のまちづくりが話題になることが多くなりました。建築・土木の世界でもハートビル法や交通バリアフリー法などの改正、施行があり、数日前には、この2つの法律を統合した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が国会で可決されたそうです。


(写真1)エレベーター、エスカレーター、階段が一列に並んで整備されており、一目で自分にあった移動手段を選択できる。(スウェーデンKISTA 1970年代のニュータウンの駅)


(写真2)沿道建物の壁面を利用した自転車置き場(デンマークコペンハーゲン近郊の住宅地)


(写真3)吹き抜け空間を利用し、同じ素材を使うなどの工夫で既存空間に融合するEV(デンマーク国立博物館)

 私は、10年ほど前から土木学会等の活動を通じて、福祉のまちづくりについて勉強を始めました。その甲斐あってか、近年は、福祉関連の仕事にたくさん参画できる機会があります。福祉のまちづくりは、高齢者や車いす使用者、視覚障害者など多様な方々の参加を得て検討することが原則です。このため、ワークショップや検討会議など平日、休日問わず仕事ととなり、足裏マッサージ風に言うと“痛気持ちいい”感じで、しんどいけれど充実感のある毎日を過ごしています。

 これ以上、近況報告をするとボヤキになりそうなので、少し古い話ですが、4年前に福祉の先進国である北欧(デンマーク・スウェーデン)に行って感じたことをご紹介したいと思います。

1.ユニバーサルデザイン

 近年、福祉のまちづくりで“バリアフリー”ではなく、“ユニバーサルデザイン”という言葉が使われるようになってきました。ユニバーサルデザインとは年齢や障害などに関係なく、すべての人が使いやすいように初めから考えてデザインすることです。アメリカの建築家兼工業デザイナーのロン・メイスさんによって提唱された言葉で、7つの原則が有名です。

2.北欧でのユニバーサルデザインの考え方(あくまで私見)

■セットで整備されている

 今回の視察の玄関口となったオランダスキポール空港やデンマーク空港、デンマーク中央駅などは、必ず階段、エレベーター、エスカレーターが「セット」で整備されています。同じ動線上でだれもが自由に手段を選択できるように、ほぼ同じ位置に階段、エレベーター、エスカレーターが設置されています。また、トイレも男女それぞれのブースの中に、車いす対応型のトイレが整備されています。

 日本では、新設時でも空間に制約があることが多く、わかりにくい位置にエレベーターなどが整備されていたり、車いす対応型トイレは別の個室になっていたりする例が多いのが現状です。しかし、北欧では必ず「セットで」整備され、エレベーターや車いす対応型トイレが特別な整備ではないことが設備の配置から感じました。その反面、エレベーターのボタンやアナウンスなどは、あまり使い易いものはなく、細部の機能は日本のほうが優れていると感じました。

 細部にはこだわらず、同じ機会を提供するという原則を重んじるという理念を感じました。

■空間を共有し、共存することが前提

 デンマークは地形が平坦なことから自転車利用が非常に多く、重要な一つの交通手段として位置づけられています。このため、街中に自転車専用道路が整備され、通勤や通学、議員さんの登庁にも利用されているそうです。歩道上に沿道建物の壁面を利用した自転車置き場を設置するなど、まちの中には自転車、歩行者、車が共存するための積極的な工夫がされていました。このためか、放置自転車はあまり目に付きませんでした。

 また、鉄道には車いす使用者やベビーカーなどが乗り降りしやすいように車両とホームが同じ高さで、停車時には車両とホームの隙間を埋めるステップが自動で出てくるユニバーサルデザインの車両があります。この車両には自転車、ベビーカー、車いす使用者等が乗れるサインが表示され、自転車とベビーカーなどが同じ空間に乗っている光景がとても新鮮でした。

■デザインすること(美しくすること)へのこだわり

 車いす使用者や視覚障害者等の利用に配慮して、段差の解消やエレベーターの設置、階段の端部の識別化などがされた建築物には、既存施設をリフォームしたものも少なくありません。しかし、まるで最初からユニバーサルデザインに基づいて設計されたかのように自然に、美しくエレベーターが設置されていたり、さりげないデザインで使いやすくする工夫が随所に見られました。

 また、高齢者住宅では住宅全体のデザインが優れていることもさることながら、内部のデザインの素晴らしさに感動しました。共有空間だけでなく、各個人の部屋でも写真や絵を飾り、家具やカーテンなどがコーディネートされていました。これが各個人の趣味に任されており、認知症の方もご自分でコーディネートされていると聞いて、北欧の人々にすり込まれた美しさや生活の楽しみに関する感性を感じました。

■おまけ

 デンマークで有名なチボリ公園にも遊びに行きまし。そこで発見したのは70歳を超えているような老夫婦がおしゃれをして、手をつないで歩いていたことです。それが1組、2組ではないので、びっくりです。しかし、非常に離婚率が高いという話を聞いて、恋愛においても年齢やしがらみ(?)をまったく気にしない、ユニバーサルデザインの徹底ぶりを感じました。(少し意味が違うかもしれませんが・・)

3.おわりに

 最近私は、小学校の総合学習のお手伝いなどもあり、今後は子供から高齢者まで対応できるユニバーサル(?)なコンサルタントを目指してがんばっていきたいと思っています。


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